第43話 もう疲れたんだ

慣れ親しんだ事務所の練習室に入る。






壁一面に貼り付けられた鏡。






たくさん練習したせいで傷の付いた床。






この光景を見ていると"レン“として過ごしていた日々が浮かんでくる。






"もう少しだけ練習してみようぜ“






"オリコン1位目指そうな!!“






"俺達のアルバムの売り上げが100万枚を突破したって!!“






この部屋で3人とも汗水流して練習した。





その道は決して楽ではなかった。





練習の成果が上手く出せずに食事も睡眠も取らずに何日も練習した事もあった。






この部屋で数々の夢も悪夢も見た。







ヒナタさんの言う通りこの世界は他人を蹴り落として生きて行く世界だった。






けど僕は、蹴り落とすことに慣れる悪魔にだけはなりたくなかった。





それでもアイドルの日々を過ごし、ヒナタさんよりも上に行くという当初の夢とは異なった夢を叶えた途端、僕は何も分からなくなった。






これからどうすればいい?





何を目指せばいい?





そんな事を考えていたらいつの間にか段々と感情が抜け落ちていった。






いつも活力を得ていたファンが僕達にくれる言葉も何も響かなくなっていた。






そんな自分はもう充分に悪魔なのではないかと思う。






「…なあ、大丈夫か?」






下を向いてうずくまっていた僕はケンとソウマが練習室に入ってきたことに気づかなかった。






「……大丈夫なわけないだろ。めぐからの連絡は相変わらずなし。報道は全部嘘なのに、、否定する事すら許されないんだ」






憂いを帯びた声で心配してくれるケンに対してイライラが積もっている僕はつい尖った口調で返してしまう。






僕にとってめぐが唯一の希望だった。






純粋でこんな汚れた世界とは無縁のめぐが。





そのわずかな希望さえ奪われた僕はもう……






「…なぁケン、何で僕はアイドルなんてやってんのかな」






「え」






「ここまで追い詰められても続ける事なのか?」






「まさかお前…引退するとか言わないよな?」






「……」






「レン!アイドルをやってるお前はいつもキラキラしてて、ファンと会う時は心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべるじゃないか!それがお前のアイドルをやる理由だろ!」







「もう響かないんだよ!何も!!」






「!!」






「確かに前まではファンの一言でどれだけ救われてたか計り知れない。けど…






今は何も感じなくなった。。最低だよ僕は、、これじゃああの人と変わらない。。もう疲れたんだよ。」






きっと僕にはもう、アイドルをやる資格なんてないんだ。






夢を失ってる僕に夢を与える仕事など到底できるはずがないのだから。






僕の最低な嘆きを2人は黙って聞いているだけだった。

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