第16話 揺れる心

「ごめん詩音」






「…ごめんじゃなくて、ありがとうでしょ?」






「ん、、ありがとう」






私の言葉に詩音はふっと笑った。






「…そろそろ帰る?」






「いや、まだ飲み足りてない」






「でも顔真っ赤だよ?」






「え?!」





私は驚いて、思わず頬に手を当てた。






手から伝わる頬の熱。






きっとこの原因は、、





「まだまだ飲めるもん!」






「え、ちょっと!!」





自覚のなさそうな詩音を横目に一気にジョッキを飲み干す。






「すみませーん!もう一杯くださーい!」





「めぐ!?」






きっとこの熱はお酒のせいだ。





そう言い聞かせて私はお酒を飲み続けた。



* * * *






「めぐ!めぐってば!!」






「うーん、、もう一杯~飲みま~~す」






「だめ!もう終わり!帰るよ!」






「んー」





めぐはいくら揺すっても起きてくれなかった。





僕は仕方なく、めぐを背負って会計を済ませてから店を出た。






「めぐ、家はどこ?」






「……」






「…寝てるかぁ」






ど、どうしよう…





変装はしてるものの女性と会ってる事がバレたらまずい、、!





今更襲ってくるアイドルとしての自覚に怖くなる。





放っておく訳にも、、まさか僕の家に連れて帰る訳にも行かないし、、





「あ…」





ふと案がひとつ浮かぶ。






しかしそれは僕にとって高リスクを伴う。






だけどーー






「…行くしかない」






僕は覚悟を決めてホテル街の方へと歩き出した。






* * * *







「よいしょっと…」






整えられた大きなベッドの上にめぐを降ろす。






「…何とか運んでこれたけど、、」






もしこの場面を





僕が女性を背負ってホテルに入る所を







Shineのレオが入る所を、誰かに見られていたりしたら僕のアイドル人生はそこで終了だ。





周囲をしっかり警戒して入ってきたつもりではあるが、、、






あとは注意しながら部屋を出ればーーー





「…行かないで」






「え」






部屋を出ようと思った時






めぐの声が、手が僕の腕を掴んで引き止めた。








瞳をうるませてそう言うめぐ。






「私を、置いて行かないで」







「っ!ごめん、でも僕はもう行かなきゃ…」






弱々しい声に胸を痛ませながらも僕はその言葉を拒絶する。






「…また私を置いて行くんだ、そうやってまたっ」






「え?」






また置いて行くって、、?






「どうしてそうやって私を何度も傷つけるの…?」





何を、何を言ってるんだ、、僕は、僕は何も、、





睨みつけてくるめぐの瞳を見つめながら僕は混乱して、





「ねえリョウっ!」





その一言にはっとなる。






そして気付く。





めぐは今、僕ではない誰かに話しかけているのだと。





きっとその相手はーー






瞬間、めぐに腕をさらに強く引かれて僕の体が傾く。






「!!」





予想外にかけられた力に僕の体勢がめぐに覆い被さるような形になってしまう。






ーー顔が近い、、!






「め、めぐ、、僕は」






「好き」





「……っ」





僕を見つめているけど見つめていないめぐが、切なげにそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る