旅立ちと進化
「射出……っと
伸ばした右の人差し指から細い何かが飛び出たかと思うと指先に黄金色に輝く小さな球体が同色の魔法陣と共に出現した。
直後高速で発射され、暗闇の先で命中する。
「グギャッ」
「よし、さすがに糸伝わせれば確実に命中か」
ここは拠点のある空間から伸びる道の一つ。相対していたのはもはや見慣れて食べ慣れたカエルだ。
雷弾が当たったカエルは黒焦げになる。ふむふむ、即死か。魔力消費は思ったよりも少ないし実戦も可能かな。
いつも召喚獣たちに頑張って毒とか牙で仕留めてもらっているが、俺もこうして狩りに参加出来るようになった。
そう、俺は魔法を使えるようになったのだ!
あの魔法概論を読んで俺は魔力の扱いとか諸々を学んだ。
お陰様で俺は風属性と雷属性の魔法が扱えることがわかった。魔法概論によると得意不得意はあっても適正というのは無いらしいがな。
とにかく、俺は個人的な戦闘能力が向上した。これだけでもこの大迷宮を生き残る術が増えたと言って良いだろう。
まだ使える魔法は風属性の風刃、雷属性の
さて、能力もといスキルをもう一つ手に入れた。それが〈糸〉。そのままの意味だ。
元は蜘蛛の魔物が持っているスキルで、以前の狩りで死んでしまった召喚獣の肉を食べて得た能力だ。
彼らはこのスキルを使って巣を張っていたらしい。
このスキルはかなり便利で、まだ俺の糸はそこまで強度は無いが指先から射出できてかなり遠くまで飛ばせる。しかもさっきやったように雷弾を乗せることが出来るのだ。
言わば補助輪みたいなものである。蜘蛛たちを見るに強度が上がればターザンみたいなことも出来るだろう。
「レベルも上がったし……そろそろ行くか」
今のステータスはこんな感じ。
〈ユート〉
Lv35
〈召喚術・女帝〉Lv8〈鑑定〉Lv7〈魔力増加〉Lv6〈探知〉Lv5〈夜目〉Lv8〈悪食〉Lv7〈超音波〉Lv3〈粘液射出〉Lv1
〈隠密〉Lv4〈天歩〉Lv1〈剛体〉Lv3〈火炎耐性〉Lv3〈氷結耐性〉Lv3〈聖光耐性〉Lv3〈暗黒耐性〉Lv3〈石化耐性〉Lv3〈痛覚耐性〉Lv3〈糸〉Lv3
だいぶ上がったよな。この空間じゃもう敵無しだ。各種スキルもそうだが効果が目覚ましいものがある。それが〈魔力増加〉のスキル。
このスキル、最初は実感が無かったのだけどここ最近召喚獣たちを一気に出していても何も思わなくなったのだ。
そもそも一気に出すことが稀だが、今までは一気に召喚してしまうと気分が悪くなったりしていたのだ。
だが、このスキルのレベルと俺個人のレベルが上がる度にそれも無くなっていった。
そこから察するに、魔力増加というのはそもそもの魔力を増やすんじゃなくて、レベルが一つ上がる事に増える魔力に少し上乗せして魔力を増やしているんじゃないかということだ。
地味だがこれはかなり大きい。当たりのスキルだったな。
っと、そうだ。もう一つ報告っぽいのもある。
ここで召喚獣たちのステータスも紹介しておこう。なんと、召喚獣初期メンバーに凄いことが起きたのだ!
〈スモールスパイドル〉
Lv2
〈糸〉〈毒牙〉
〈スモールセンチピード〉
Lv2
〈剛牙〉
〈スモールスライム〉
Lv2
〈弱酸〉〈粘体〉
こんな感じだ。なんと名前がレッサーからスモールへとランクアップしたのだ。鑑定によると進化と言うらしい。彼らのステータスはレベルが10になった途端にこうして進化が起きたらしい。何故「らしい」なのかと言うと俺が寝ている間に進化したからだ。レベルが少なくなっているのは進化すると能力はそのまま、レベルだけが元に戻るらしい。実質10+2のレベルと思っていいだろう。皆揃って進化したからパッと見はレベルがみんな低く見えるが、実際はかなり強力な集団になっている。
「みんな、一回集まってくれ」
多くの魔法陣が展開され俺の前に召喚獣組が勢揃いする。数も増えた。今はこんな感じだ。
〈スモールスパイドル〉Lv2 ×5
〈スモールセンチピード〉Lv2 ×5
〈スモールスライム〉Lv2 ×5
〈ハイドブラックスネーク〉Lv19 ×1
ハイドブラックスネークはそもそものランクが違うからレベルの上限も高い。おそらくLv20が上限だろうと睨んでいる。
「みんな、これから俺たちは自らの強化のためここよりさらに下へと向かう。おそらくこの中で誰か死んでしまう事もあるだろう。それでもみんなついてきてくれるか?」
彼らは静かにこちらを見つめる。彼らに自我はあっても感情は無い。だが彼らの目は俺への忠誠と共に力を求め、俺に着いてくるという強い意志を感じた。
「ありがとう。それじゃあ、行こう!」
俺はナイフで伸びた髪をバッサリと切り、ここ一ヶ月以上ずっと住処にしていた魔物の頭骨から飛び降りる。それに追随する召喚獣たち。地面に落ちるとズンと足に響く衝撃が来るが剛体のおかげでそこまで痛くはない。
同時に召喚獣の大半を解除する。出しているのはハイドブラックスネークを除くそれぞれの種族一体ずつだ。
ナイフを抜いて隠密を発動した状態で俺は二番と名付けた通路へ向かう。この通路は他の三つと違って地下へ行くことがわかっている。ハイドブラックスネークが教えてくれた。ここから下は現在いる中層の上部から中層下部、そして下層に向かえる。
俺は期待、そして僅かな恐怖と共に住み慣れたこの空間を旅立つ。
★★★★★★★★★★★★★★
「くっそ……なんで見つからない?」
あの心地よい住処を出て一週間。俺は下へ続く道、または地形を探していた。
迷宮内の狭い道を彷徨った結果この周辺は探索し尽くした。この大迷宮は大陸そのものの地下を覆うデカさだ。探索出来たのはせいぜい半径十数キロ程度の範囲だろう。
そうそう、見つからないって言ったが少しだけ意味が違う。俺が下ってきた道とはまた別の上へ行く道は見つけたのだ。
だが、目的は下へ行く道。今は未探索の区域へと向かう最中なのだ。
その間も襲ってくる魔物を倒し続けてレベルは上がり、魔物たちの進化が近くなっている。
というのも、待ち構えるのではなくこちらから出向いているからだ。
幸い狭い道でほぼ一方通行だから魔物が来る方向が限定されて効率は良いし、俺の戦闘経験も出来るから良いことずくめなのだ。前に出る戦闘は召喚獣に任せて後ろから風刃や雷弾の魔法打ってるだけだけど。
それはそうと実は魔物の分布が変わるくらい移動している。俺が居た辺りは蜘蛛や百足、カエルなどが多かった。が、今は……
「ガウガウッ!」
「キュイッ」
こちらへ走ってくるサメのような背びれを生やした狼型の魔物を天井に張り付いていた蜘蛛が小さく鳴き、狭い道に糸を一瞬で張り巡らせ、その身体を捉える。
動きが止まったその隙に壁を走る百足が素早い動きで首をピンポイントで噛みちぎり狼を仕留める。
彼らも手馴れたチームワークでこの周辺の魔物は余裕であった。
元々上層に住まう弱い魔物だが罠を使って繰り返した戦闘とレベルアップは単純な個体の強さだけではなく全体でのチームワークを育んだのだ。
「みんなお見事。よし、晩飯はそれにしよう」
近くにある岩の裂け目に潜り込んで、入口に糸を張って貰う。
この周辺は岩がいくつも組み合わさったような地形で、所々に人が入れるだけの隙間があるのだ。ここ数日の寝床はこの隙間だ。
スライムがベッド代わりになってくれるから寝心地は良好だ。
いつからかスライムたちが寝てる俺の下に潜り込んでクッションになっていたのだ。いつ知ったのかはわからないが、ありがたい。ご褒美は何がいいかな。
それはそうと俺の食生活にも変化が生まれた。取れる魔物の肉もそうだが、魔法が使えるようになったからだ。
雷属性の魔法は火と風の複合魔法に属するらしい。俺は火属性魔法を使えないが、知っての通り雷というのは物を焦がすことが出来る。
この手元の生肉に自分で出した糸を巻き付けてそこに雷弾を打つ。すると……
ジュー
このようにいい感じに熱が通った肉が完成する。偶然の産物だけど、ついに血の味がしない焦げた味がする肉が食えるようになったのだ。
どっちにしても肉本来の味だけど生よりは焼いた方がいいのは当然だろう。
俺の取り分の肉以外は皆を召喚して食べさせる。ハイドブラックスネークはここは狭いから召喚出来ないが、召喚をしない状態だと空腹とかも無いと調査でわかっているから心配ない。
食い終わったらあとは寝るだけだ。明日も移動しなければならない。早いうちに寝て、体力の温存を───
ズズン……
パラパラ……
うん?
またか。何が動いているんだろう。
実はここ数日、魔物の分布が変わったあたりから変な現象が起きている。
今みたいに天井が揺れるのだ。それに従って小さな砂や砂利程度だが頭の上に落ちてくる。
ここは大迷宮だから何かヤバいのが居てもおかしくは無いけどこんな大規模に影響を及ぼすような何かってなんだよと思ってしまう。
ただ俺自身に何か影響がある訳じゃないからそこまで気にしては居ないんだけど。
でも怖いものは怖いから早いところ抜けてしまいたいってのが本音だな。だって揺れてるんだから床が抜けても───
ピキピキ……ビシッ…………
え、
ズゴゴゴゴゴオオオオオォォォォッ!
唐突な浮遊感。イメージとしてはハンモックの紐が切れた時の浮遊感。
「うそうそ、うそだろ勘弁してくれぇ!!」
股間がヒュっとなるあの感じと共に突如感じる猛烈な寒気、そして暴風。
咄嗟にリュックは掴んだものの、それ以上は何も出来ず……
「やばばばば……っ!」
手足をバタバタさせても何も無く、ただ一緒に落ちてる砂利とか石に当たるのみ。
どれだけ落ちてるのかわからないが、目の前の暗闇に何やら映画みたいなのが映り出す。ホロウインドウとかでは無い。
嗚呼、これが走馬灯と言うやつか。
信じちゃいなかったけど実際に死にかけると見るもんだな……
ははっ、結局ユウカには会えず、このまま死ぬのか……
せめてもう一度くらい会いたかった。
そうだ、こいつらは俺が死ぬと……
「ってそうだ!解除!」
走馬灯から一気に覚醒し一緒に落ちているであろう召喚獣たちを召喚解除して死なないようにする。まあ、このまま落ちてったらそれも無駄になるだろうが。
すると頬に何やら冷たいものが当たる。が、それが何かを気にする間もなく───
「わぷっ!?」
───突如身体にぶつかる何かによって俺は意識を失ったのだった。
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