第29話 開かれた未来

夜空。

そして雪さん。

更に明日香さん。

田辺さん。


全員の思いを夜空が代表してこう言ってきた。

それは.....予想外の言葉だ。

どの様な言葉なのか。

それはこの前から秘めていた思いだそうだった。


『貴方は千佳さんが好きなんだね』


と。

俺は愕然としていた。

そして胸に手を当てて自問自答する。


それは.....まるで天使と悪魔と相談する様に、だ。

俺は.....自室でまるでその。

エヴ○のゲンドウの頬杖の様なポーズを取りながら窓から外を見つめる。

既に外は暗くなっている。


俺はどうすれば良いのだ。

思いつつ、だ。

そしてずっと考える。


「同好会創るって言ったけどあれまだするのかな.....」


「お兄ちゃん」


「うお!!!!?」


椅子がガタンと鳴る。

いきなり声がした。

背後を見るとリボンを前に着けた様な感じの夜空が立っている。

俺を見ながら柔和な笑みを浮かべている。


またまたボーッとしてる、とにこやかに話しながら、だ。

俺は、いやいや勝手に入って来るなよ、と慌てる。

赤い表情が隠せないで居ると夜空が口を開いた。


「.....千佳さんと何かしら連絡した?」


「そ、そうだな。うん。一応連絡はした」


「そう。元気だって?」


「そうだな」


そっか良かったね。

と漫画を取り出しながら相変わらずの定位置。

つまり俺のベッドに腰掛ける夜空。


そして.....漫画を読み始める。

俺は頬を掻きながらそんな夜空に聞く。

この事。というか千佳と俺の事を何時から計画していたんだ?、と、だ。

漫画を読みながら視線を変えずに夜空は返答してきた。


「そうだね。同好会を創ろうと思った時だよ。あの時は確かにお兄ちゃんに好きになってほしかったんだけど.....確か漫画研究部には千佳さんが居るよね、と思いながら。お兄ちゃんの表情何だか千佳さんを思い浮かべていたから。だからみんなに相談したの。そしたら雪も明日香も田辺さんも、これは勝てないよ、と提案して来たの。だから.....この結論を下したの」


「.....お前.....」


「私は勝てないと思ったからその意見に賛同したの。だから話したんだよね。お兄ちゃんに千佳さんが好きなの?って」


「.....夜空。すまないな。変な気を遣わせて」


「私?.....私は応援に回るだけでも嬉しいよ。だから大丈夫」


夜空はようやっと顔を上げた。

そして俺に太陽が輝く様な笑みを浮かべる。

俺は.....その表情を見ながら俯く。


こんなに俺が好きな人達の中から。

そして俺自身が。

恋をして良いのだろうか、と。

思いつつ.....俺は夜空の頭を撫でる。

するとビックリした様に顔を上げてから怒った。


「もー。髪の毛のセットが乱れるからやめて」


「.....それは名言だよな。お前の」


「名言とかじゃ無いの。良い?お兄ちゃん。女の子はみんな髪の毛命なの。だから止めて」


「は、はい」


怒る夜空に俺は苦笑い。

夜空は、もう、と言いながらも苦笑した。

それからお互いに笑い合う。

クスクス、という感じで、だ。

俺は顔を上げて夜空を見る。


「.....夜空。お前が義妹で良かった」


「私もお兄ちゃんが義兄で良かったよ」


この1か月で俺は相当に変わった。

それはみんなのお陰であり、千佳のお陰だ。

本当に俺は支えられているなって思えた。


嫌な事もあり、辛い事もあったけど今が一番幸せな感じがする。

本当に.....宝くじで1等が当たるよりも。

奇跡を感じる。

それぐらい.....輝いて見える。


「.....お兄ちゃん。デートするんだよね。千佳さんと」


「.....そうだな。サポートが必要だ。アイツには」


「じゃあこれ持って行って」


「.....何だこれ?」


ポケットから何か取り出した。

封筒を渡される。

俺は?を浮かべながら開けてみる。

そこには丁度10万円が入っていた。


俺は驚愕して直ぐに夜空を見つめる。

これは何だ!?、と、だ。

すると夜空は真剣な顔をする。


「お兄ちゃん。これは私達の貯金とかお小遣いだよ」


「.....何を.....!?」


「.....千佳さんを助けてあげて。お願い」


「そんな馬鹿な。受け取れないぞこんなの。駄目だ。田辺さんはまだしも.....」


「.....言うと思った。だからお兄ちゃん。話を聞いて」


俺は封筒を持ったまま話を聞く姿勢を取る。

すると夜空は俺の顔をジッと見た。

そして俺に柔和になる。


私ねお兄ちゃんと千佳さんには色々お世話になったから。

だからせめてもの恩返しなの。

と俺に向いてくる。

俺はその事に大きく見開く。


「.....恩返し?俺は何もしてない」


「.....本当に?それは無いよ。お兄ちゃん。貴方から受け取ったものは沢山有るよ。例えば今だってお兄ちゃんが私に優しくしてくれているから」


「.....」


「雪は言っていたよ。いー先生に出会ったから私は変わったの、って。明日香はずっと貴方に助けられたから、って。田辺さんは、貴方は優しいです。出会った頃からずうっと変わって無いです、って。.....お兄ちゃん。貴方の優しさはみんなに届いてるよ。みんなお兄ちゃんが好きなんだよ」


ごめん。

何だか涙が止まらなくなった。

視界が霞んで見える。


俺はやってきて良かったって。

ずっと少しだけど。

やってこれたんだなって。

その様に思えた。

こんな小さなちっぽけな人間は役に立ったんだなって初めて実感出来た気がする。


「お兄ちゃん。涙は隠せないからね」


「.....ごめん。兄なのに。俺は.....男なのにな。情けない」


「.....私も泣いているから大丈夫だよ.....」


こんなに救ってくれるみんなが改めて好きになった。

そして.....夜空を、だ。

俺は.....真剣な顔になる。

そして心臓に血液と気持ちを送り込む様にしながら10万円を胸に添えた。

それから.....夜空を見る。


「今度お礼をさせてくれ。みんなに宜しく言っておいてくれ。俺も言うけど」


「.....そうだね。.....うん。でも必要無いよ。そんなの」


「駄目だ。俺が黙ってられない」


「.....そういう所に惹かれたんだね。私達は」


「.....」


夜空は涙を拭いながら笑みを浮かべる。

そして俺達はハグをした。

これで千佳に買い揃える為の資金が.....20万になる。

こんなサプライズが有るとは思わなかった。


正直。

嫌な事があったけど。

生きてきて良かったと。

そう感じた。

天国と地獄で言うなら今は天国だなって思う。



土曜日になった。

千佳はそれなりに回復した様だ。

貧血が心配だったが病院の医師からは歩いても問題無いと言われた様だ。


そして駅でそのまま待ち合わせる。

そうしていると千佳が白ブラウスとプリーツスカートで現れた。

ベレー帽を被っている。

俺に手を振りながら.....嬉しそうな笑顔を見せる。


何というか俺の服装と釣り合うかなこれ。

ただのジーパンとかなんだけど。

千佳が可愛いし.....。


「待ったかな」


「.....大丈夫だ。じゃあ行こうか」


「.....うん。.....じゃあ行こうかね!」


「何だよそれ」


元気は戻った様だな。

取り敢えずは安心である。

さて.....この先どの様にしてバレない様に買うか。

それから.....取り揃えるか。

考えないとな.....。


「.....ね。いー君」


「.....何だ?千佳」


「はい」


「.....何だこれ?」


手編みのマフラー。

俺は目をパチクリする。

そして千佳を見る。


千佳は赤くなりながら告白してくる。

貧血で休んでいたから.....暇だったしお礼と思って作ったから、と。

俺は頬を掻いてからマフラーを巻く。

それも長いので.....千佳の首にも巻いた。


「ちょ!?何するの!?」


「.....デートだろ?だったかこれぐらいしないと」


「は、恥ずかしいよ.....」


「俺だって恥ずかしいんだが」


「じゃあしないで良くないかな!?」


駄目だ、と俺はキャンセルを無視した。

そして笑みを浮かべて抱き寄せる。

千佳の心臓の鼓動が感じれた気がした。

周りから嫉妬の目と幸せそうな目を向けられる。

千佳は目をグルグル回していた。


「.....本気で恥ずかしい」


「.....そうだな。うん」


「でもとても幸せ。私.....このままいー君と付き合えたらなって」


「.....」


でもそんな資格無いけどね。

と、たはは、と言いながら苦笑した千佳。

俺はその千佳の頭にチョップを食らわせた。

キャンと悲鳴を上げて額を抑える千佳。

俺は口角を上げる。


「資格無いとか言うな。俺が幸せにする事にしているからな」


「.....お?お?きょ、今日はやけに積極的だね」


「.....話が有るからな。後で」


「.....え?」


そう。

俺は今日、千佳に真面目に告白する。

愛の告白だ。

そして千佳と正式に付き合うつもりだ。


つまりその事もあり。

こうしてイチャイチャしてみている。

俺は千佳が好きなので、だ。


「.....話って何?」


「.....秘密だな」


「.....そ、そう.....」


何となく察している様だ。

とは言え、焦らしてみるのも手かなって思う。

ので今回は敢えて.....焦らす。

でもその顔が少しだけ曇る。


「.....でもその話は.....受けても良いのかな」


「.....良いんだと思う。.....みんな納得しているから」


「.....本当に?.....本当なの?」


「話をしたからな」


えっとそうなの?

わ、私なんかが幸せになって良いの.....かな。

と千佳は涙声になる。

俺はその言葉に、ああ、と答えた。

それから頷く。


そして歩きながら.....目的とデートする場所に向かう。

所謂ショッピングセンター。

俺は家電量販店に用があるのでこの場所を選択する。

千佳は納得してくれた。


「.....こんなに幸せになって良いの?私は」


「お前にはその資格が有る。.....な?」


「.....分かった。.....うん」


「.....よし。じゃあ行こうか」


そして俺達はショッピングセンターに一緒に入る。

それから周りを見渡しながらマフラーを取った。

そして.....目的の遂行の為に動き出す。

どの様な物を.....千佳の為に買おうか、と、だ。

その様に思いつつ、である。

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