第29話 隠してきたこと
「…どういう意味?」
詩音の言ってることが私には理解できなかった。
戸惑う私に詩音はそっとサングラスに手をかけて外し、、
ーーずっと隠してた顔をさらけ出した。
「…え」
あらわになった素顔を確認した私を衝撃が襲う。
だってそれは私が知っている顔で、憧れていた人で、、でもそんなはずがーー
「…レンくん、、?」
けどどう見てもさっき会ったばかりのその人物にしか見えなくてそんな言葉が私の口から漏れる。
「そうだよ」
そんな有り得ない疑問をあっさり肯定され、唖然とする。
「ほ、本当に…?信じられない、、」
頭が真っ白になる。
理解が追いつかない。
詩音が…Shineのレン、、?
「隠しててごめん…職業柄、なかなか言えなくて」
そう言って気まずそうに謝る。
「ごめんやっぱ嘘」
「え?」
しかし直後に放たれたその言葉に瞠目する。
「めぐが知ったら僕と距離を置くんじゃないかって思って隠してた。僕の正体がバレたからここ数ヶ月、距離を置かれてるのかと思ってたけど…違ったみたいだね」
苦笑いしながらそう言う詩音に胸が痛んだ。
「…詩音と距離を置いたのは、その、、詩音への気持ちのせいなの」
「気持ち…?」
香織に言われた事がきっかけで連絡を取らなくなったのは事実だ。
けど、その事よりも私の気持ちの問題の方が大きかった。
「…詩音への気持ちに気付くのが怖かった。信じてまた裏切られたらと思うと怖かった」
温かい言葉をかけられる度に心が揺らいだ。
これ以上優しくされれば私は詩音を好きになってしまう。
それに気付いた時には既に惹かれていたのに。
手遅れだと知っていたのに遠ざけた。
溺れてしまう前に遠ざけた。
けど、会えない時間が流れるにつれて想いは恋しさは募るばかりで。
ここに現れた詩音を見た時、とてつもなく嬉しかった。
結局私は自分の心を都合良く隠してただけだったのだ。
「知らないフリしてたの…本当は好きだって気付いてたのにっ!自分から遠ざけたくせに会えない事が辛くて、だけどっ!」
ーー瞬間、何が起きたのか分からなかった。
ただ唇に柔らかい感触が触れて次の言葉を継げなかった。
ーー初めてな訳でもないただの優しいそのキスに全身が熱くなる。
「すっごいかわいい」
「…!」
「僕の事、そこまで考えてくれてたなんて知らなかった。めちゃくちゃ嬉しい。それにね、めぐ、こんな事言っても信じてもらえるか分からないけど、、」
「僕はキミを絶対に裏切らない。約束する。」
「…っ!」
「もう二度とめぐに悲しい思いも表情も僕がさせないって決めたんだ。だから
僕と付き合ってくれますか?」
待ちわびていた言葉に心が震える。
「…私で、、本当にいいの?げ、芸能人なんて周りにもっとキレイな人たくさんいたり…」
なのにまだ正直になれない私の心はその言葉を拒絶しようとする。
だけどその拒絶も次の言葉で簡単に打ち砕かれた。
「めぐがいい。めぐじゃなきゃ嫌なんだ」
「!!」
そんな言葉…!
やっぱり詩音はずるいよ。
私が欲しい時に欲しい言葉をくれる。
答えは決まっている。
私は深呼吸をしてから、、
「……よろしく、お願いします」
そう一言、言ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます