第二章 この先の未来へ

千佳と歩む道

第32話 動き出す時計の針

夢を見ている。

千佳と一緒という夢を、だ。

それはまるで.....幸せな.....甘い夢だ。

砂糖の様に甘い夢だ。

包まれている.....そんな感覚。


俺達はファミレスを後にしてから.....俺の義妹の夜空を見ていた。

丁度、店が賑わっている場所の通路で、だ。

何故か夜空はニコッとしながら手を腰に回して立っている。

モフモフの服を羽織っている。

俺は?を浮かべながら.....夜空を見る。


「夜空.....どうしたんだ?」


「.....デートスポットの案内をしに来たよ」


「え?」


「千佳さんとお兄ちゃんが幸せになってほしいから。.....えっとね。丁度.....そうだね。ここから丘に登るけど.....もう用事は済んだ?」


「あ、ああ。俺達はもう大丈夫だが.....そんな場所が有るのか?」


うん、と夜空はニコッとする。

それから俺と千佳の手を引きながら、じゃあ行こうか、と笑顔を見せる。

まるでその.....華やかな笑顔に俺達は柔和になる。

何というか感染する様に、だ。

俺は笑みを浮かべた。


「丘の上にね。神社が出来たの。恋神社って言うんだけど。そこに行きたいから」


「その案内係って事か。お前は」


「そうだね。じゃあ行こうか」


俺達は出口に歩いて行き。

そのままショッピングセンターを一旦後にした。

それから.....ショッピングセンターの横に有る真新しい公園を、新しく出来た住宅街を突き抜けて地面を噛みしめる様に風景を見つつ風を感じながら歩いて行く。


そして丘を登り始めた。

この丘の上には何も無かったハズなのだが。

確か最近まで、だ。


緑の香りを感じつつ登って行く。

そして目の前に神社が見えてくる。

俺と千佳は顔を見合わせてから驚く。

まさかこんな場所が有るなんて、と、だ。


そこには木造の神社があった。

正確にはあまり大きくない木造神社。

いや、祠というべきか。


その奥には鈴が釣り下がっているハート形のボードが有る。

俺達は顔を見合わせる。

すると夜空が察する様に笑顔を浮かべた。


「この祠は無人販売なの。それでお金を入れたら絵馬を受け取って.....その奥にある見晴らしの良い場所のボードにお供えするんだ」


「.....ここまでやってくれて......良いのか?」


「当たり前でしょ?だって.....お兄ちゃんと千佳さんには幸せになってほしいから」


「.....有難うな。夜空」


「有難う。夜空ちゃん」


「.....じゃあ私はこれで。楽しんでね。デート」


手を挙げて夜空は去って行こうとする。

俺はそんな夜空の頭を撫でた。

すると.....相変わらずのぶすっとした態度で俺の手を払いのける。

だから髪の毛が乱れるって、と、だ。

だけどその夜空にお構いなしに抱き着いた。


「え!?え!?」


「お前は最高の女の子だ。そして最高の義妹だ。有難う。夜空」


「.....お兄ちゃん.....」


「.....夜空ちゃん。有難う」


「.....千佳さん。いえ。こっちこそ。お兄ちゃんを宜しくです」


それから俺達は.....笑顔で別れた。

夜空は満足げに去って行く。

今度.....何かを奢ってあげよう。


その様に感じれた。

そして.....改めてピンク色の屋根の祠を見てから千佳を見る。

千佳は赤面しながら.....絵馬を見ていた。


「.....幸せだね」


「.....だな。うん」


「.....何を書こうか」


「.....互いの未来を書こうか。そして掛けよう」


「だね。幸せな未来だね」


千佳は紅潮しながら笑みを浮かべる。

それから木を踏み砕く様にしながら葉っぱを踏んで祠に近付いてお金を取り出して料金表を確認しながらお金を賽銭箱に入れた。

そして俺達は絵馬を手に取ってから.....傍に有った台で文字を書く。

その願い事は.....。


(千佳と幸せになれる様に。そして何も起こりません様に)


(いー君といつか結婚出来ます様に)


そんなお願い事だった。

俺は互いの絵馬を確認しながら紐を持って.....のどかな風景の中を歩いて行く。

そしてハート形のオブジェに既に有った絵馬の近く吊り下げた。


それから俺達は手を繋いでから。

思いっきり鈴を鳴らす。

その鈴はまるで.....結婚式の鐘の様だった。


そう記載が有ったからやったのだが。

恥ずかしいな何だか。

思いつつ俺は頬を掻いて横に立って幸せそうな顔をしている千佳を見る。

千佳は.....俺を見つつ、にへら、とする。

そして俺に寄り添って来る。


「とても幸せだよ。私」


「.....だな。幸せになろうな」


「.....何が有っても私達、一緒だよ。ね?」


「何が起こるとか言うな。何も起こらないから」


「だね。アハハ」


千佳ははにかんだ。

俺もはにかむ感じを見せる。

そして俺は幸せそうに寄り添っている千佳の肩を優しく抱く。

それから見晴らしの良い丘から目下を見た。

そこには素晴らしい街の風景が広がっている。


地元の本当に和やかな風景だ。

本当にこの街は良い街だな。

そして俺達は良い出会いをしたなってそう思える。

改めてその全てを実感出来る。


嫌な事も有るけど、だ。

空は青々としている。

そして雲が流れる。


俺は天気の良い吸い込まれそうな空を見ながら.....笑みを改めて浮かべた。

きっと大丈夫だろう俺達なら。

乗り越えられる。

そう思える様な.....励ましの有る天気だった。

思いつつ居ると千佳が穏やかな顔で俺を見てくる。


「.....今日は本当に有難う。いー君」


「デートに誘ったのは俺だけどな」


「だからだよ。嬉しかったよ。とっても。そして今はとても幸せだよ」


「まだまだこれからが勝負だけどな」


「.....だね。.....嫌な事をされなかったら.....良いけど.....」


恐怖故か。

昔の恐ろしさ故か。

身体を震わせる千佳。


俺はその千佳の頭を撫でる。

そして片膝を地面に着いてから告白する様な形を取る。

それから見上げた。


「.....千佳。恐怖を改めて。.....俺と付き合ってくれないか」


「.....有難う。.....でも良いのかな。私で.....本当に.....」


「.....当たり前だ。俺は.....お前が好きだから。だからこれから守っていく。お前を」


「.....うん。.....いー君。好きだよ。私も昔から」


そのまま俺達は正式に付き合う事になった。

付き合う事になるのは良いんだがこの後が勝負だな。

取り合えず.....何とかしないと。

毒親をどう諭してから.....そして近づけさせない様にするのか。

それを考えなくてはいけない。


「.....お前の親父からも母親からもお前を守るよ。約束する」


「.....有難う。でもこれ.....家族間の問題だから」


「.....その問題を分かち合う事が多分彼氏ってもんだと思うから」


「そうかな。良く分からないけど.....本当に良いのかな」


「.....俺が好きなお前だからな」


俺は手を差し出して千佳の手を握る。

ウェーブの掛かった髪の毛を触りながら恥ずかしそうに頬を赤く染める千佳。

それから.....涙を浮かべた。

そしてそれを拭いながら.....頷く。


本当に嬉しそうに、だ。

この世界が晴れやかになる様に。

雨のち晴れの様に。


「.....これから宜しく。.....いー君」


「ああ。.....あ。それはそうとこれから荷物とか移動させるよな?」


「そうだね。そっちもお世話になる。本当に良いのかな」


「.....夜空もみんな歓迎すると思う。だから大丈夫だ」


「.....有難う。分かった」


この後どうしようか、と千佳は俺に向いてくる。

その柔和な顔で.....だ。

俺はその顔に笑みを浮かべてから、適当にこの辺を回ろうか、と答える。


それから明後日の方向を見つめた。

緩やかな街が見える。

その言葉に、うん。じゃあ.....いー君に任せる、と笑顔で答えた千佳。

俺は、じゃあ行くか、と手を握って歩き出した。


「.....いー君」


「.....何だ?」


「私達って出会ったの運命だよね。本当に」


「.....だな。確かにな」


そしてこうして助ける。

それもまた運命だと思う。

時計の針は動き出した。

そして運命の時計の針も動き出す。


今からが.....千佳を救う為の全てだ。

本当に頑張っていこう。

思いつつ.....俺は草木を踏みしめた。

取り敢えずは.....千佳を思いっきり楽しませてから.....忘れさせよう。

毒親の事なんか、だ。

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