第28話 ズルいよ
「詩音…」
後ろから私を優しく抱きしめる詩音。
その温もりが心地よくてずっとこのままでいたいと思う。
「……ごめん」
しばらく抱きしめられた後に解放され、正面に向き直った私にそう言う詩音。
「なんで詩音が謝るの?」
「守れなかった、、めぐの事」
「守れなかったって、、充分私は救われたよ!リョウにハッキリ言ってくれて嬉しかったし…」
さっきの気迫はどこへやら、弱々しい声の詩音に私は慰めるように、だけど何一つ嘘はない事実を伝えた。
「けど僕は!、、めぐに二度とあんな顔させたくなかったっ…」
「…ぁ」
俯く詩音の頬に涙が伝う。
どうしてそこまで私に優しくするの?
私は、、詩音にとって何なの?
けどそんな疑問は私が口にする前に消えた。
「好きなんだ」
たったその一言で。
「めぐが好きだ」
鼓動が早くなる。
胸が締め付けられるように痛い。
私が1番欲しかった言葉。
「なん…で、、」
「めぐは出会った頃から暗い顔しか見てなくてさ、、最初はこの子を元気づけたいなっていう純粋な気持ちで近づいたんだ。けど気づいたら、たまに笑った顔を見たらドキドキするようになって、ふとした瞬間にその笑顔見たいなって思ったりして、、いつの間にか好きになってたんだって事に気付いた。
…って、こんな顔も見せない奴に告白されても気持ち悪いよな」
「……何その告白」
「…っ」
「ずるいよ」
「え?」
「詩音はいつもずるい、、そうやってまた私の心を甘く溶かして…」
心を激しく揺さぶる。
そう、こんなにも揺さぶられるのは私は既に詩音にーー
「め、めぐ?」
「ねえ詩音」
「は、はい!」
「私も好きだよ」
予想外の答えだったのか詩音の目が見開かれる。
「ほ、ほんとに言ってる、、?」
「うん、詩音が好きだよ。すごく」
さっき詩音が現れた瞬間、声を聞いた瞬間に鼓動が早くなったことで気付いた。
分かった。
私はこの人の事を好きなんだと。
自分から遠ざけたくせに、たまらなく会いたかったのだと。
「嬉しいっ…!!」
途端にまた抱きしめられる。
「く、苦しいよ詩音、、!」
「…あ、ごめん!」
慌てて私を離して、本当に嬉しそうな顔で私の事を眺める詩音。
けれど何かを思い出したように表情がサッと暗いものに変わる。
そしてーー
「…ねえ、もしも僕がただの香流詩音じゃないとしても、、好きでいてくれる?」
不安げにそう聞いたのだった。
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