第2話 失うものなど何もない
「…帰ろう」
しばらく呆然と意味もない時間を過ごした後、私はお店を出た。
「はぁ、、何なのよもう、、」
ツイてない日はとことんツイてないらしい
外はさっきの晴天とはうってかわり、私への嫌がらせのように雨が降り注いでいた。
もちろん傘なんて持ってこなかった。
この調子じゃ止みそうにないかぁ。。
ため息をついてから私は仕方なく雨の中に飛び込み、駅へと走り出した。
「きゃっ!」
だがヒールを履いていたせいで上手く歩けず、足がもつれて転んでしまう。
そのうえ、運悪く水溜まりの中に倒れ込み、バッグの中に入っていた携帯や化粧ポーチまでぶちまけてしまった。
ヒールなんか履いてくるんじゃなかった…!
必死に悩んだ挙句に選んで着てきたワンピースも泥のせいで真っ黒になっていた。
雨はどんどん激しくなるばかり。
バッグの中身を拾いながら段々とみじめな気持ちになる。
「私が何したって言うの…!?」
そんな声も雨の音で掻き消される。
「ううっ、、!うっ!」
溢れ出てくる感情に歯止めがきかない。
雨の中、座り込んで泣く私の姿は傍から見れば奇妙なものだろう。
だけどそんな事はもうどうでもいい
誰がどんな目で見ようと関係ない
もう私に失うものなど何もないのだから
そんな自嘲気味な考えをした時、いきなり雨が止んだ。
「え」
空を見上げると真っ赤だった。
あー、ついに私の頭おかしくなったのかな
確かにこの時の私はその「赤」が傘だという事に気づけないくらいには狂いかけていた。
「…あの、大丈夫ですか、、?」
だからそんな声が聞こえた時、私は驚いて後ろを振り返った。
そこには私に赤い傘をさしてくれている男の人がいた。
帽子を深く被っていて顔は見えないが、声と全身が黒づくめな格好な事から男性という事が読み取れた。
「あ、、えっと、大丈夫です…」
その声に少し冷静さを取り戻した私は、恥ずかしくなって急いで立ち上がろうと
ーーしたが、突然視界がぼやけ、体に力が入らず男性の方に倒れ込んでしまう。
「え!ちょっと!?」
男性が体を支えてくれながら慌てた声をあげる。
な、何やってんだ私、、早く立たなきゃ。。。
そう思っても上手く体に力が入らない。
「今救急車呼びますから!!」
「きゅ、救急車なんて呼ばなくても、、」
そう言ってる間にも段々と遠ざかる意識。
あーほんと最悪だ。
朦朧とする意識のなか一瞬だけ視界のピントが合って、私のことを心配そうに覗きこみながら電話をかける男性の顔が
ーーあの私の大好きなアイドルグループ、Shineのレンのように見えるという幻覚が起きた。
やっぱり私、脳がイカれたのかもしれない。
でもこんな幻覚なら幸せだからいいや。
そんな呑気なことを考えながら私はとうとう意識を手放した。
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