第12話 雨の中で

雑誌の撮影を終えて、マネージャーの運転で事務所へと帰ってる途中だった。






「…コンビニ寄らせて」






喉の渇きを感じて、マネージャーにコンビニへ車を止めてもらう。






「水でいいのか?」






「いや、僕が行く」






当たり前のように車を降りて買いに行こうとするマネージャーを止める。





今日は自分で買いに行きたい気分だった。






毎回マネージャーに買ってきてもらうのは、何だか自分が1人では何もできない奴に思えて嫌なのだ。






「ちゃんと帽子被っていくから」






そんな僕のわがままにマネージャーは考えるような顔をしたけれどただ一言






「早く戻ってこいよ」





とだけ言った。






「俺の飲み物も買ってきて~!」






ケンの頼みとマネージャーの言葉を受け入れたという2つの意味で頷いて、帽子を深く被って車を降りる。






コンビニで飲み物を2本選んで、レジまで持っていき、ふと外を眺めると雨が降っていた。





コンビニに入る前は降ってなかったのに、、






どうせ車だしどうでもいいか






そんな事を考えながら視線をレジの方に戻そうとした時。







何か違和感が引っかかった。







それはコンビニから少し離れている所だった。







ただ傘もささずに座り込んでる女性がいた。






え、幽霊?






それはそう思えるほど異様な光景だった。






立ち上がる気配もなくただ座り込んでる女性。






何があったのだろうか。






それともただのおかしな女なのか。






色々な感情が交差する中

僕が1番考えた事はーーー





「あの?250円です」





「…あ、すみません」






店員の言葉に強制的に意識を戻される。






そして次の瞬間ーー






「あの、傘ありますか?」






そんな言葉が口を突いて出た。






自分でも何をしようとしているのか分からなかった。








ただ気付いた頃には傘をさしてあの女性の元へ走っていた。






なぜか見て見ぬふりをする事はできそうになくて。






女性は驚いたように傘をさした僕の顔を見た。






瞳が綺麗な女性だった。





だけどその瞳は悲しげに揺れていて、彼女を苦しめた何事かがあったのだと悟る。






そして同時に、この悲しみがなければこの瞳はもっと綺麗なのだろうなと思う。






僕がその悲しみを取り除きたい。






なぜ全く関係のない僕がそう思ったのか。





それはこの女性の瞳の空虚さが今の僕と同じだったからかもしれない。





そんな事を考えた僕の目の前で、彼女が力が抜けたように膝から崩れ落ちた。







意識を失った彼女を受け止め、救急車を呼んで見送ったあとに車に戻ればマネージャーが怒るのも無理のない事だった。





なぜわざわざ見知らぬ女性の所に駆け寄って行ったのかと言われて僕もそう思う。





今思えば異常だったのだ。






女も僕も。






そして知らなかった。






この出会いが僕の人生を大きく変えることを。

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