予想以上
やあみんな、おはよう!
今日の天気は……
ゴロゴロ……ピシャーンッ!!
ザァザァザァ……
ヒュウウウウゥゥーーッ
うん、嵐だね!
全く晴れてた数日前が懐かしいよ!
というか一昨日だね、模擬戦やったの。
なんでこんな二日跨いだだけでこんなに天気が変わるのかな。地球は異常気象だなんだって言われてたけどこれの方がよっぽど異常気象じゃないのかい!?
窓に打ち付けられる雨粒を眺めつつそんなことを思う。建築がしっかりしているのか吹き込んできたり雨漏りなんてことが無い。
そんな今日の朝食は固めのパンと美味しいスープに肉。
それらを若干不機嫌になりながらもしゃもしゃと食べていると、女将さんが食器を片付ける手を止めて話しかけてきた。
「そういやあんたこの辺りの人間じゃないって言ってたね。その顔、この天気に驚いてるんだろ?でも安心しな、これくらいなら昼前には止むし、年に何度かあるのさ。夏が近づいてる証拠さね」
ハハハと笑いながらそんなことを教えてくれたが、確かに周りで飯食ってる人もこの天気に不機嫌になることはあっても驚いてはいない。
なるほど、本当によくある事のようだ。
そして先程の話を元に俺の頭の中の地球知識データベースが一つの現象を弾き出した。
つまりゲリラ豪雨。
局地的な局地的大雨で雷を伴うこともある。あれって地球温暖化がどうとかってモノだったはずだけど、この世界ではわからない。詳しくないもの。
一人納得しながらパンを齧っていると……
ドンドンドン!
ビックゥッ!!
驚きすぎて思わず声が出かけたが、何とかこらえ、音の鳴った戸を見る。
しかし何も居ない現実に背筋がゾワッとなりながらも風のせいだと決めつける。だってそれ以外だとポルターガイストになるぞ。この天気の中出歩く奴なんてそう居ないだろうし。
驚きすぎてパンを落としたらしい。しかしスープ皿に落ちてちょうどいい感じにふやけている。硬いパンもこれなら食べやすく──
ドンドンドン!
「ヒィッ」
二回目は聞いてないぞ!ホラゲでも天丼はダメなんだよ!
洞窟で長く暮らしてたんだから大丈夫だろうって?んなわけないだろ!暗いだけとホラーは別物なんだ!
これ以上は我慢出来ないので肉を無理やり口の中に放りこんで、女将さんに「ご馳走様」とモゴモゴしながら言う。
そのまま食堂脇の階段を駆け上がって部屋に飛び込みバンとドアを閉める。
その音に驚いてベッドに潜り込んで寝ていたネロが飛び起きている。ごめんな。
ズリズリと扉を背もたれに座り込むと部屋の奥からアビーの声が。
「どーしたの?そんなに顔青くして」
本来食事を必要としないため外に出て部屋で待機していた彼女は人型でベッドの影から出てくる。インクに汚れてるあたり作業していたのか。
ちなみに今日はクネイ、カノン、ニーアは外には出てきていない。昨日食べすぎたのだ。
「い、いや何でもない。ただホラゲが現実に現れただけ……」
歯をガタガタ鳴らしながら何かあったかを話そうとするが上手くいかない。
戸の音とかポルターガイストじみていたから思い出すだけで今もガッタガタなる。
ほら今も……
ドンドン!
「ヒィッ!」
い、今の背中が。
真後ろの戸が。
ドンドンって。なんで、今日はこんなに。俺変なことした?
「ポルターガイストじゃなくてメリーさんなんですか……?」
まさかの異世界で西洋の怪異じゃなくてネット界隈の怪異の可能性が出てきた。
「馬鹿なこと言ってないで早く開けたら?」
うぅ、アビーが辛辣だよぉ。前は、前はかわいらしかったのに。
「今もかわいいでしょ〜?」
……はい。
と、こんな茶番を繰り広げている間も背中の戸は叩かれ続けている。覚悟を決めで扉を引くとそこには……
「キャアアアアアァァァァッ!!」
「き〜さ〜ま〜!」
貞子、イヤアアアァッ!!金髪の貞子はゴージャスだけどイヤアアアッ!!
「あれ、貴女は」
「全く、用があって来たと言うのになぜこんな悉く無視されなければならないのか。人が尋ねてきたら出てくるのは礼儀だろう」
アビーもわかるその声が誰のものだったかを思い出そうとすると金髪ということで一人しかいないことに気がついた。
にしても、予想外、いや予想以上に早い再会だ。
「どうも、こういうのってこう……もっと何章か挟んだりお話がいい所になってから再会するのがお約束なんじゃ?大尉殿?」
そこには数日前、依頼で訪れた森の深部で出会った金髪の軍人が頭から靴の先までずぶ濡れになった状態でたっていた。
「何を言ってるのかさっぱりだがな、用があれば来いと言ったのはそっちだろう。用があるから来たんだ。あと私はもう大尉では無い。ただのカイエ・レインスタッドだ」
ほら、と言って彼女は首元の革紐を見せてくるがそこに以前見た軍のタグは無く冒険者タグだけが掛かっていた。
「本来ならこの戦闘服も軍に返すべきだろうが、私の状況と照らし合わせれば貰ってしまっても構わないだろう」
彼女は自身の着る野戦服を摘んで見せてくる。
この雨だ。濡れているのは仕方ないとして前に見た時よりもさらにボロボロになっている気がする。
俺は部屋の中に二つある椅子の片方とタオル代わりの布を差し出して、俺は背もたれを前に座って話を聞く体勢を取る。
「……何があった?」
聞くと彼女は少し話すことをを逡巡する様子があったが、覚悟を決めたようで口を開く。
「私は……裏切られていたのだ。最初からな」
彼女が語ったのは帝国出立時から始まっていた部隊そのものへの裏切り行為だった。
まず彼女率いる部隊に任務が与えられたのが今から数えて四十日前。そして帝国を出立したのが二十日前だ。与えられた任務は以前も聞いた使節団のための秘密拠点の構築だ。
こちらに到着し先遣隊との合流、ワイバーンの襲撃と彼女の生存までは以前聞いた話だ。
問題はその先だった。
俺と別れたあの後、彼女は俺の助言通りに迷宮都市へ向かったらしい。丁度ギルドマスターとやり合ってた頃に到着したそうだ。
そしてそのまま彼女と入れ替わりで立ち去った先遣隊の中尉に会いに行った。
しかし教えられていた宿を訪れても既に出立していた。既に数日経っていたことで諦めかけていたが、すれ違い程度の時間差だったとの事ですぐに後を追う。
迷宮都市から北に向かう道は一本しかない。俺が依頼に行く時に通った街道の事である。
道を進むと相手は馬車だったが街からすぐのところで道から外れ、森に隠れるように停車していた。
野営をする訳でもなさそうな為不審に思い、草陰に隠れて近付かずにいると北から簡素な装飾が施された馬車がやってきた。
一応貴族の馬車のため初めはこれを避けていたのかと思ったが、その馬車も同じように道を外れ森に隠れるように停車した。
ますます不審に思い目を凝らしていると、片方の馬車からはやはりトクトー中尉が。そしてもう片方から降りてきた人物に驚かされた。
貴族馬車から降りてきたのはなんと帝国軍少将。曰く、彼女率いる部隊が受けていた秘密拠点構築に関係する使節団の中心人物らしい。
そんな人物がなぜこんな所にいるのかも気になる点だが、問題はその会話だった。
声しか聞こえなかったそうで、再現するとこのような感じだったようだ。
「おはようございます、少将閣下」
「うむ、して作戦の推移は」
「作戦は成功にございます。こちらへ引きずり出すために閣下の視察を利用し、秘密拠点の構築を理由としてこの森の奥へ引き込みました。日程に若干の遅れはありましたが、第486機動中隊は討伐されました。予定通り、魔物の手によって」
「それは重畳。儂としてもあの女率いる部隊は邪魔でしか無かった。必ず作戦を成功させるだと?くくっ、そんなもの、
「全くその通りですな。知らぬこととはいえ負けるべき戦さえも勝って何度国の政治方針を乱した事か。私たちの仕事が増えに増えるのは勘弁願いたいところでしたが、ようやく解放された」
「苦労を掛けたな。しかし、これで終わりだ。あの女は死に、部隊も壊滅。ほとんど即死だろうが……万一の生存者は捜索したか」
「もちろん。予想通りほとんどの死亡を確認しました。僅かに息の残る男が一人残っていましたがその場で処分しました。あと、女が一人生きていたので同様に処分しましたが……既に壊されて使い物にならないでしょう」
「くくっ、もったいない事をしたな」
「ええ。ですがあの部隊の女は隊長と副長の二人だけです。残る隊長の方は未確認ですが野戦服の切れ端が見つかりました。大方、魔物にでも食われたのでしょう」
「ならば良し。大金積んで捕獲させたワイバーンをわざわざ魔力暴走状態で解き放ったんだ。これくらいの成果でないと困る。まああの女の死に際を見れなかったのは残念だ。手足を失った程度で生きていればいい人形になったものを。あれでも見た目は良いからな」
「仕方ありませんな」
「全くだ。さてそろそろ時間だ。ここに居ることを知っているのはお前と数人の部下のみ。私はこのままそこの街で女でも拾ってから帰る。適当に報告は改ざんしておいてくれ」
「了解です。しかし二ヶ月後の大会議には間に合うようご帰還ください」
「それでは帝国までの帰路で終わってしまうではないか。せめて三ヶ月だ」
「となると……ここより東方に謎の魔物の目撃情報があります。そちらに行ってみては。──ああ、そうです一つ忘れていたことが有りました。既に主菜の仕込みも終えております。早急に行かれた方が宜しいかと」
「くくっ、そうだな。それは楽しみだ。その二つ……皇帝陛下もそれくらいならば許すだろう。では、失礼する」
と、言う感じらしい。なんともまあ……要は嵌められたって訳だ。
そもそもここに秘密拠点を構築することから偽物の作戦。部隊を丸ごと誘き出して用意しておいた凶暴な魔物に全員を襲わせ、不幸な事故として処理をする。
本拠地から遠く離れているために援軍などは当然無くここまでの強行軍で全員疲労状態。ダメ押しと言わんばかりに敵対の魔物は何らかの方法によって暴走している。
彼女の部隊がどれだけ精強なのかは知らない。しかしその状況では敗北は必至だろう。
「よっぽど嫌われていたみたいだな」
「……そうだな」
「出る杭は打たれる、か。そんなに強かったのか?」
「ああ、私の部隊の中で敵との戦闘で戦死したものは編成以来のここ三年、一人もいなかった。国のために勝利は当たり前で、誰もがそう考えていた」
「なるほど、ところでその敵ってのは?この国じゃ無さそうだが」
「この大陸には大きく分けて五つの大国がある。ここダウルス王国、北西のバーシェ帝国、北東のユリウス国、南東のタカラ王国、南西のアルバ山国だ。この他にも各国の庇護下にある小国や帝国北部の小国域がある」
彼女が示した国同士の位置関係はサイコロの五のような配置らしい。で、帝国と現状関係が良好なのはダウルス王国と小国域のいくつか、直接は接していないがアルバ山国らしい。
面と向かって戦争するほどでは無いが双方不干渉を保っているのがユリウス国とその同盟国のタカラ王国。
彼女の部隊がやり合ってたのはそのユリウス国や小国らの兵との小競り合い。やらなくても構わないが、やった方が良いという無駄な慣例のような小競り合いとの事。
それら全てに勝っているのが彼女の部隊だが、その勝利が帝国の一部の人間にとっては邪魔でしかなかったということだ。
「なるほど。で、何故ここに?まあ用があれば来いって言った以上用があるのはわかるんだけど」
「ああ、その事だ。良ければなんだが……」
何故か彼女は言葉を詰まらせる。なんというか言い難いお願いをする時みたいな。
「どうしたんだ?言いにくいことだったり?」
「いや、そうじゃない。なんというかだな……その」
何故か、若干顔を赤らめて彼女が続けた言葉は。
「その、貴様の旅について行かせて欲しいのだ」
「oh......」
思わず漏れたその声を隠すように心無しか、雨音が強くなったような気がするのだった。
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