第15話 健介と利奈

俺は初恋をしていた。

何というか保健室の先生に、だ。

しかしその初恋のお相手は別れてから結構経っていて結婚していた。


そりゃ当たり前だよな、と思う。

だけど.....何だか複雑だ。

でも.....俺もこれでケジメがついた。

前に進もうと思う。


「美味しいです」


「.....パフェが好きなんだね。雪さんは」


「そうですね.....チョコのパフェが好きです。チョコは本当に美味しいですから」


雪さんはニコニコしながらパフェを食べる。

俺はクレープをナイフで切りながら口に運んでいた。

雪さんのオススメのカフェとやら。


かなり美味しい場所だ。

まあその.....女性ばかりで少しだけ.....気にはなるが。

考えて苦笑しながら雪さんを見る。

雪さんは俺に笑みを浮かべながら.....柔和になっている。


「山寺先生」


「.....何だ。雪さん」


「私も名前を呼んでいいですか」


「.....名前ってのは?」


「はい。私.....下の名前で呼びたいです。山寺先生を」


それは.....うーん。

でも速水もみんな下の名前で呼んでいるしな。

期待の眼差しで俺を見てくる雪さんに溜息混じりに、良いよ、と答えた。

すると雪さんは、有難う御座います。じゃあいー先生で、と言う。

お、オイ!?


「いー先生でいきます」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。何でそうなるんだ。俺はイスカかと思ったぞ」


「.....駄目ですか?」


「潤んだ目で見てこないでくれ.....」


だって.....イスカ先生の周りってみんなイスカって呼んでいます。

と雪さんは解説をする。

パフェのスプーンで空中を回転させながら、だ。

俺はただただ苦笑いしか無かったが。

まあ.....それもそうだよな、と雪さんを見る。


「あだ名で呼ぶのは二人きりの時だけだぞ」


「え?それって.....私とデートしている時ですか?」


「あ.....いや!?違うよ!?」


「も、もう。それならそうと言って下さい」


雪さんは頬に手を触れながら真っ赤に染まる。

二人きりの使い方を間違えた。

俺は赤くなりながら.....雪さんを見ていると。

女性の店員さんがやって来た。

それからニコッとしてくる。


「今ですね、カップル限定のサービスを行っております。写真撮影なんですが.....撮りませんか」


「え!?俺と雪さんは.....」


「撮ります!!!!!」


興奮気味に雪さんが立ち上がった。

え!?いや、俺達はカップルじゃ無いぞ!?

思いながらも女性の店員さんに話そうと思ったが。


女性の店員さんはカメラを持って来てしまい。

案内をし始めた。

何てこったと思いながら雪さんを見る。


「いー先生!行きますよ!」


「いやいや!?ちょっと待て!」


「思い出を作りますよ。いー先生。ね?」


「.....!」


写真の撮影現場に引き摺られて行く俺。

そしてカップル用のピンク色の椅子が有りそこに座る。

それから.....雪さんは俺の腕に手を回してきた。

そうしてから満面の笑顔を浮かべる。

本当に嬉しそうな、だ。


「いー先生。こっちです」


「いや.....ハァ.....」


仕方が無いか、と思いながら苦笑する。

それから.....目の前の三脚に有るカメラを見る。

そして女性の店員さんは、じゃあチーズです、と言葉を発した。

その言葉に俺達はピースサインをする。


「良いですねー。良い感じに撮れました」


「その写真は下さるんですか?」


「はい。現像後、カップル用のケースに入れてお渡しします」


「や、やった.....!」


本気で思い出の品が欲しかったのだろう。

ゆきさんは嬉しそうに歯に噛む。

そして笑顔を見せていた。

俺はその姿に、やれやれ、と思いながらも悪い気はしなかった。

でも悪い気はしないとは言え.....これは密着し過ぎたか。



「いー先生。有難う御座いました」


「.....今日は色々あったね。有難う」


「はい。こうして思い出の品物も.....参考書も。大切にします」


「そうしてくれると嬉しい。.....有難う」


俺は雪さんを自宅に送り届けてから。

そのまま手を振り別れた。

そして俺は少しだけ笑みを浮かべて歩き出す。


その途中で.....速水が目の前に居るのに気が付いた。

俺は?を浮かべて声を掛けようと思い早足になる.....が。

速水は2人組の男らに囲まれていた。

丁度.....此処は裏口に抜ける感じだから人通りが無い。

まさかと思うが、と思い耳をすましてみる。


「よお。お姉さん。綺麗な体と顔してんな。彼氏居ないだろ?」


「俺達と遊ぼうぜ」


やれやれ.....結局そんな感じか。

何だかこの街って変な人が多いですね。

速水も困っている。

俺は.....少しだけ顎に手を添える。


このまま警察に通報する、または喧嘩するのも良いが.....そうだな。

傷を負ってしまうとマズイ気がする。

大学の件とかもあるが問題を起こしたくない。


「.....よし」


俺は意を決して立ち上がった。

それからそのまま突っ込んで行く。

ビックリしている速水の元に向かい、千佳!、と声を発した。

それから、ァア?、と声を発しているその二人組から連れて行く。

思ったけど速水の下の名前を呼んだの.....初めてじゃないかこれ。


「い、イスカ君.....!?」


「.....こんな場所で何してんだよ。今日、デートの約束していただろ」


その2人に嘘の情報をその二人に聞こえる様な音量で会話しながら。

俺はそのまま速水の手を握って連れてその場を後にした。

何だ彼氏持ちかよ、と舌打ちして反対方向に去って行く2人。

それを伺ってから俺は速水を見る。


「大丈夫か。速水」


「.....う、うん」


「.....」


速水は震えていた。

そんな速水の頭に手を添える。

そして.....大丈夫だ、と笑顔を見せた。

速水は、うん、と泣きそうな顔になる。

それから俺に縋った。


「でも、こ、怖かった.....来てくれて有難う.....」


「.....全くな。この街は嫌な奴が多過ぎるよな」


「.....そうだね.....魅力はあるんだけどね」


「だな」


でもそのイスカ君。

千佳って.....私の名前.....、と赤くなりながら俺に向く速水。

そして潤んだ目で俺をジッと見据えた。

俺は頬を掻きながら、咄嗟の言葉だ、と回答する。

すると速水は、じゃあこれからも千佳って呼んで、と笑顔を浮かべた。


「.....な、何でだよ」


「.....私だって下の名前で呼んでいるから。ね?」


そのウェーブ掛かった髪の毛を揺らして笑顔を見せた速水。

俺は真っ赤になりながら速水から目を逸らした。

どうしても赤くならざるを得ない。

何でみんなこんなに可愛いんだ。


「.....速水、でも.....」


「千佳」


頬を膨らませながら俺に向いてくる速水。

俺は慌てながら訂正をする。

それから呼んだ。


「.....ち、千佳。何であの場所に?」


「あの男達が連れて行ったの。あの場所に.....だから。嬉しかった。来てくれた。白馬の王子様だね」


「.....そ、そうか」


「ねえ。私.....お礼の品を持ってないんだけど」


「.....要らないよ。そんなもの」


居合わせただけで助けたのも偶然だしな、と思ったのだが。

じゃあせめてものこれだけでも受け取って、その様に言ってからいきなり.....俺の胸倉を掴んでそのまま頬にキスをした。


俺は驚愕しながら千佳を見る。

真っ赤に何時もの林檎の様に染まりながら、だ。

千佳は、ヒヒヒ、と小悪魔の様に笑う。


「は、速水!!!!?」


「だーめ。千佳だから。私は。ね?」


「そんな問題か!」


「だって私、君が好きなんだから。これぐらいは当たり前だよね」


「.....お前という.....」


本当は唇と唇でキスしたいよ?でも.....同盟の都合上、ね?

と焦らす様な感じで話す千佳。

俺は頬に触れながら.....千佳を見る。

通行人が、あらあら、と言う中で、だ。


「えへへ。大好き」


「.....」


言いながら頬を真っ赤に染める千佳。

そして俺の手を握ってくる。

それから.....、じゃあまた今度ね、と手を振って歩き出して行った。

俺は.....暫くその場で立ち尽くす。

何も出来ずに、だ。


「.....女って.....奴は.....」


バイオ6のレオンの最後の台詞の様に言いながら。

俺は暫く.....その場で頬に触れながら立っていた。

本気で恥ずかしい。

雪さんといい.....全く。


「.....ハァ.....。俺も帰るか」


それから俺は帰宅する。

そして.....義妹に迎えられながら。

今日懐かしい人に再会したという事を話したりする。

夜空はニコッとしながら聞いてくれた。



高校では中間考査があっている。

俺は少しだけ心配しながらモヤモヤしつつ.....大学の講義を受けていた。

それから.....俺はラグビーを眺めていた。

健介が頑張っているから、だ。

よく見ると.....あれ?


「佐藤さん」


「あ、お久しぶりです」


「.....お久しぶりです。.....お元気ですか?」


「はい。お陰様で、です」


「そうですか」


多分、彼氏の応援だろう。

俺は思いつつ、つばの広い帽子を被っている佐藤さんを見る。

相変わらず可愛い横顔だ。

思いつつ俺は見る。


「彼、本当に良い人です」


「.....健介でしょう?.....やる時はやりますからね。彼」


「.....はい。本当に彼女になって良かったです。.....彼が幸せにしてくれます」


「アハハ」


そうか.....。

健介、上手くいっているんだな。

俺は安心しながらタックルをぶちかましている健介を見る。


そして笑みを浮かべつつ。

佐藤さんに向く。

今日は何でいらっしゃったんですか?、と、だ。


「はい。実は.....もうちょっとしたら同棲を始めようと思います」


「!.....それはまた。思い切った決断ですね」


「彼が運命の人だと思っています。だからです」


「あんな奴ですが幸せにしてやって下さい。.....内気ですけど」


「.....はい。分かっています」


佐藤さんは笑顔を見せる。

俺はその笑顔を確認しながら前を見る。

どうやら休憩に入った様だ。

此方にやって来る健介。


「おや。どうしたんだ。イスカ」


「.....見に来たんだよ。お前の様子をな」


「そうか。有難う。.....利奈。すまないがスポーツドリンクをくれないか」


「オイオイお前。下の名前で呼び合ってんのか?羨ましいな」


健介が、ま。まあな、と真っ赤になる。

俺は(・∀・)ニヤニヤしながら健介を見る。

佐藤さんはその姿を柔和に見ていた。

そしてスポーツドリンクを渡す。


「聞いたぞ。健介。もう少し分かり合ってから.....20になってから同棲するって」


「な!?.....た、確かにその通りだが.....」


「フフフ」


「全く羨ましいのぅ。ハッハッハ」


俺はニヤニヤしつつ俺は健介を見る。

健介は本気で羞恥に染まっていた。

相変わらずだが.....何だろう。

幸せだな、俺も。


「健介。良かったな。お前」


「.....お前のお陰だ。イスカ。こんな素晴らしい人に出会えたのは」


「俺はまさに何もしてねぇよ」


「そう言うな。お前が.....合コンに付き合ってくれたから、だろう?」


「.....確かにな」


佐藤さんは健介の汗を一生懸命に拭いていた。

俺はその姿を見つつ、健介、と声を掛ける。

健介は、何だ?、と返事をした。

汗を拭いつつ、だ。

そして穏やかな感じになる俺。


「幸せになれよ」


「お前もな。イスカ。お前の事情を知っている身としては、だ」


「俺はもう幸せだよ。色々とな」


「.....そうか。だったら良いのだが」


「.....」


健介も居る。

千佳も居る。

みんな居る。


だから俺はもう.....不幸じゃ無いんだ。

思いつつ俺は.....空を見上げた。

それから伸びをする。

そして欠伸をした。


「.....よし。次の講義に行って来るな」


「.....おう。俺も後で行くから。利奈」


「はい。健介さん」


「待っていてくれ」


「はい。終わるまで待っています」


赤面になる佐藤さん。

ニコニコしながら本当に幸せそうな姿を見せる2人。

恋をするってのはこんな感覚なのだろうな。

思いつつ俺は.....健介の肩に手を置いてから.....立ち上がる。

それから2人に手を振って歩き出した。

花唄交じりに、だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る