第16話 夜空の母親とイスカの父親
昔の話ではあるが。
俺は.....保健室の女性の先生に恋をした。
その理由としてはイジメっ子から俺を守ってくれたから、だ。
だからとても大好きだ。
その先生は当時は独身だったが今は婚約していた。
ちょっとだけ悲しい。
定森千賀子先生という。
俺は懐かしい記憶にため息交じりで車を運転する。
それから雪さんの家を何時も通り訪問した。
テストの復習をしないとな。
定森先生の様になりたい、と思いながら、だ。
今日、中間テストがあったのだが.....どうなのだろう。
思いつつインターフォンを鳴らすと。
髪の毛を1つの水玉リボンで整えた感じの夜空が顔を見せた。
「はいはい。お兄ちゃん。ようこそ」
「え、は!?何やってんだ!?夜空!?」
「私と雪に教えてよ。勉強」
「アホかお前。これは仕事だぞ。何でそんな事をしなくちゃいけないし.....しかも邪魔しちゃ駄目だろ」
「いーやーだ。.....雪と一緒に教えて。じゃ無いと.....脇腹をくすぐるよ?」
そんな事で俺を怯ませる事が出来ると思っているのか。
俺は盛大に溜息を吐く。
そうしていると雪さんが顔を見せた。
それから、いー先生♡、とニコッとする.....オイオイ!?
その事は二人きりの時だけって.....。
「.....ちょっと。何親しくなっているの。お兄ちゃん.....?あだ名で呼び合う仲になったの?アハハ.....」
「ご、誤解だ。良いか。雪さんが俺を名前で呼んでほしいってお願いして来たんだ。だからあだ名で呼ばれている」
「ふーーーーーん.....」
「夜空。.....落ち着け」
俺は慌てる。
その事にべっつにー。
知ったこっちゃ無いけど.....何だか嫉妬する、と夜空は俺をジト目で見てきた。
ハァ.....。
困ったもんだな。
「雪さん。取り敢えず.....お勉強しましょうか」
「私もね」
「.....お前は後でな」
「え!?何で!?」
「え!?何でって、これは仕事だって言ってんだろ!」
夜空に教えている場合じゃない。
こっちはお金を貰っている身なのだ。
雪さんにありったけに教えないと。
だから構っている暇は無い。
それから。
「邪魔するなよ。夜空」
「当たり前でしょ。邪魔はしない」
「既にもう邪魔されているとは思うが.....」
「何言っているのお兄ちゃん.....?」
全く.....こんな事になるとは。
思いつつ俺と雪さんそして夜空は階段を上って行く。
それから雪さんの部屋に入った。
そうしてから.....何時もの様にしていると。
夜空が、へー。そんな感じなんだ、と覗き込んできた。
「邪魔するなって」
「しないって。見ているだけじゃない」
「大丈夫ですよ。いー先生。夜空ちゃんは邪魔しないですから」
「いや.....うん。まあ.....雪さんが言うなら.....」
でもな.....義妹に見られている中で勉強か.....。
集中出来るかな。
思いつつ俺は背後の夜空を見る。
夜空も勉強をしていた。
復習という奴だけど。
「っていうか夜空。お前は頭良いんだから教えなくても良いだろ」
「ハァ?確かに頭は良いけど.....お兄ちゃんに教わるからこそ意味が有るの」
「.....そうですか.....」
面倒な事になりそうだったのでこれ以上は何も言わなかった。
そして俺は雪さんを見る。
雪さんは集中モードに入っていた。
早速ながらテストを見せてもらおうかな。
と思いながら、雪さん。テストを見せて、と言う。
雪さんは返事をしてテストを通学鞄の中から取り出して渡してくる。
苦手だと言っていた科目を見てみよう。
「.....上がっているな。点数」
「はい。全部.....いー先生のお陰です」
「.....そうか。良かった。上がっているから」
「.....他の科目も上がりました。だから嬉しいです」
そうか。
と思いながら俺は顎に手を添える。
それから笑みを浮かべた。
雪さん、と、だ。
そして上がったからご褒美をあげたいんだが、と提案する。
赤くなる雪さん。
すると夜空が割り込んできた。
「何それ!?私も上がったのに!」
「お前は関係無いだろ!」
「え、え?ご褒美.....ですか?」
「そうだ。何が良いかな」
悩み始めた雪さん。
その間、俺は夜空に説得する。
そうしていると.....雪さんがハッとしてから。
それから俺を赤面で見上げてきた。
「じゃあいー先生の部屋に行きたいです」
「.....は?」
「.....私、いー先生の部屋で一緒に語らいたいです」
「.....それって本気で?」
「はい」
夜空がジト目で俺を見てくる。
キャーと言いながら悶える雪さん。
俺は.....赤くなりながら、まあ.....報酬って言ったのは俺だしな、と言葉を続ける。
でもあまり生徒と先生が接触しない方が、と言うが。
「大丈夫です。お母さん公認です」
「オイオイマジか.....」
「良かったね。お兄ちゃん.....?」
「いや、まあ.....うん」
夜空の視線が痛いんだが。
俺は思いつつ手を叩いてから、じゃ。じゃあやろうか復習、と言う。
雪さんは、はい!、と満面の笑顔で見てきた。
ジト目の夜空は放って置いて、だ。
☆
「勉強つまんなーい」
「夜空.....お前.....」
アハハ、と笑う雪さん。
雪さんのベッドに寝っ転がってから漫画を読み始めた。
俺はその姿に盛大に溜息を吐きながら雪さんを申し訳なく見る。
あんな奴が居てすいません、と、だ。
雪さんは、構いませんよ、とニコニコした。
「私の大切な友人ですから」
「.....そういえば雪さんと夜空って何処で出会ったんですか?」
「私と夜空ちゃんですか?.....小学校時代から友人ですよ」
「え?それって本当に?」
「はい。昔、夜空ちゃんが独りぼっちだった時に、お友達になろう、って私が言ったんです。それから.....大切な友人です」
そうなんだな。
俺はゴロゴロしている怠慢女を見ながら思う。
夜空ちゃんは.....私のかけがえの無い友人ですから。
だからいー先生。
大切にしてあげて下さい、と笑顔を見せる。
「.....そんな過去があるとは知らなかったな」
「.....いー先生ってご家族が再婚でしたよね?.....どうして再婚なさったんですか?」
「.....そうだな。6年前の事だよ。それ。.....母親と.....真優さんっていう男性が職場の付き合い同士で再婚したんだ」
「.....その時に.....」
そうだね、と笑みを浮かべる俺。
でもその時の夜空は、と思い出す。
顔が死んでいて、俺を警戒していたあの時を、だ。
俺は.....少しだけ感情に浸る。
すると雪さんが小声で話し掛けてきた。
「夜空ちゃんは.....ずっと悩んでいるみたいです。今も学校のトイレで泣いている事が時折あります」
「.....それはつまり.....」
「母親に会いたいのでしょうね」
「.....」
俺は背後の夜空を見る。
聞こえてない様だ。
俺と同じだな、と思う。
骨肉腫。
何というか骨の癌だが.....俺の親父が発病した名前だ。
その癌細胞はあっという間に親父の全身に転移した。
右足を切り落とすタイミングが悪かったようで.....だ。
俺は少しだけ悲しげな顔になる。
「.....俺も会いたい。親父に」
「.....いー先生.....」
「.....でも会えない。だからこそ俺は.....夜空を守っていかないとって思う」
「いー先生、強いですね」
「.....俺は強くないさ。君も知ってるかもだけど」
そんな事無いです。
いー先生は強いですよ。
と俺の手に手を添えてくる雪さん。
俺は.....なんだか涙が出てくる。
そうしていると、ちょっと!何で手を握り合っているの!、とツッコミが有った。
夜空が眉を顰めている。
「ご、御免。夜空」
「御免ね夜空ちゃん」
「.....もう。私の前であまりイチャイチャしちゃ駄目だよ」
夜空はプンスカ怒りながら頬を膨らませる。
でも初めて知ったな。
夜空も.....母親に会いたくて涙を流している事。
話してくれないから分からなかった。
雪さんには感謝しか無いな。
「夜空ちゃん」
「何?雪」
「.....いー先生、夜空ちゃんを大切にしてくれるって」
「.....!?」
いきなりの言葉に目をパチクリして、ふにゃ?、と声を発した。
それから.....俺を見てくる夜空。
俺も少しだけ赤面しながらも、ああ、と答えた。
それから夜空の髪を撫でる。
「もう!髪の毛のセットが乱れる」
「.....ハハハ」
「.....」
夜空は文句を言っていたが。
途中からプシューと空気が抜ける様にされるがままになっていた。
俺はその姿に.....また守りたい気持ちが強くなる。
それから俺は夜空を見つめる。
「.....夜空。苦しかったら言うんだぞ。何か有っても」
「え?.....え?あ、うん」
何の事?、的な感じで目を丸くした夜空に。
俺と雪さんは柔和になる。
それから、よし、と手を叩いた。
そして、勉強しよう、と雪さんに向く。
「ですね」
「ほらほら。夜空も勉強するぞ」
「わ、分かったから.....」
それから俺達は3人で復習をする。
そして.....時間があっという間に去り。
俺は玄関先で雪さんに挨拶をしてから。
先に夜空には帰宅させて車を運転してから会社に戻った。
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