三年の成長
「にしても、あの攻撃には驚かされたぞ。アビーと言っておったがもしやあのスライムか?」
「ああ。召喚獣最強組のクネイ、カノンと……ネロもか。その三人に続いて四人目だな」
「なるほどの……瞬間的な攻撃威力だとお主の中では最強かもな」
「ああ、まだヘビが残ってるが今あいつは進化直前の昏睡状態だ。まあ一月もすれば進化も終えてるだろう」
「そうか」
俺たちはこの模擬戦で破壊し尽くした床とこんもりと山と化している瓦礫を土魔法で片付けたり修復したりしながら感想を言い合っていた。だが話題は次第に最後に使ったあの砲撃へと移っていく。
「真正面から食らったが純粋な魔力攻撃だった。属性も何も付加されていなかったな」
「ああ、アビーが溜めに溜め込んだ魔力を指向性を持たせて放出する。進化してからようやく指向性を持たせる事が出来るようになったそうだ。というか、あれ真正面から食らってあの傷かよ……」
「くくく、我の防御はそう易々と抜けんという事だ。しかしなるほどの、思いつきもしなかった戦法だ。単純ゆえに強い」
俺もこの前までは知らなかったのだけど、魔法を使うには魔力が必要なのは前提なのだが魔物の中には魔力そのものを操作出来るものもいる。
まあ魔力操作に関するスキル持ちっていう例外もあるが今はいい。
ニーアやアビーが魔力を操作できるそれに含まれるが、アビーは魔力を溜め込んで魔力のまま放出するみたいなことは前から出来ていた。水を貯めたスポンジを絞るみたいにな。
理由はおそらく身体が魔力で構成された粘液体、つまりスライムだからだろう。
しかし指向性は与えられず、身体に口みたいな穴を開けても難しかった。だが進化したことで可能となり気づいたのだ。
魔力は凝縮し圧力を掛けたまま放出すればそこらの魔法よりも遥かに威力が高いと。それを利用したのがあの攻撃だったわけだ。
「それで傷一つなニーアは改めてバケモンだと思ったよ」
先程の戦いの結果に呆れるも、彼女は得意げに胸を張る。
「くくく、我は神話で語られる存在ぞ?まあよい。あの攻撃、我も出来るだろうが……すぐには難しいの。そういえばお主、今更ではあるが、進化が近づいてからしか召喚獣に名をつけていなかったでは無いか。いきなりどうしたのだ?」
「ああそれか。一番の理由は進化に必要だったということなんだけど、次点で……愛情だな。ここまでずっと一緒に居たのに名前もないんじゃなあ」
「そうか。でもわかっておるな?名とは呪いだ」
「ああわかってるよ。呪いであり、縛りであり……しかし力だ」
彼女は厳しい顔で俺に忠告するように言う。
そう、名とは呪いだ。地球でも名前による呪いは多い。なぜなら名前とは個体を示すものだが個体を縛る鎖だからだ。
まず魔物というのは大きくわけて二つに分かれる。名前付きか、それ以外かだ。
そして名前付きにも二つあってより強力となるか、より弱くなるかだ。しかし一般的な常識だと名前付きの魔物は強力とだけあるらしい。
その真実はどうも、名前付きの魔物で弱くなった場合すぐに自然に淘汰されるため強い個体のみが残るからだそうだ。
弱くなるにしても強くなるにしても過程は同じだ。結論から言えば名前により個として確立するからである。
人と違い魔物には名前はない。あるのは種としての全体だけだ。
群れを成す魔物、一匹狼な魔物、そのどちらも根本は魔物の種である。魔物の種というのはコミュニティだ。しかし名が与えられることでその個体は種から弾かれる。
例えばゴブリンならただ一体の個体を指してもゴブリンでしか無いが、ここに名が入るとゴブリンの○○となる。
ゴブリンの中の一個体として認識されるわけだ。そうなったのならばもはやそれはゴブリンでは無い。ゴブリンという種の○○というように変化してしまうのだ。
それにより種では無く個体として確立された魔物はいわゆる成長限界が変化する。これが弱くなったり強くなったりする理由だ。
ここはアビーで例えてみよう。彼女は一番最初の頃に召喚獣となったスライムだ。
種族名は後ほどにするが、この三年間で進化を重ねてきた。しかしある時、成長が全然伸びなくなった時があった。
今までかなりの勢いで成長してきたからスランプかと思ったが俺は気づいたのだ。魔物だってレベルがある。ならば成長限界に達したのでは、と。
そこでニーアに魔物の強さについて聞いて同時に名前のことを知った。アビーの他にも似たような状態の召喚獣たちは居たからな、解決策や結論を知りたかった。
まあそれからは調べる事はあまり出来ないから実際にやってみようという事でやってみた。
何度か実際にやってみたところアビーのような進化を重ねた魔物は強く、進化どころかレベルも上がってない魔物はより弱くなった。
そこでとある仮説を立てた。名前とはドーピングだ。進化やレベルアップで身体が耐えられるならより強く、耐えられなければ真価を発揮出来ずに弱まると。運要素もあるようだけど、俺は身体の強さだと結論付けたのだった。
「現に強くなったようだし、我が言うことは無いがな。ところでお主はどうなった。我と契約する実力はあることはわかったが」
「まあぼちぼちだな。クネイたちに置いてかれないよう頑張ったよ」
「なら良い。早いところ片付けて契約を始めようぞ」
この三年間で変化したのは当然ながら召喚獣だけでは無い。ニーアとあれだけの戦闘を繰り広げられるだけ俺も実力を上げ、ステータスも変化している。
現在はこんな感じ。
〈ユート〉
Lv128
〈召喚術・女帝〉〈魔力増加〉〈六魔の極〉〈悪食〉〈投擲〉〈弓術〉〈狙撃〉〈棒術〉〈暗殺〉〈天駆〉〈城塞〉〈全耐性〉〈糸〉〈賢者〉〈叡智〉〈
レベルに対してスキルが少ないと見えるがぶっちゃけチート塗れだ。なんでステータスにレベル表記があるものと無いものがあるのかと言うと要はカンストだ。これ以上上がらなければこんな表記になる。
先の模擬戦で使用したのは〈天駆〉とかだな。これはスキル〈天歩〉の派生だ。その気になれば空を走り続けられるし、ホバリングのように浮くことだって出来る。
他には〈六魔の極〉、これは全属性の魔法をカンストまで持っていった時に習得したスキルで、魔法の改変が可能となった。それにより〈
〈全耐性〉は文字通りそのままで今の俺にはマジで火も氷も何も効かない。
火とかの現象が効かないってことであって物理攻撃の刃物とかは全然受けるし、氷の弾も当たれば痛いけどな。
さて、〈六魔の極〉の時点で十分ヤバいと思うが、俺の持つスキルで最高にヤバいのが〈賢者〉〈叡智〉〈
とりあえず順にいこう。まずは〈賢者〉と〈叡智〉から。
これらはいわゆる統合スキルだ。
特定のスキル複数をカンストまで持っていけば手に入る。
〈六魔の極〉もこれに含まれるな。そういやこれらには最初からレベルは無かったな。称号に近いものなのだろう。それでも性能はグンと上がったが。
〈賢者〉の場合なら三年間に俺は〈並列思考〉や〈思考加速〉、〈魔法超過〉というスキルを取得した。
まあどれもぶっ壊れなんだけど最後の〈魔法超過〉は魔力が続く限り魔法の威力や効果を制限無しに上げられるというものだ。
普通魔法というのは魔力を注ぐほど威力などが増加する。
しかしある一定までいくとそれ以上上がらなくなる。魔法の暴発を防ぐリミッターってやつだ。この〈魔法超過〉はそのリミッターを取り払うって訳だ。
その三つのスキルが統合されたのが〈賢者〉になる。並列思考はより多くの物事を、思考加速は並列思考含めた全ての思考を加速させる。
あれだけの魔法を一度に展開出来たのはこれのおかげだし、〈魔法超過〉のおかげで撃ち合いにも耐えられた。性能が上がったことでより多くの魔法が使えたな。
もう一つの〈叡智〉は〈鑑定〉〈探知〉〈夜目〉ともう一つ〈視覚〉というスキルの統合だ。〈視覚〉は自身の見える範囲が広くなるというもの。
それは可視出来る光の範囲が広がると同時に魔力さえ見ることが出来る。その気になればサーモグラフィーのように見ることだって可能なのだ。
それらが統合された〈叡智〉は鑑定の制限が無くなり、3Dレーダーのように探知が出来、千里眼のように数多の場所を見ることが出来る。
組み合わせれば視界に入っていない場所でも見ることが出来るのだ。
というか、ここに突っ立ってるだけで外も見れるし、なんならそのまま鑑定だって出来る。初期に居た崖を見て召喚術の視認契約することも出来る。かなり便利だな。
さーてこっからは問題児どもだ。〈
こいつらは気づけばいつの間にかスキル欄に居た。ニーアに聞いても何もわからず、かつ鑑定すると……
〈
人が得た罪の証であり罰の象徴。樹であり実。万物に通じそれは獄門にも宇宙にも通ずる。手が届くのなら伸ばしてみよ。汝は与えられた。唆す愚者は堕とされて、深淵すら呑む狂気の理性の塊は、嚥下し酔った生者となりて我らへと至らん。
〈魔の智慧〉
善と悪が存在するのならばこれは悪だろう。しかし存在しないのであればこれは力となるだろう。賢者として与えられし者は秘すれば良い。愚者として与えられし者は如何様にでもするが良い。零れ落ちた物は拾われない。振るう力は須らくまともなものかと思うだろう。しかしどちらもまともであった事が一度でもあったのだろうか。
〈暴食〉
喰らうとは力なり。喰らう者は強者なり。弱きを喰らうのならばこれは強者である。しかし強者をも呑み込むのならば汝は何者か。この愚かな業を背負うのならば覚えておくがいい。喰らう欲と満たされぬ腹は逆立ちした虚妄なり。
〈空虚乃支配〉
汝は地底を見上げるか。汝は天を見下ろすか。無を超え虚を産み全は個にして一は無限である。次元は同一線上にあり時間は並行して過去が行き交う。全てに触れ呑む腕は細長く狭間から覗く目は一つ。縛る鎖は無くして形も無し。空は地底に、底は天にと望まんと、願う教えは問となる。万物は虚にして虚ろは是である。汝は天を見下ろすか。汝は地底を見上げるか。
この通りである。哲学じみてるというか宗教的というか。にしても〈
とにかく、これらはスキルだから使うことが出来た。まだ全てが理解出来たとは思えないが、最低限わかったことだけ纏めておこう。何やらニーアが俺に用があるみたいだしな。
〈生命乃樹〉…傷の回復や魔力の回復など身体の回復に関するスキル。詳細は一切不明だが体調がいいような気がする。
〈魔の智慧〉…魔法の出力が大幅に上昇する。今までが10なら70くらいまでに上昇している。
〈暴食〉…名前からしてヤバいが、魔物の肉を食った時は文字通り際限なく食べることが出来た。また、〈空虚乃支配〉との組み合わせが可能だった。ただ、別に空腹感とか満腹感が無くなった訳では無いからスキルの適用範囲がどこまでなのかを知る必要がある。
〈空虚乃支配〉…まず左腕が寄○獣みたいに変化した。普段は何の変哲もない左腕だけど意識すると腕が指先から二の腕の中程まで先端に鋭い爪と内側に小さな牙の付いた触手になった。表面はヘビのようで動きはタコ。伸縮自在で、今は最大で30mまで伸ばせて、少なくとも挟み込んでいれば呑み込む事が出来る。呑み込んだものは〈暴食〉のスキルが関係していると思われる。
今後も調査していくとして……ニーアはなんの用だろう。
「お主に伝えなければと思うてな。我は今からお主との契約の為一時的な眠りに入る。要は繭を作る。そのため数日だが我は何も出来ぬ、万一の時は頼むぞ」
「なるほど、わかった。目が覚めるのを待ってるよ、数日とはいえ寂しくなるな」
そうか、初めてニーアを見た時は幼虫だった。それが成虫に、か。それに繭って事はあれ蛾の幼虫だったんだな。……そういえば俺一度もニーアの素顔見たことないんだよな。いつもベールがあったから。
「我もだ。では、後ほどな」
「おう、素顔が見れるのを期待しとくよ」
そう言ってニーアの分身体はもはや住み慣れた家となった結界のある空間から霞のように消えたのだった。
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