第43話 始まりの場所、新たなる夜明け
俺達は雪代先輩を探す事にした。
探すったって当ても無いのに探しても意味無いと言えるが。
健介からの僅かな情報を元に必死に探す。
そうしているとようやっと、と行きついた場所があった。
それは.....とある場所だ。
「.....見つけましたよ。雪代先輩」
「雪代先輩」
「.....雪代先輩」
その場所は.....俺達のサークルだった。
俺は孤独で居る部室のドアを開けてから.....目の前の雪代先輩を見る。
雪代先輩は相変わらずニコニコしていた。
そして俺達を見ながら、やだなぁ。なんて顔をしているの?、と笑顔を浮かべる。
俺達は顔を見合わせる。
「大学辞めるって本当ですか。.....何でですか」
「やっぱりそれか。個人的事情だよ?アハハ。それ以上言えないねぇ」
「.....それ以上言えないって.....嫌ですよ。そんなの!」
「.....千佳。有難うね。今まで」
「.....雪代先輩。俺も思うですが辞めるのは流石に.....」
「でも決めた事だからね。仕方が無いんだよ。.....健介君」
あーあ。
誰にも会わずに去るつもりだったのに。
と苦笑する雪代先輩。
俺は眉を顰めたまま雪代先輩を見る。
雪代先輩は、イスカ君。君には本当に世話になったね、と口角を上げた。
それを見ながら唇を噛む。
そして.....雪代先輩を見つめた。
「雪代先輩。俺達は貴方が居ないと駄目です。何もかもで支えてもらっています。....だから去って行くのは止めてほしいです。それに俺達になんの説明も無しにこれは酷いです」
「ごめんね。突然決めた事だからね。.....説明する暇が無かったよ。本当にごめんねぇ」
「.....本当に辞めるんですか」
「辞めるよ。君達を見れた。これだけでも幸せだったからね」
「.....つまり雪代先輩。.....貴方はまた俺達の心配を無碍にする訳ですね」
俺はそのままの言葉を発する。
これに対してピクッと眉を動かした雪代先輩。
そして俺を真剣な顔で見てきた。
その食いつきを無視しないで俺は話を続ける。
「貴方はまた大切な人達を守る為に自らで背負うんですか。無碍にしていますよね俺達の心配を。最低ですね」
「.....無碍にしている訳じゃ無いよ。イスカ君。その言い方は.....」
「無碍にしていますよ。.....最低ですね。貴方は」
千佳が驚きの表情で俺を見てくる。
そして.....健介も俺を見てくる。
雪代先輩の表情と雰囲気が明らかに変わった。
俺をジッと見てくる。
それも険しい顔で、だ。
「.....それは先輩に言う事じゃ無いよ。イスカ君」
「言うべき事は言います。俺は.....それを周りから。そして貴方から学んだんですから。言いたい事は言わせてもらいます。貴方は人の心配の全てをごみ箱に捨てるような真似をしていますから」
「.....意味が分からないね。私は守る為に.....」
「貴方はこれで100点満点になっていると思っていますか?」
「.....」
やれやれ。だから私は君が苦手と思っていたんだよね。
ずっと、だけど。
と俺を複雑な顔で見てくる。
本当に君は私の母親に似ている、と。
そして苦笑した。
「私の家族はみんなそんな感じだったよ。父親以外はね。.....私だってこれで良いとは思って無いよ。ここ最近、君達に出会ってからそう思い始めた。.....だけどね。私は独りで良いんだよ」
「嫌です。そんなの。独りで良いわけ無いです」
「.....千佳。イスカ君。そして健介君。君達は本当に面白いね。有難う。.....でももう無理なんだ。環境も環境だしね。.....だからゴメンなさい」
さて。しんみりしても仕方が無いし!
このまま解散しようか!、と手を叩く雪代先輩。
それからそのまま歩いて行こうとする雪代先輩に向いた。
そして肩を掴んだ。
これだけは使いたくなかったが。
さっき調べた最終手段だ。
聞いた事であるが。
「雪代先輩。.....好きな人が居るんですよね。確か副部長の長谷川健也先輩ですよね」
「.....何故それを知っているのかな。君が」
「.....噂になってますよ。.....ここ最近の長谷川先輩と雪代先輩の距離が近いって」
「.....よく知っているね。確かに私は長谷川が好きだけど。.....バレてるなら仕方が無いから言うけど」
だけどそれがどうしたのかな、と前を見たまま話す雪代先輩。
俺は部室のドアを見つつ、長谷川先輩、と声を掛ける。
するとサッカーの試合服を着た長谷川先輩が現れた。
それから長谷川先輩は雪代先輩を見る。
その事に目を丸くしていた雪代先輩が、やれやれ、と呟く。
「.....全く。君は何をしているのかな。イスカ君」
「俺は貴方を引き留めるなら何でもしますから」
「.....」
そして長谷川先輩は雪代先輩を見る。
それから、先輩。俺が好きって本当ですか、と言う長谷川先輩。
俺達は静かに見守る。
すると雪代先輩は、まあ確かにそうだね、と回答した。
「.....俺も雪代先輩は好きです。.....俺の望みを聞いてくれますか」
「.....そうなんだね。.....で?どういう望みかな」
「真菜子先輩。俺は貴方を守りたいです」
「.....!?」
呼び方が真菜子先輩に変わった。
そして長谷川先輩は雪代先輩の前に立つ。
それから顎を持った。
何をする気だ、と思ったら。
そのまま唇にキスをした。
この事には流石の雪代先輩も動揺した。
「.....き、君は.....オイオイ。いきなり何をする!?」
「俺は貴方が好きです。だから貴方がこの学校を辞めるなら。俺も付いて行きます」
「.....!」
「.....辞めないのなら精一杯尽くします。どっちにせよ.....俺は貴方を守りたい」
「.....!」
ほ。本当に君達は、と髪の毛を触って慌てて女々しさを出す雪代先輩。
真っ赤に顔が染まっていた。
俺達はその姿をちょっと驚愕しながら見ていたが。
良かった、と思いつつ胸に手を添える。
「.....雪代先輩。これだけ俺達は貴方を守りたいという事です」
「.....」
「.....雪代先輩」
「.....雪代先輩.....」
そんな歓声ラッシュに雪代先輩は盛大に溜息を吐いた。
それから、分かった。私の負けだ、と諦めた感じを見せる。
そして俺を見てくる雪代先輩。
全くね。君は本当に他の子とえらく違うねイスカ君、と苦笑いを浮かべた。
俺はその言葉に、諦め悪いのが俺ですから、と答えた。
「.....退学届けは破り捨てよう。.....それから長谷川。やり過ぎ」
「でも本気で好きですから。俺は」
「全くどいつもこいつも。.....全く」
それから退学届の書類を勢いよく破り捨てた雪代先輩。
本気で苦笑いを浮かべる。
でもそれであっても文句を言いながらも。
雪代先輩は何だか嬉しそうだった。
取り合えずは雪代先輩は辞めるのを思いとどまった様だしな。
俺達は顔を見合わせながら笑みを浮かべた。
それから.....雪代先輩は俺の手を握る。
そして真っ直ぐに見てきた。
「これだけやってもらったからには恩返しはしないとな。君に」
「.....俺は説教しただけで何もしてないっすよ。.....相変わらずです」
「そういう遠慮も君らしい」
「.....ただ単に諦め悪いだけですから」
俺は苦笑いを浮かべる。
定森先生にそれだけ鍛えられた分。
俺はねちっこい存在になってしまった。
だけどこれで良いよな定森先生。
貴方が言った事をやり遂げました。
人の為にという事を。
そう考えながら俺は.....目の前の仲間達を見た。
これがきっと一番良い筈だ、と思う。
そして何故、雪代先輩が学校を辞めようとしたのか。
それは.....やはり俺達を守る為だった。
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