第12話 だったら恋愛師匠として見ます

「どうしたんだ?イスカ。お前.....顔色が良くないぞ」


「大丈夫だ。俺は何時もの通りだ.....ハハハ.....」


「いやそんな事は無いだろう。笑いが乾いているしな。それは大丈夫とは言えないと思うぞ」


「そ、そうか.....。あ、アハハ.....」


健介に心配されながらの大学。

今日は小テストだ。

しかし俺は胃がキリキリするのだが.....困ったな。


昨日は勉強に、課題にあまり集中が出来なかった。

女性って怖いですね、と思う。

本当に困ったものだ。


「仕方が無いな。後で飲み物でも奢ってやろう」


「そうだな。.....健介有難う。.....ハハハ.....」


「イースーカ君♪」


唐突にそれは聞こえ俺はビクッとなった。

小テストまでそんなに時間が無いのに。

速水が俺にかなり黒い笑顔で近付いてきた。


な、何でしょう。

俺は考えながら顔を引き攣らせる。

まさか、と過るが。


「そうそう。えっとね。また家庭教師、女子高生だってね。アハハ。イスカ君って女子高生が好きなの?アハハ.....」


真っ黒。

何もかもが、だ。

青ざめる俺。

そして周りが、ユラリ、と立ち上がる。

それから目をカッと見開き光らせた。


横では相変わらずの如く沈む健介。

お前らは何か?棺桶にでも入っているプロトタイプのゾンビか?

思いながら俺は速水を見る。

速水はニコッと笑顔を.....見せていた。


「黒い.....黒いぞ。速水」


「当たり前だよ〜。だって隠す方が悪いよね。何でそんなに女性に囲まれるのかな君は?アハハ」


「そ、そうだな。分からない.....けど。やり過ぎだぞお前」


「自業自得だよ。アハハ」


それからまたも暴動が起こった。

その後は言うまでも無い何時も通りだ。

俺の首を絞めたりする馬鹿野郎とかの、だ。

小テストはその予定通りだったが.....空気は険悪の如き感じだ。

速水はプンスカ怒りながら俺を見ていた。



「すいません。大谷さん。俺にはちょっと.....明日香さんの家庭教師はマズいかも知れません」


「え?それは何でかな?」


「その、色々と、です。彼女には俺は合わないと思いました」


どうしても心に引っ掛かる。

俺は明日香さんの担当から外れたいとの申し出を大谷さんに会社でしていた。

このままでは俺の生活もそうだが.....何かマズい事になりかねない、と、大学の件も経て思ったのだ。

大谷さんは、うーむ残念だな。折角の機会だったんだがね、と顎に手を添える。

それから、分かった、と納得した様に言ってくれた。


「別の人に担当させよう。明日香さんには」


「有難う御座います.....申し訳無いです」


「前担当が戻ってくればそれが一番良いのだがね。なかなか」


「そうですね.....」


そんな会話をしていると電話が掛かってきた。

その人物は斎藤さんだ。

俺はビックリしながら大谷さんに許可を貰ってから外で電話に出る。

そして、もしもし。山寺です、と回答すると.....元気はつらつな声がした。


『もしもーし!明日香です』


「.....すいません。今忙しいので後にしてもらって良いですか」


『え!?忙しいの!?イスカ先生!』


「.....」


明日香さんの母親かと思ったのだが。

何故か明日香さんが出た。

俺は汗を流しながら口ごもる。

どう回答したものか。

思いつつ俺は電話を見る。


『ちょっとだけ良いですか?時間になっても先生が来ないから心配になったんです。何でかな?』


「.....明日香さん。俺はちょっと忙しくて担当を外れる事になりました。すいません」


『.....え.....』


本気でショックを受けた様な声がした。

俺は、ウッ、と詰まりながらも言葉を続ける。

明日香さんにキチンと説明しなければ。

考えながら、だ。


「大学が忙しくて。すいません」


『.....せ、せっかく会えたのに.....』


「.....御免なさい。それでは失礼します」


『.....い、嫌。.....え.....っと。諦めない.....』


「え?」


そんな事言っても私は本気でイスカ先生が好きだもん、と声がした。

俺は驚愕しながら電話を見る。

そして明日香さんは話を続けた。

担当が外れるなら私は先生に、好き好きあぴーる、しても良いよね!?

と、だ。


「い、いや。そんな事は.....」


『嫌ッ!私は諦めない!』


「.....明日香さん.....」


『私に振り向いてくれるまで諦めない!』


「うーん.....」


これは困ったな。

俺は顎に手を添える。

どうしたもんか、と唇を舐めた。

すると大谷さんが顔を見せてくる。


「もう良いかな?.....斎藤さんなんて?」


「あ、す、すいません。電話切ります」


そして俺は電話を切ろうと明日香さんに言葉を発した。

じゃあ切りますね、と、だ。

すると明日香さんは、ちょ。まだ話は、と話す。

だけど切った。


「すいません。大谷さん。明日香さんの事、宜しくです」


「任せてくれよ。有難う。電話」


「いえ.....」


俺は明日香さんの事を大谷さんに頼んだ。

それから俺は.....今日は予定が無いので家に帰る。

と.....道を歩いていると。

後ろから声がした。


「イスカ先生!」


と、だ。

俺は愕然として背後を見る。

そこには.....涙目の明日香が立っていた。

な、何でこの場所が。

まさか会社の住所を辿って?


「わ、私は.....本気でイスカ先生が来てくれた事が嬉しかったんです。だ、だから.....諦めたくないです」


「.....で、ですが.....」


「私は.....好きなんです。イスカ先生が。.....あの日から!」


「.....」


何だか青春劇になっている。

俺は困惑しながら眉を顰めていると。

待って、と声がした。

そして.....夜空が陰から制服姿で顔を見せる。

俺は、え、と唖然とした。


「よ、夜空!?」


「.....お兄ちゃん。その子もしかして.....生徒さん?」


「そ、そうだが.....」


「だ、誰ですか?」


夜空を敵視する様に睨む明日香さん。

俺はその姿を見ながら、これはマズい、と思いながら額に手を添える。

どうしたものか。

学校帰りなのか?夜空は。


「私はイスカの義妹の夜空。.....お兄ちゃんが困っているから。それ以上は止めて」


「ぎ、義妹さん.....。困っているって言っても私は!」


「お兄ちゃん。困ってないの?」


「.....あくまで今もまだ生徒だ。だから困っているとか無いけど.....」


「でも迷惑だって事は事実だよね?」


非常に言い辛いがその通りではある。

このままでは.....俺の為にも明日香さんの為にもならないから、だ。

俺は.....明日香さんを見てから唇を噛む。

だが明日香さんは胸に手を添えて引き下がらなかった。

私は!、と声を発する。


「私は.....!」


「.....明日香さん」


「.....な、何」


「.....実は私もお兄ちゃんが恋愛対象として好きなの。兄だけど」


「!!!!?」


なぜ今それを言う!?

と思ったが直ぐに夜空は理由を語った。


だけどね。

ある人が教えてくれたの。

無理矢理に奪おうとしちゃ駄目だって、嫌われちゃうよ、って。

だから明日香さん。

無理に奪おうとしちゃ駄目だよ、と、だ。


「えっと.....わ、私は.....」


「.....私もお兄ちゃんが好き。でも奪ったりするつもりは考えを改めて止めたから。貴方も考え直してみて」


「.....」


「.....」


明日香さんは肩を落とした。

そして顔を上げる。

それからこの様に夜空に向いて言った。

じゃあどうすれば良いか教えて下さい、恋愛師匠、と、だ。

え?!え?


「ふえ?」


はえ?、とか言葉を発する夜空。

流石の夜空も予想外だったのだろう。

俺も目をパチクリしながら.....明日香さんを見る。

夜空に頭を下げた。

タジタジしている夜空。


「.....貴方は私よりイスカ先生の事を知っている気がします。どうしたらイスカ先生をもっと愛せるか教えてくれませんか。それで前の件は諦めます」


「な、何でそうなるの」


「だって貴方が、考え直せ、って言ったんですから。だから私は考え直しました。だから奪うんじゃ無くてイスカ先生を徐々に奪還します」


「意味が同じだと思うけど.....」


「違いますから」


首を振ってからしっかり否定する明日香さん。

それから真剣な顔で夜空を見てから。

明日香さんはジッと見据えた。

何だか面倒な事になってきている.....様な?


そうでもない様な?そんな感じが.....した。

夜空は顔を引き攣らせている。

そして俺を見てくる。


「お、お兄ちゃん。どうすれば良いの」


「.....いや。すまんが俺も分からん.....」


簡単に言えばこんなイベントになるとは.....。

ドラ◯エ以上だな。

何だかかなり困った事になってきた。


明日香さんはマジに真剣な顔で俺達を見ているが.....。

こうして.....恋愛に関して夜空に明日香が弟子入りした。

何故そうなっていくのか.....。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る