第11話 僕に残ったもの
詩音。
そんなふうに呼ばれたのはいつぶりだったか。
この世界にレンとして足を踏み入れてから僕の名前はレンになった。
#香流詩音__かなれしおん__#
名字の最後と名前の最後をとってレン。
そう名付けたのは他でもない自分だった。
あの日からレンに生まれ変わり、毎日何時間もひたすら練習に時間を、全てを費やしてきた。
ここまでのぼりつめるまで歩いてきた道のりは決して楽なものではなかった。
何度練習しても成果が出ない事に悔し涙を流し、先輩から日常的に受ける嫌がらせにも耐えた。
いつか頂点に上り詰め、見返してやることを誓って耐えた。
そしてその努力は実った。
日本であらゆる賞を獲得し、世界でも注目されるようになった今。
もはやあの嫌がらせをしてきた先輩など眼中に無いほどの差がついていた。
嫌がらせは無くなり、むしろ媚を売りに来られるほどだった。
僕達と接点を持つことで自分の株をあげるという愚かな目的の為だけに、謝罪までしてきた。
あれだけ憎かった相手に頭を下げられて、もはや立場は逆も同然となったのに僕はどこか釈然としない気持ちでいた。
これまでここまで上り詰める為にあらゆる努力をしてきた。
どんな努力も惜しまなかった。
全てはただこの場所に立つという目標に向かって。
しかしこの目標が達成された今は、、、、、
何の為に努力すればいい?
僕はこれから何に向かって歩いていけばいい?
頂点に辿り着いた僕に沸き起こった一番の感情は、達成感よりそんな感情だった。
目標を失った今、残った物は喪失感に近いものだった。
無論、僕には応援してくれる人がたくさんいてくれることは分かっている。
たくさんのファンがいてくれるのに喪失感なんて抱く事がどれだけ愚かでファンへの侮辱にしかなっていない事も。
ライブなどでファンに会うときは幸せで、皆に振りまいている笑顔も本物だ。
だけど、僕はこんなに幸せをもらっているのにそれをしっかりファンへ返せているのだろうか?
そんな事を考え続けてしまう。
次にファンに会うときは、もっとみんなを幸せにできるようなレンに。
もっと皆が求めてる通りのレンにならなくては。
その為にはどうすればいいか。
そんなことを永遠と考える日々。
答えはいつになっても見つかることはなく、段々と僕はステージに立つ事が怖くなってしまった。
もし、ファンの皆が描いている理想のレンではいれなくて失望させてしまったらどうしよう。
そうやってどんどん怯えて過ごす日々が増えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます