はじめてのおつかい(依頼) 破

「よっと」


「グギャ!」


 青龍偃月刀のような形状の刃先を生成した杖を片手で振るって目の前のゴブリンの首を刎ねる。


 ワラワラとこちらへ向けて突進してくる1m大の人型の魔物。

 人型だが緑色の肌で、宇宙人のように目と耳が大きく、足は短く腕は長い。その腕には木を荒削りした棍棒のようなものを持っている。


 マスコットにするには無理がありそうな見た目のためぶっちゃけあまり忌避感は無い。

 というかこの世界で魔物とわかり切ってる相手に慈悲をかける方が命に関わるので死にたくなければ魔物は殺すべしなのだ。

 だから離れたところのゴブリンには火弾ファイアボルトで頭を撃ち抜く。


 マモノ 殺すべし、慈悲はない。


「大抵の魔物はハイク読めないけどねー」


 アビーさんや、そのネタどこで知ったんだい。ねえ、ゴブリンの頭を自分の触手で貫いてないで教えてよ……


「主、左からゴブリン五、コボルト二です」


 周囲で同じようにゴブリンと近接格闘戦を繰り広げているカノンから報告が入る。


「了解。コボルトは俺がやるからゴブリンをみんなで頼む」


 そう言ってゴブリンよりも一回り大きいシェパードを直立二足歩行にしたような魔物、コボルトと向き合う。手には石を割ったのか、石器を持っている。

 こいつらは明確な武器を持っているのもあってゴブリンよりも力もあり、素早い。代わりにゴブリンに比べ数が少ないのだが今日だけでもう二十体は討伐している。


 ゴブリンに関しては数え切れないほどだ。

 ゴブリン討伐ってのは普段からこんな感じなのか……だとしたらこの世界の冒険者は予想以上に強いのかもしれない。


 ブンと音を立てて片手で振るわれる刃は容赦なくこちらへ走ってくるコボルトの頭部を斬り飛ばし、残るもう一体は〈空虚乃支配ヨグ・ソトース〉によって変化した左腕の触手と爪で首を貫いて殺す。


 どちらも間合いの差が顕著に出た戦闘だ。

 素早いはずのコボルトも俺にとっちゃ遅いしな。

 

 ゴブリンの方はどうかな?

 少し離れたそちらを見るとまずカノンがゴブリンの顎を蹴り上げ、クネイが蹴りで胸部を陥没させ、アビーが頭部を貫き、ネロは寝ていた。


 戦闘自体は10秒足らずで終了する。その結果は死屍累々、いやこれは正しくないな。死体だらけの方がいい。

 なぜなら血こそ吹き出しているがバラバラ殺人事件のように惨たらしい様相では無いから。


 戦闘が終わればやることは別にある。むしろ戦闘よりこっちが大変な気がしているのは気のせいかな?

 

「みんな討伐証明部位は覚えてるよな?さっき説明したし」


 討伐証明部位とは文字通り討伐を証明する部位だ。ゴブリンなら右耳、コボルトも右耳だ。要は豊臣秀吉の耳塚と似たようなものだ。


「えっと……左だっけ?」


「クネイ残念。次、アビー」


 さっき教えたのにもう忘れたのか。

 クネイ、可愛らしく首を傾げてもダメだよ。後でお仕置な。


「右だったかな?」


「正解だ。アビーはよく覚えてるな」


 うんうん、ニコーって笑う顔がなんとも愛らしい。カノン?彼女は必ず正解するからなあ……

 

 チラッ


「……主」


「……何その顔。もしかしてやりたかった?」


「(コクリ)」


 マジで?

 カノン最近だいぶはっちゃけて来てるなあ……前はもっと冗談とか一切しないガッチガチに規則守るタイプだったのに。時は人を変えるのね。


 しみじみとそんな茶番をしながらも手はちゃんと動かしてゴブリンとコボルトの耳を回収していく。それが終われば目を覚ましたネロの出番だ。


「よし、ネロ。頼む」


「はーい」


 相変わらず眠そうな彼女だが、彼女が戦闘に参加しない理由はこれだ。

 彼女が杖を振ると空間が揺らいで黒っぽい半透明の玉がいくつも出現する。それはフヨフヨと浮きながら死んでいるゴブリンとコボルトの元へ行く。

 そしてもう一度彼女が杖を振るとその玉は体内へ侵入する。

 するととっくに死んでいるはずのゴブリンたちに変化が現れた。ピクピクとだが腕が動き出したのだ。


「うーん何度見てもこれは……」


 それから始まった目の前の光景に俺とクネイは苦笑する。


「ちょっとエグいよね」


 動き出したゴブリンたちの腕。ピクピクと震える程度だったのが次第に腕が持ち上がり、突如胸を掻きむしり始めた。そして爪を立て、肉をえぐりその手を沈みこませていく。

 手首まで体内に入ると何体か腕を引き抜き始めた。その手には小さな宝石のようなものが摘まれていた。


「うん、出てきた」


「ありがとうネロ」


 彼女の頭を撫でて労う。

 彼女にやって貰ったこの作業、これは魔石の採取だ。

 魔石というのは魔物の体内に生成される魔力の結晶でこれがあるか無いかで魔物との区別がされる。

 しかしギルドで調べたりすると実際はコミュニケーションが取れたりする場合もあるみたいで曖昧らしい。だってクネイやカノンたちにも魔石は存在しているからな。


 話を戻すがこの魔石という物質は魔物が魔物である為に必須のようで仮に砕かれたりした場合即死するとのこと。

 そのためにゴブリンなどであれば堅牢な胸骨の下にあり取り出すのが面倒なのだ。そうボヤいたらネロに提案されたのがこの方法。


 作戦名、ネロの魔法の死霊魔法で死体を動かして自分で取り出させれば良いじゃない作戦、というものである。

 結果として地上波じゃ絶対に流せない映像になっているが物理的に手を汚さずに魔石の回収が出来ているので中々に楽だ。


 何故こんなR-18なことをしながら魔石を回収するのかと言うとどうやら魔石というのはいわゆる電池のような扱いが出来るらしい。

 魔道具という魔法が発動出来る道具があるようでその原動力になっている。


 他にも使い道があってそれは魔法の発動媒体、俺の持ってる杖とかに使う。

 魔石ってのはうちのものづくり担当アビー曰く魔力を通すらしくて魔物のランクが上がるほど魔力をよく通すそうだ。彼女は純度と称していた。

 その純度が高ければ高いほど魔力を通した時の制御がしやすくなり魔法の制御もしやすくなるらしい。


 だからこの杖を作る時も今純魔光石が嵌っている杖の両端だがこの部分に何を使うかで当時一悶着あったのだ。

 ランクの高い魔物の魔石か同じく魔力を通しやすい純魔光石か。どちらも純度はほぼ同じ。あとは見た目の問題だった。結局純魔光石になったけどそのお話はまた別で。


 魔石回収役のアビーも作業が終わったらしい。

 よし、奥へ進もう。


 ゴブリンとコボルトの討伐依頼には制限が無い。森の奥へ行く必要があるもう一つの依頼を達成する間に遭遇したら討伐すればいい。かなり楽な依頼だ。


「なあクネイ。ここまでで変な気配とか感じるか?」


「うーん、そういうのは無いかなあ。でも魔物の様子は変かも」


「変?それってどういうことだ?」


「うーん、何かから逃げてるというか……」


 何かから逃げてる、か。

 俺たちの中で一番索敵に優れたクネイが言うならそうなんだろうな。気を引き締めて進もう。


 そういえば……ニーアはどこに行ったのだろう?


 辺りを見てもあの目立つ黒いドレスは見当たらない。勝手に俺の中に戻った訳でも無さそうだ。はて何処に……


 そう思っていたら背後から声が掛けられた。


「ここだ」


「あ、居た。どこに行ってたんだ?」


「気になることがあってな。クネイの言うことは正しいかもしれん。確証は無いが何か居る気がする。悪寒……と言うのが近いな」


「ニーアが悪寒ねえ。槍でも降るんじゃないのか?」


「馬鹿を言え。迷宮と感覚が違いすぎてな。索敵も上手くいかん。少しすれば慣れるだろう」


 軽口を叩き合いながら森の奥へと進む。〈戦翼フリューゲル〉を使って奥へ行ってもいいがそれでは面白くない、余程不味くならない限りあれは封印するのだ。



 さらに奥へ進むと木の太さが変わってきた。ここまでで二時間程度。それまで木は直径50cm程度だったのがこの辺りからチラホラと1m以上のものが出てきている。

 木の種類が変わったのか?だとすれば周辺の環境も変わってることになるけれど。


 と、またもやゴブリン。今度は30体程度と数が多い。

 しかし様子が変だ。こちらが気づいてから向こうが気が付き、こちらへ駆けてくる。

 実は今までの戦闘はどれもクネイたちがゴブリンに気づくのとゴブリンがこちらに気づくのがほぼ同じタイミングだったのだ。

 理由は感知能力が高い魔物だから。


 しかし今回はこちらが気がついてもすぐにはゴブリン側は動く様子が無かった。しかもこっちへ戦闘に来る様子もどこか鬼気迫るものがある。

 がむしゃらに棍棒を振って威嚇をしてくるのだ。


 ゴブリンたちの背後に黒幕が居たり……なんてこともあるのかもしれない。


 とりあえず向かってくるゴブリンを二つに分断するために集団の進行方向のど真ん中に土属性魔法で壁を作り出す。

 土が生成された石を巻き込んで高速で盛り上がる。


「グギャギャ!」


 あえてギリギリのタイミングで作り出したからゴブリンは対応が出来ずちゃんと二つに分かれた。


 こっちは俺とクネイ、もう一つはカノンとアビーで分かれた。

 ネロは相変わらず寝てるしニーアは静観している。


「カノン、初手で一気に数を減らす。その後は好きにやっていいぞ」

 

「はーい」


「なら早速……〈雷杭サンダステーク〉」


 杖を上に掲げると杖の先に魔法陣が展開され、同時にゴブリンたちの頭上にバチバチと音を立てる雷の玉が現れる。

 それはゴブリンたちの動きを追従してこちらへ向けて接近してくる。


「射出」


 ゴブリンとの距離がちょうど5mくらいになったところでそのまま振り下ろす。

 バチバチと音を立てたまま、それはゴブリンたちの目の前に着弾、そのまま杭のように形状を変化させ、止まれずに突っ込んだ哀れな十体程度を黒焦げの肉塊に変化させた。


「クネイ」


 名を呼んで間も無く、真横を風となった白黒が通り過ぎる。


「やあ!」


 気の抜けるような掛け声とは裏腹に彼女の繰り出された蹴り上げは顎を捉えゴブリンの頭部を一撃で胴体と千切れさせた。


「はあ!」


 足を入れ替え流れるように繰り出されたミドルキックが一気に三体の首を刎ねる。


 いくらゴブリンが弱いと言ってもこんなに軽々と足で首を刎ねるとは。

 はっきり言ってどれも人間技では無い。まあ彼女たちみんな人間じゃないけど。


「クネイに負けてられないな。好きにやっていいと言ったけどさ」


 杖の先に先程と同じ刃を生成し、縮地でクネイが戦闘を行うエリアに飛び込み、振るう刃で一気に二体の首を飛ばす。


 同時にクネイが残る一体の胸部を潰してこちらは戦闘終了。


 戦闘音がしないから向こうも終わっているのだろう。こっちも早いところ回収しなければ。


 魔石はネロが取ってくれるから俺たちは耳を回収する。耳はゴブリンの耳だと判別出来れば問題無いから魔法なんかを駆使して切断していく。


「こっち終わったよー」


「おっけー、じゃあ二人と合流だな。……そういえばクネイ、気になってたんだけどさっきからどうして近接戦で手を使わないんだ?」


 彼女だけでなくカノンにも言えることだが二人は人型の時や半獣形態の時は魔法よりも近接戦を好んでいた。その時は両手足全て使っていたはずなんだが……


「だって汚いもの。なんというかゴブリン自体がばっちい感じ?」


「なるほど……」


「それに好き好んで血に触りたい訳じゃないし。特にゴブリンとかはね」


 地球の作り物と同じくゴブリンはこちらでも汚いようだ……


「主、こちらのゴブリン14体の回収終わりました」


 壁を挟んで作業していたカノンも終わっていたようだ。ネロも既に魔石の作業を始めているのだけど、一人足りない。


「カノンもありがとう。あれ、アビーは?」


「それが、向こうになにか見えたと言って行ってしまい……」


 向こうに?

 カノンが示した方向は森の更に奥。一体何が……


 そう思った時だ。


「ユートー!こっち来てえ!人が倒れてる!」


 アビーの声だ。そこまで離れていない。

 それに人が倒れてると言っていた、助けない訳にはいかないか。


 クネイたちと急ぐとそこには……


「こいつは……野戦服?」


 この森では十分な効果を発揮することは出来なさそうな灰色の迷彩が施された野戦服を来た人間、それも……


「主、まだ息があります。しかし足が腫れていますね……こんなに小さいのにどうして」


 倒れているのが十二歳程度の少女だと?


 カノンが駆け寄り様子を見る。

 この状態では詳細な怪我の有無もわからない。

 とりあえずこの付近に野営を設置することを皆に伝え、俺も準備に加わる。

 

 しかし、何度見ても目の前で倒れているのは白金髪を持った少女なのだった。






★★★★★★★★


〈ゴブリン〉

Fランク

人型魔物で最弱。筋力も無く知恵もない。子供でも倒せる。

しかしそれは単体でのこと。ゴブリンの最大の特徴はその繁殖力であり、雌としての機能を有するものならば大抵の動物及び魔物を苗床に変化させることが可能である。同時に性欲も旺盛でごく稀に木の洞や蜂の巣に腰を振るゴブリンが目撃される。


〈コボルト〉

Fランク

人型魔物の一種。ゴブリンに比べ筋力はあるが知恵がない。

その筋力で石を割り、武器を作ることは出来る。

このサイズの魔物にしては素早く、冒険者だけではなく家畜にとっても天敵である。ただし数は少ない。

ゴブリンの苗床にされたコボルトが稀に確認される。

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