第10話 香流詩音
見慣れた建物に入り、見慣れた部屋のドアノブに手をかける。
僕らの練習室だ。
「あれ、もう帰ってきたの?」
「デートはどうだった!?」
扉を開けた瞬間振り返り、そう言ったのはメンバーのケンとソウマ。
「デートじゃないって、、」
見慣れた顔ぶれであるメンバーの2人からかけられた声に呆れたようにそう返す。
「でもこの時間に帰ってくるって事は今まで
その子とずっと一緒にいたわけでしょ?」
「…まぁ」
「じゃあデートじゃんか!!」
「だからそんなんじゃ…」
ケンからのそんな冷やかしにため息をつく。
「で?向こうは気付いたわけ?
ーー詩音がレンだって事」
ソウマの問いに少し考えてから
「……多分だけど、、気付いてないと思う」
そう答えた。
僕達はShineという名前で活動しているアイドルグループだ。
メンバーはソウマ、ケン、そして僕…レンの3人。
7年間の下積み時代を超えて、有難いことに今は認知度も人気もかなりのものとなった。
人気も認知度も上がってきた頃に、僕は1度だけ変装するのが面倒でそのまま外に飛び出したことがあった。
しかし、5分も経たないうちに人に囲まれ大騒ぎになってしまい、事務所からこっぴどく叱られた。
それ以来、僕は変装なしでは街を歩けなくなってしまった
僕だけではなくて、もちろん他のメンバーも。
今日もいつも通りにサングラスとマスクを着けて、待ち合わせ場所に向かった。
変装していたとはいえ、あれだけ一緒に過ごせば気付かれてもおかしくない気がするけれど、、
めぐは…僕の正体に気付いてないようだった。
単純に僕らの事を知らないという可能性もあるが、、
サングラスの事を指摘された時は慌てたけど、僕の咄嗟についた嘘を簡単に信じてくれて驚いた。
「うそー!?気付かない事ある!?」
「…言わなかっただけかもな」
「確かに、、知っててあえて言わなかったのかな」
「あとでSNSとかで拡散されたりして!?」
ケンとソウマはそんな勝手な憶測を2人で進めている。
「おい、めぐ、、じゃなくて、あの子のこと悪く言うなよ」
「え、なに、もしかしてその子のこと好きになった?!」
「違うよ!ケンはいつもそうやって、小学生みたいな結び付け方する癖やめろ!」
「じゃあなんで庇う?」
冷静なケンが不思議そうに聞いてくる。
「…単純に嬉しかったからだよ」
「嬉しかった?」
「うん、もしあの子が僕の正体に気付いていたとしてもいいんだ。気付いてないフリをして僕と接していたとしても、今日過ごした時間が楽しかったのは事実だから。あの子に感謝してるんだよ。
ーー香流詩音として仲良くしてくれたこと」
僕らは今、アイドルとしての頂点まで上りつつある。
メンバー以外で僕に関わってきた奴は全員、僕の地位だけを見て近付いてくる奴らだった。
僕の事を香流詩音ではなくてShineのレンとして見る奴ばかり。
最初はこのアイドルというのを純粋に楽しんでいた。
しかし日を追うごとに僕の心は疲弊していった。
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