第27話 千佳、貧血で倒れる

無茶苦茶な話が成立しようとしている。

俺の部屋を漫画同好会を創り、その活動拠点にする。

何とも無茶苦茶な話だ。


だけどこれは夜空が俺の入っている大学の漫画研究部のサークルに入れなかった場合の話だ。

つまり今の所は不成立の可能性もあるが.....夜空はやってしまいそうだ。


本気で俺達だけの漫画研究部を創りそうな気がする。

昔だったら有り得無かったな。

人を信頼出来なかった当時の俺だったら。

思いつつ俺はリビングに集合して喋っている雪さんと夜空を見る。


「お兄ちゃん。何ニヤニヤしてるの?全く」


「そうですよ。いー先生」


「いや。すまない。少しだけ昔を思い出していたんだ」


「昔の?.....ああ。成程ね。.....お兄ちゃん」


大丈夫だ夜空、と俺は声を掛ける。

あの時を思い出しても仕方が無いんだ。

陰湿な野郎は結局何をしても変わらないって事が.....分かったしな。

思いつつ俺は.....窓の外を見る。


「.....陰湿なイジメ。最低ですね」


「.....まあ彼ら彼女らはそれを分からないと思うから。妬んでも仕方ないよ。雪さん。仕方が無い事だよ」


「.....先ず、いー先生をそんなにイジメた事が許せないです。私が復讐したいぐらいです。絶対に許せない」


雪さんは拳を握る。

俺はその姿に拳に手を添える。

それから.....首を振った。

そんな事をしても何もならない、と、だ。


「.....雪さん。有難う。でもね。.....そんなに恨んでも仕方が無いんだよ。人は簡単には変わらないんだ。それに俺はもう幸せだよ。今が。雪さんも居る。夜空も居る。みんな居るから」


「.....はい.....」


「.....お兄ちゃん.....」


「.....夜空。雪さん。有難うね」


俺の笑みに.....夜空も雪さんも笑顔を浮かべた。

そして、じゃあ.....ゲームでもしようか、と動き出そうとしたその時だ。

電話が掛かってきた。

その相手は.....明日香さん。

ん?


「明日香さん?.....もしもし?


『ぐすん.....』


「?.....どうしたんだ?」


『大変です.....いっすー先生』


「え?」


速水さんが倒れました.....、と話した。

俺は愕然として、は?、と聞き返す。

すると、過労によって倒れたんです、と言ってきた。


俺は、え.....、と青ざめる。

雪さんと夜空が?を浮かべる。

そして明日香さんは話を続けた。


『今、アルバイトを変わって.....奥で休んでいます』


「容体は?!」


『ビタミン不足みたいです。それで倒れたみたい。貧血かなって思います』


「マジかよ.....アイツ!」


『ずっと無理していたんですね.....速水さん』


俺は唇を噛む。

なんてこった.....。

恐れていた事態が遂に起こったか.....!

思いつつ俺は上着を羽織る。

すると夜空が俺の腕を掴んできた。


「どうしたの?!お兄ちゃん!」


「.....千佳が倒れた.....」


「え.....え!?」


「.....貧血かもしれないって。一応行ってみようと思う。知り合いもいるし」


「私も行った方が良いかな」


お前は雪さんと一緒に居てくれ。

頼んだ、と。

俺はその様に声を掛けながら.....ダッシュで玄関を飛び出た。

それから近所のそのコンビニに行く。

そして直ぐに店長の娘さんが目に入った。


「すいません。速水は.....」


「えっと。奥で休んでいます」


「容体は.....」


「貧血です。すこし休んで.....今日は帰った方が良いと思います」


「.....」


クソッと思っていると。

千佳が顔を見せた。

青くなっている。

あまり体調が良くない感じだ。

一緒に明日香さんも.....出て来る。


「すいません。いっすー先生。速水さんを家に送ってくれない?」


「.....そうだな。このままじゃ不安だし.....」


「わ、私.....大丈夫だから」


「何を言っている。無理するな」


俺は千佳を背負う。

明日香さんが、後は任せて、と言ったので見送られながらコンビニを後にした。

それから歩き出す。

こんなに軽いのかコイツ.....、と思う。

千佳は赤くなっていた。


「恥ずかしい」


「そんな事を言っている場合かお前は。無理するなよ」


「ただの貧血だって。大丈夫だよ。いー君」


「駄目だ。帰るぞ」


「.....」


千佳は俺の首に手を回してくる。

そして無言で抱き着いてきた。

そのまま俺達は歩く。


千佳の家まで案内してもらった。

そして千佳の家に到着してから.....住んでいるというアパートを見上げる。

かなり古いアパートだった。


何というか手すりも錆びている。

お金が無いんだな.....、と思える様な.....アパートだった。

俺は少しだけ複雑な顔をして千佳を見る。


「千佳。着いたぞ」


「.....」


「え?.....何だって?」


「.....いー君。大好き」


意識が混濁している様だ。

俺は真っ赤に赤面する。

返事は保留にしてから.....汗を拭う。

それから俺は部屋の番号を聞いてゆっくり階段を上る。

そして部屋に送り届けた。


千佳に部屋に入っても良いか、と聞きながら、だ。

そうして部屋に入る。

そこもあまり綺麗とは言えない部屋だった。

でも律儀に片してある。

俺は複雑な気持ちで傍に有った布団に寝かせる。


「千佳。ゆっくり休めよ。.....布団に寝かせるからな。ゆっくり休んでな。居なくて良いか俺は。救急車とか.....」


「.....要らない。それより.....」


「.....え?何だって?」


耳を千佳に近付ける。

すると千佳は俺の服の胸倉を掴んだ。

そしてそのまま.....俺は千佳と唇と唇でキスを.....え!!!!!!!!!?

俺は愕然となって赤面する。

そして慌てて千佳を見る。


「えへ、エヘヘ。大好きだから。キスしても良いよね」


「お、お、おま!!!!?」


「.....有難う。送ってくれたお礼でもあるから」


「.....!」


俺は唇に触れる。

今のは夢じゃ無いよな?

明らかに俺は.....キスを交わしたよな?


それも千佳と、だ。

これはその、初キスなんだが.....。

それから千佳は.....少しだけ寝息を立て始めた。


「.....千佳.....」


何だか心臓が馬鹿みたいに高鳴っている。

いかん、今直ぐにこの部屋を出ないと死んでしまう。

本気でマズい気がする。

俺は千佳とキスをしてしまった。

思いつつ.....俺は千佳に平然を装って、鍵を掛けろよ、と言い部屋を後にする。

そして歩きながら.....俺は唇に触れる。


『えへへ。大好き』


「.....オイオイ勘弁してくれよマジに.....」


千佳だぞ。

あの千佳がこんなにも可愛く見えるとは.....。

勘弁してくれ。


思いつつ.....俺は明日香さんが待っているであろうコンビニに戻る。

すると直ぐに明日香さんが寄って来た。

そして俺に心配げな顔をする。


「大丈夫だった?」


「.....あ?ああ」


「良かった。うん。心配だった」


「有難うな。明日香さん。連絡してくれて」


「.....全然構わないよ。.....でもその.....いっすー先生も顔が赤いんだけど.....」


俺は、!?、と思いつつ、な。何でもない、と首を振る。

そして、店長さんの娘さんも居る?、と聞いた。

お礼を言っておこうと思う。

今度千佳がお礼を言うかもだけど。

しかし明日香さんは顎に手を添えた。


「美里ちゃん?そうだね。お礼を言っておくよ~。今忙しいみたいだから」


「ああそうか。なら頼んだ。すまん」


「はい。.....いっすー先生は倒れないで下さいね」


「あ、ああ」


駄目だ.....千佳にキスをされて気が狂った。

どうにかしないとな。

思いつつ俺は明日香さんに挨拶をしてから早急にコンビニを後にした。

それから帰宅すると雪さんと夜空が心配そうに駆け寄って来る。

大丈夫だった?、と、だ。


「ああ。.....貧血だって」


「そんな.....大丈夫かな」


「だね。夜空ちゃん」


「.....今度、お見舞いにでも行くか」


俺は笑みを浮かべてから不安そうな2人にそう声を掛ける。

それはナイスアイデアですね、と雪さんが柔和になる。

夜空も、だね!、と笑顔を見せた。


その中で1人。

俺はずっとキスの事で.....頭がいっぱいだった。

信じられない、と思いながら、だ。

困った事になった。

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