第40話 バイブの宣戦布告

『なぬ!? 女神とな!? 女神がおるのか?! 旦那様は顔見知りであったか!? って、そうか……旦那様は一応、女神が人類に与えた神兵器の一つであったな……』


『うん、一応……』


『あぁ、ご主人様……今日もなんと可愛らしい……ちゅっ♥ ちゅっ♥ ぺろぺろ♥ 足の指も綺麗に……今は眠っているブルブル棒にも……』



 人類に巨神兵を与えて魔界を危機に追いやった元凶である女神の存在に驚くチヴィーチ。

 しかし対して帝国側も目の前の魔水晶に映し出される光景に、本日何度目か分からない驚きに満ちていた。


「ちっ、あのガラクタが……」

「っ、それよりも、ハーラム様が……なんとおいたわしい……」

「ぐっ、おのれぇぇえ! あのガラクタめ、ハーラムになんてことを……」


 チヴィーチの後ろから現れた、クエイク。女神の言う通り生きていたことに驚きではあるが、そのクエイクが現れた瞬間に、クールな表情をしていたハーラムが雌の顔になってクエイクの体にすり寄り、その頬にキスをして、犬のように頬を舐め、そしてそのまま這い蹲って足にすり寄り……



『御主人様、今日も我は仕事をした。クソ人間どもやチャラチャラ勇者に老害皇帝たちに報告した。さぁ、褒めてくれ! 撫でて♥ ブルブルご褒美が無ければ壊れるぶひ♥』


『あっ、ちょっと待ってよ、ハーラム。今は話が……』


『この期に及んで放置プレイとは……何たる鬼畜ご主人様だ! しかし、待たされ、焦らせ続けたときにブルブルを一気に突っ込まれたら……はぅ……熱い……嗚呼、ご主人様♥ こ、このままでは、我は壊れてしまうぞ?』



 もうとっくに壊れていると誰もが思った。もうかける言葉もぶつける怒りすらも思い浮かばぬ程のハーラムの悍ましい姿。

 そんな中、ハーラムの頭をヨシヨシと撫でながら、クエイクは今一度、女神に向けて手を振る。



『とりあえず……お久しぶりです』


「ハ~イ、元気そうデースね~。さっき、この人たちに捨てられたと聞きマーシタが、キュートなガールに拾ってもらえて良かったデースね~」


『……はい……』


「リミッターも外れて、色々と自分の力も思い出せたようで……ウフフフフ」

 

 

 何気ない会話を始める二人。

 ご機嫌な女神に対して、様子を伺っているクエイク。

 そして、クエイクは女神の顔色を見ながら……


『リミッター外れた俺を……どうしますか?』


 真剣な表情、真剣なトーンでそう尋ねるクエイク。

 だが、対して女神は軽い表情で両手を上げた。



「どうもしマセ~ン! 副作用で女の子たちに何かあったらと思って最初はつけただけで、あなたをこの世界にあげた時点で、あなたはこの世界の住人デース。だから、外れたのであれば、それでいいではないデースか~♪」


『……そんなもんですか?』


『ハ~イ。体の丈夫そうな女の子にも出会ったようデースし、私はこのままあなたが何を成し、何を震わせるか、それをジックリ観察するだけでいいデース。その結果、人類が滅んでも私にはどうでもいいことデース』 



 その様子は、本心でクエイクに何かをする気はないようであり、同時に人類がどうなっても構わないとあまりにも軽い口調でそう話す女神に、セルフたちは戦慄した。



「まっ、近いうちにあなたの健康状態を見に会いに行きマース。その時は、せっかくなので、私にもブルブルしてくだサーイ♥」


『なぬっ、ちょっと待つのだ、女神よ! そもそもの元凶であるウヌが、儂らの旦那様のブルブルを……いや、こうして旦那様と出会えたのもまた貴様のおかげでも……いやいや、とにかく勝手に旦那様のブルブルを味わうのは許さんのだ!』


「オ~、それなら皆でブルブルパーティーデースカ? イイデースね、私も魔族の女の子のブルブル姿は生で見たかったところデース♥」


『むっ、貴様……なかなか話が分かる女神か……』



 と、皆が言葉を失っている間にチヴィーチと女神がくだらない話を繰り広げたが、今一度セルフが立ち上がって、魔水晶に向かって言葉をぶつける。


「おい、それより……チヴィーチ……ガラクタ……貴様らはこれから何を成そうとしている?」


 これから魔王軍は何をしようとしているのか? 全てに通ずるその問いに対して、チヴィーチは笑みを浮かべ……


『決まっておる。魔王軍の体制を立て直し……地上の巨神兵を全て駆逐することなのだ!』


 迷いなく宣言するその言葉に、セルフは反論する。


「で、できるものか! いかに十五体の巨神兵を倒したとはいえ、我ら人類の巨神兵はまだいる! 神兵器が、まだ――――」

『その全てを、儂らは、そして儂らの愛する旦那様が粉砕してくれようぞ!』

「は、そ、そんなガラクタに何が……だいたい、貴様もだ、ガラクタよ!」


 そして、その怒りはチヴィーチだけでなく、その傍らのクエイクにも向けられた。



「元々貴様らは我ら人類側の存在……それがちょっと捨てられたぐらいで、魔王軍なんぞにアッサリ寝返って……恥を知れ! このクズめ! ガラクタめ!」


『………………』


『おいおい、小僧がぁ、儂の旦那様になんという口を利いておる?』


『ふん、自惚れた勘違い勇者め……我のご主人様を侮辱するとは……その股にぶら下がっている粗末なものを斬り落としてやろうか?』



 それはあまりにも身勝手な言葉であり、それを聞いていたチヴィーチも、そしてハーラムも額に青筋を浮かべる。

 すると、クエイクは……



『俺は俺を必要としてくれた、俺に期待してくれた人たちに応えるだけだ』


「な、なにぃ?」


『そして、最初に俺のことを要らないって言ったのはあんたたちなんだ……だから俺も……もう、あんたたちなんていらない! あんんたたちを滅ぼすことで俺を受け入れてくれた人たちが喜ぶなら……俺はあんたたちを容赦なく粉砕する!』


「きさ、ま……」



 それは、帝国に居た頃のクエイクからは考えられない強い口調と強い意志と冷たい言葉だった。

 同時に宣戦布告でもあった。

 そして……



『でも……今日、俺がこうして話をするのは……一つだけ……姫様に……ジェラシに伝えたいことがあったからなんだ……今、この場に居ないみたいだけど……』


「ッ!? き、貴様、この期に及んで、我らが姫殿下に何を?! 何を言おうというのだ!」


 

 その言葉にセルフは激昂するものの、クエイクはハッキリと……



『これだけは言いたかったんだ……俺は……今度、ジェラシに会えることがあったら……ジェラシが受け入れてくれるなら……俺はジェラシだけは欲しい……そうチヴィーチたちにお願いした』


「「「「「ッッ!!??」」」」」 



 宣戦布告どころか、帝国の姫を略奪することをも宣言した。

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