第9話 前へ進もう

それから2人でたわいもない話をしながら、気付けば数時間が経っていた。





「そろそろ帰らないと」





詩音が時計を見ながらそう言う。






「何か用事でもあるの?」






「うん。7時からちょっと予定があるんだ」






「7時って…あと十分じゃん!!もう少し早く言ってくれれば早めに切り上げたのに!」






「ううん、ギリギリまでめぐと話してたかったから…こんなに気楽に話せたの久しぶりでさ、、嬉しかったんだ」






詩音の口角があがってるのを見て、笑っているのだと分かる。






「…私もこんなに楽しかったの久しぶりかもしれない」






「ほんとに?」






リョウと過ごした時間も確かに楽しかった。







けど今日1日詩音と過ごした時間はその時よりも楽しかった気がしたのは気のせいだろうか。






それとも昨日のできごとが私の楽しかった記憶を全て黒く塗り替えてしまい、そう感じさせるのだろうか。





分からない。







だけど今はもう過去を振り返らずに今この時間を大切にしようと思った。






こんな短時間にそう思えた、、否、そう思わせた詩音は本当に凄い。





「今日はありがとう。詩音のおかげで前に進める気がする」






「…めぐは強いね。またいつか…いつになるか分からないけど会いたいな」






「うん!連絡先も交換したし、、私が弱気になった時はまた今日みたいに慰めて…ほしいな」





「うん、めぐには特別にその権利をあげよう。めぐの心が泣き叫んでたら飛んで行ってあげる。アン〇ンマンみたいに」





「アン〇ンマンって」






詩音の独特な例え方に思わず吹き出す。






「スーパーヒーローってことでしょ?」





「ううん、アン〇ンマン。慰めっていうあんぱんをめぐにあげるから」






「そしたら私は新しい顔持って行かなきゃね」






そんな冗談を言い合って私達は別れた。







完全に立ち直れたわけではないけれど、詩音の言葉でこれからはゆっくり進もうと思えた。





来た道を振り返るのではなくて前へ。







またすぐ会えるかな詩音。






そんな事を考えながら私は家へと続く道を歩いた。

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