第8話 もう強がったりなんかしない
「…落ち着いた?」
「うん、、急にごめん」
私が泣き止むまで黙って待っていてくれた詩音。
その優しさに心の中で感謝しながら、ほぼ初対面の相手にとんだ羞恥を晒したことを今更後悔する。
「…正直言うと今すぐに忘れられるかは自信なくてさ、、けど弱音吐いた方がダメになる気がして弱音を吐かないって決めてたの。だけど詩音の一言で簡単にこんなにすぐ…」
弱さを見せてしまうなんて。
私の決心がどれほど脆かったか、、
今は痛いほど分かる。
「…ゆっくりでいいじゃん」
「え」
「焦らずに自分のペースで忘れればいい。無理に忘れようとするから辛いんだよ」
「自分のペースで…」
確かに私は変に焦りすぎていたのかもしれない。
あの人を消す事だけに必死になって
自分で傷をえぐってることに気づかずにただ何度も同じ事を繰り返していた。
自分に大丈夫だと言い聞かせて。
詩音に言われるまでそんな簡単な事すら気付けないくらいに心はボロボロになっていたというのに。
「うん。ありがとう詩音。おかげで大事なことに気付けた」
「ほんと?もう僕の慰めはいらない?」
「んー、、できればまた慰めてほしいな…だから連絡先交換しよう、、してくれませんか?」
きっとまた私はこの慰めが必要な時がやって来る。
それに、詩音との出会いを何となくここで終わりにしたくないという思いもあった。
だから私は思い切ってそんな提案をしたのだった。
「…!」
私の言葉に口を開けてポカーンとしてる詩音。
「え、だめ?」
そのまま黙っている詩音に私は不安になる。
「あははは、いいけど、、それって逆ナン?」
そんな私に詩音は突然笑い出しながらも、連絡先を交換してくれた。
「ぎゃ、逆ナンじゃない!詩音が慰めはいらないのかって聞いたんじゃん!」
「いや、あれは今この場でもっと慰めてほしいかっていう意味なんだけど?今後の話じゃないよ?」
「なっ!」
自分の勘違いに顔が熱くなる。
「それにしても今のナンパ術はプロがかってたね!もしかして常習犯?」
「そんなわけっ」
「冗談冗談」
笑いながら私の事をからかう詩音。
私もその笑顔につられて笑う。
「…良かった、やっと笑ってくれた」
「あ…」
その一言にようやく詩音の言葉の意図に気付く。
「…めぐは会った時からずっと泣きそうな顔してて笑顔は一切見せなかったからさ、、うん。笑顔の方がずっと可愛いよ」
溢れる悲しみを必死に隠してるつもりだったけれどどうやら詩音には最初からバレバレだったらしい。
だけどもう隠す理由はない。
詩音には私の心情を全て打ち明けたのだから。
大丈夫だと強がる必要もない。
詩音は全てを分かってくれてるから。
知り合って間もない人物のはずなのに私は妙な安心感や信頼のようなものを詩音に対しておぼえていたのだった。
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