第19話 千佳、バイトを始める

俺、山寺イスカは恋が怖い。

それは簡単に言えば人が蛇を恐れる様な。

そんな怖さがあり、身が震える。

何で怖いかといえば前も話したが色々あったから、だ。

だけどその事で.....明日香さんがこの様に話した。


貴方のその怖いのを私は取り除きます、と、だ。

俺はビックリしながらも.....明日香さんに、有難う、と告げる。

そして柔和になった。


そして今に至っている。

夕方の事だ。

明日香さんは荷物を纏めて持って玄関先に居た。

そんな明日香さんは俺達と共にゲームをしたりしてから.....楽しんだ。


明日香さんが夜空に色々と教えてもらったりとか、だ。

ニコニコしながら俺を見ている明日香さん。

夜空はちょっと不愉快そうに見ていた。


「いっすー先生。師匠。昨日今日で有難う御座いました。楽しかったです。色々聞けました」


「台風の様に去るなお前.....」


「はい。台風な子ですから!アハハ」


「もう。次はちゃんとして来てよね」


「いっすー先生の為ならどんな手段でも来ますよ。例え.....引き止められても、です。絶対に」


いや。そんな問題じゃ無いから.....、と顔を引き攣らせる夜空。

じゃあどういう問題ですか?、と明日香さんは?を浮かべる。

まあ.....そういう問題じゃ無いよな、確かに。

思いつつ俺は苦笑いを浮かべる。


「いっすー先生。私諦めませんからね。.....先生が振り向くまで」


「.....まあ頑張れ。適当に」


「.....はい」


「私のお兄ちゃんだから取らないで」


「みんなの大切な人です。貴方のものじゃ無いですよ。夜空さん」


バチバチと火花を散らす2人。

俺はその姿に、オイオイ、とツッコミを入れる。

すると.....明日香さんが、あ、と声を発した。

それから俺にニコニコしながら向いてくる。

俺は首を傾げて見ていると。


「いっすー先生。これ貰って」


「.....何だこれは」


「お揃いのネックレスです♡」


「ハァ!!!!?」


それはクリスタル。

つまり.....クリスタルの中に絵が封じ込められたアレだ。

名前が分からないが.....綺麗だ。


中に雪だるまの絵が描かれている。

そして.....明日香さんの持っているのは雪だるまに雪が降っている様な絵だ。

同じ雪だるまでも絵が少し違うタイプだ。

俺は赤面しながら.....明日香さんを見る。


「いやいや!何でだよ!」


「だって.....先生好きだから♡」


「お兄ちゃん..........?」


「え、え!?俺のせいか!?これ!」


夜空は眉を思い切り顰める。

明日香さんは俺を見ながら赤面する。

それから俺は.....溜息を吐いた。

そうしてからその場でスカートを翻す様に踵を返した明日香さん。

そして小さく手を振った。


「じゃあ先生。師匠。また今度」


「.....あ、ああ」


「.....」


「.....」


行ってしまった.....のは良いが。

非常に胸が痛い。

夜空の視線が痛すぎる。


どうしたものかな.....。

それにこれは身に着けないと明日香さんに何か言われそうだ.....。

思いつつ俺は堪らずに、コンビニに行って来る、と逃げた。

靴を隙を見て履きながら、だ。

その事に慌てる夜空。


「あ!お兄ちゃん!逃げるな!」


「逃げているんじゃないぞ俺は!」


「逃げてるじゃない!逃げないで!私が靴履くから!」


「待たないぞ!俺は!」


そして猛ダッシュでその場を後にした。

それから以前、雪さんとデザートを食べたあの場所まで逃走する。

そうしてから俺はコンビニに入ると目の前にコンビニの制服を着た千佳が立っていて品出しをしていた。

俺に気が付いた様で顔を上げて満面の笑顔を浮かべる。


髪の毛に赤色のリボンを着けている.....ってその様な問題では無い。

俺はその姿を見てから驚愕する。

何しているんだコイツ!?


「いらっしゃいませ。ご主人様」


「何を言ってんだ!!!!!って.....お前.....何を.....?」


「この辺りに住んでいるんだよね?イスカ君。だから勤め始めたんだよ。私」


「いやいや.....お前。冗談だろ」


「.....まあそれは冗談だけど.....高月給だってのもあるけどね。アハハ。この場所は働きやすいかなって思って。私、学費の面も考えなくちゃいけないし。生活費もそうだけどね」


そして俺に駆け寄って来る千佳。

俺に笑みを浮かべて俺の手を握ってくる。

その大胆な行動に俺は赤くなる。

客も嫉妬していた。


「ちょ、お前.....勤務中だろ!」


「構わないよ。だってイスカ君だからね。好きだから」


「いやいや!?」


そうしていると。

ガーッとドアが開いてから.....遠山が顔を見せた。

それから俺を見てから千佳を見てから。

また抱き合っている!!!!!、と絶叫した。

何を言ってんだ!!!!!


「.....山寺イスカ。お前は.....やはり敵だ.....!!!!!」


「そもそも何でお前がこの場所に居る!遠山!」


「僕は千佳さんがこの場所で勤めているって聞いて来たんだ!」


「.....えっと.....そうなのか」


「そうだ!」


遠山は俺をガルルルルと言いながら警戒する。

俺はその姿に盛大に溜息を吐きながら.....千佳を見る。

千佳は、アハハ、と苦笑いを浮かべていた。

俺は、千佳。お前な、と言う。

すると遠山がその言葉に愕然とした。


「お.....お前.....その。千佳さんって.....」


「.....千佳が下の名前で呼べっていう話だからな.....」


「.....速水さん本当に?」


「.....わ、私が好きだから.....イスカ君を」


「.....」


唖然としている遠山。

そのまま踵を返して、畜生!!!!!、と絶叫を上げて去って行った。

俺は、嵐の様な奴だな.....、と思いながら顔を引き攣らせる。

これ使ったの2回目だけど。


「.....遠山君も一生懸命なのはわかるけど.....私はイスカ君が好きだから。仕方が無いよね」


「微妙に酷いなお前」


「.....え?そうかな。まあそれはそうと.....あ。お客さんだ。じゃあね。イスカ君」


「.....」


一生懸命に、いらっしゃいませ!、と言いながら笑顔を浮かべている速水。

やはり可愛いな、と思う。

薄化粧なのに.....だ。

顔立ちが整っているから.....。


「っと。いけないいけない。謝りの品を買いに来たんだよ」


俺は直ぐに商品を選ぶ。

これは.....アイツ。

つまり夜空に謝って渡す品物だ。

逃げた事を、だ。

面倒だけど義妹だから、な。



「ただいま」


「お帰りお兄ちゃん。遅かったね」


「.....すまんな。逃げて」


「.....許さないけど.....まあ大丈夫」


「許さないのに大丈夫なのか.....」


太陽の様な笑顔を浮かべているのに。

思いつつ俺は苦笑いで玄関を上がってから。

早速、ビニール袋から取り出した。


それを、だ。

目を丸くする夜空。

それから受け取った。


「.....え?.....なにこれ?」


「お前の好きな飲むヨーグルト。買ってきたんだよ」


「.....こんなものでご機嫌伺い?.....まあありがと」


「.....お前って反対で表の事を言うよな.....」


「.....女の子だし」


それから笑みを浮かべる夜空。

俺はその姿を見ながら溜息を吐きつつ。

リビングを見渡す。

そういえば今日は母さんが早く帰って来るんだったな。


「お兄ちゃんどうしたの?」


「いや、母さんが早く帰って来るから」


「.....ああ。馨さん」


「そうそう」


俺の母親の馨。

今は.....あまり高月給じゃないアルバイトをしている。

その為に今も家を空ける事が多い。

俺は思いながら.....夜空を見る。


「夜空。有難うな」


「.....何が?」


「.....お前も居るしみんな居るから幸せだよ。俺」


「いきなり何を言い出すの。お兄ちゃん。.....恥ずかしいから」


「ハハハ」


この幸せが少しでも長続きします様に。

思いつつ俺は買ってきたものを冷蔵庫に仕舞いつつ。

俺は.....夜空を見る。

夜空はモジモジしていた。


「.....?.....どうしたんだ。夜空?」


「私も何かお兄ちゃんにあげて良いかな。.....出会った記念日も有るし5月になったら.....何か祝おうかな」


「.....あー。確かにな。あれは5月だったか。大変だ。忘れていた」


「うん。初めて出会った日だよ。5月。忘れたの?もー」


俺に頬を膨らませて見せる夜空。

でもそこから全部始まったよね、とも言う。

そうだな、懐かしい記憶だ。

暖かく、切ない記憶。


あの時から。

玄関を開けたあの日から全部始まったよな。

でも本当に出会った頃は.....夜空の顔は死んでいた。


お母さんって毎日、泣いてたし。

その時から.....だいぶ経つけど。

でもまだ泣いているって聞いたしな。


「何かあったら言えよ。夜空」


「.....うん.....」


「.....俺はお前の兄貴だからな」


「あのね。容易く女の子の髪の毛触らないで。セットが崩れる」


「え?あ、は、はい」


髪の毛を触りながら怒る夜空。

俺はぺしっと叩かれて青ざめる。

だけど俺に赤面する夜空。

そして、もう、とクスクス笑う。

そしてニコニコした。


「.....お兄ちゃん。.....優しいから好きだよ」


「.....そうか.....」


「だからこれから.....先も宜しくね。お兄ちゃん♪」


「.....ああ。宜しくな夜空」


俺は頷く。

夜空はニコッとしながら.....俺を見てくる。

まるで.....動物園で可愛い動物を見た様な.....華やかな笑顔だった。

俺はその姿に柔和になる。


それから.....俺はソファに移動してそのまま腰掛ける。

そして夜空を見る。

そういや今思い出したけど言い忘れていたな。

この事を、だ。


「あのな夜空。実はな.....この近所で千佳がバイトをし始めてな.....」


「.....え?あ、そうなの。ふーん.....」


「.....一応言っておこうと思ってな.....うん.....」


「.....」


「.....」


急速に夜空の目から光が無くなっていく。

それはまるでハイライトが消える様に、だ。

俺は冷や汗を流し始めた。


やっぱり嫉妬するか.....。

これまでの事があるから大丈夫と思ったのだが。

俺はジト目の夜空を見ながら.....ただただ苦笑いを浮かべざるを得なかった。

どうしたものか.....な。

考えないと.....。

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