第6話 副作用

「た、助けて! ねぇ、私、ほら、私もあなたに何回かマッサージされて……ね? 覚えてるでしょ? 私よ! サレナよ? ね! あの日も本当は私……止めたかったの! でも、ほら、私の立場じゃどうしようもなくて、でも、助けてくれたら……ね!」



 必死に命乞いする若い女。その女のことをクエイクも当然覚えている。

 そして、自分が捨てられたあの日にこの女が……


――まさか、こんなことになるなんて……一刻も早く廃棄するべきね


 と、言っていたことも覚えている。



「お、俺も、お前にマッサージされたことあって、腰痛が治ってよ、あの時からお前はやる奴だと思ってたんだよ! な? 今度こそ、姫様や勇者にもお前のことを進言するよ! 俺らが進言すればもう何も――――」


 

 この男のこともクエイクは覚えている。そして……


――姫様、必ずや元の姫様に戻して差し上げますよ。そのためにも……このガラクタを破壊しろ!


 自分に向けて、そう吐き捨てたことも覚えている。


「して……英雄殿よ……どうするのだ?」


 巨人の中に居た人間たち五人は手足を縛られて魔族たちに囲まれている。

 戦争に身を投じている彼らも、このままでは自分たちの身がどうなるかなど分かっている。

 だからこそ、必死に、みっともなくも、かつて自分たちが捨てたクエイクに懇願する。



「いらない……もう、お前らなんか……いらない」


「「「「「ッッ!!??」」」」」


「もう、お前たちの本性は分かったし……俺は……もう、お前たちの役には立ちたくない」



 しかしクエイクは完全に拒否した。

 手のひらを返したように自分に懇願してきた人間たちを。


「ぬわははは、では、話は終わったということで……あとは、ワシらが預かることで良いのだ?」

「ああ」


 すると、クエイクの前にはニヤニヤとした笑みを浮かべるチヴィーチ。

 その姿に人間たちは更に恐怖で顔を引きつらせるが、クエイクはアッサリと頷いた。



「では、尋問を始めるのだ! そのオナゴは縛って儂の寝所に運ぶのだ! 儂が味見したら、あとは貴様らにくれてやるのだ♪ そして全てが終わった後、巨神五体を討伐した大勝利を肴に宴なのだ!」


「「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」」


「い、いやだあああ! やめ、た、たすけ、助けてくれ!」


「いやぁぁ、こんなの、お願い、た、助けて下さい! わたし、まだ、しょ、処女なんです!」


「くそ、死にたくねぇよ! や、やだ、やめてくれぇ!」



 魔族たちの雄叫び。人間たちの悲鳴。その全てと今は関わりたくなくて、クエイクはその場から……


「……え? ……ッ!」


 そのとき、突如クエイクの体がふらついた。


「はあ、はあ、はあ……え?」


 平衡感覚が乱れ、何故か呼吸も荒くなり、何よりも体が先ほどの戦い以上に熱くなっていることに気づいた。


「え? あ、あれ? おれ、うぐっ……ぐっ……」

「ん? どーしたのだ? 英雄殿?」

「英雄様! どーしたんですか!?」

「英雄殿!?」


 魔族たちの味方として巨人……巨神兵の五体を討ち取ったクエイクは、姿は人間に近くても人間ではなく人間にも見捨てられた存在ということで、チヴィーチたちはそれを受け入れて英雄として担ぎ上げようとした。

 しかし、そのクエイクが突如胸を押さえて蹲りだし、三人も他の兵たちも動揺して慌てて駆け寄る。


「だめ、ヒールの魔法をかけても……熱がちっとも収まりません!」

「ぬぬ? これは一体、どーいうことなのだ?」

「姉上、ひょっとしてこの英雄殿の使った先ほどの力……何かの副作用があるのでは?」


 魔王軍が数百人規模集まって一斉攻撃しても苦戦するほどの戦闘力を誇る巨神兵。

 それを打ち倒すほどの力を振るったのだから、何もないわけがない。

 

「おい、人間どもよ。この英雄殿はこれまで貴様ら帝国に居たということだが……この事象について何か……いや、知らぬか」


 システィアが人間たちにクエイクのことを聞こうとしたが、人間たちもまたクエイクの力に驚いていたこともあって、何も知らないに決まってると、すぐに諦めた。

 だが、こうしている間にもクエイクは……


「とにかく、私の天幕に運びます!」

「うむ。おい、貴様らはその縛った人間を連れて行くのだ! システィアはここを任せるのだ。儂とクロースで色々と見てみるのだ」

「承知した。何かあればすぐに念話で」


 本来、こういう治療のようなことは部下に押し付ければよいのだが、相手が巨神兵を倒すほどの英雄ともなれば、そうはいかなかった。

 何よりも、現在治癒の魔法を使ったり、知識の面ではクロースやチヴィーチより上の者もこの場に居なかったこともあり、二人は姫という立場でありながら、己の寝所に出会ったばかりのクエイクを運び込んだ。


「あ、熱い! もっと熱くなっています、お姉さま!」

「うぬぅ……これは風邪などではありえぬほどの体温なのだ……このままでは死ぬのだ」

「そんな! 私、まだ彼の名前も……助けて頂いた恩も……」

「分かっているのだ。こやつが人間の敵であり……さらにはあれほどの力を使えるというのなら……ワシとしても是非とも引き込みたいのだ」


 とにかく死なせるわけにはいかないと、クロースとチヴィーチは必死にクエイクを何とかしようとする。

 しかし、クエイクは苦しそうに、更に容体も悪化し、二人は天幕の中でベッドに横たわるクエイクにどうすればいいのかと頭を抱えていた……その時だった。



「……ん? あれ? お姉さま、これ、何でしょう?」


「なんなのだ?」



 クロースが何かに気づいた。そして、ベッドの上で横たわるクエイクの体のとある箇所を指さした。


「何か、膨らんでいます? 何かが入っているのでしょうか?」

「……なぬ?」


 キョトン顔のクロースに言われてチヴィーチも「ソレ」を見る。


「……ん? ……んん!?」


 そして二度見した。


「こ、これは……」

「これは、何です? ……お山が!?」

「で、でかっ!? いや……な……なんなのだ、コレは!? ま、まさか……こ、これは、まさか!?」


 クエイクの体がとんでもないことになっており、そしてそれが何なのかがチヴィーチはすぐに分かり、口を開けて固まってしまった。

 そして、ゴクリと喉を唸らせ……



「な、何たる……すーぱーなのだ……デカくて……ビンっと……何たる、スーパービンビンマウンテンなのだ!?」


「ビンビンまうんてん?」


「い、いや、しかし、ありえぬ! 何たるビンビンぶりなのだ!? し、しかもこんなデカくて……火山の噴火前のように震えておるのだ!? なんなのだ!?」



 突如目の前に巨大な山脈が現れて、二人の女はただその山を前に身を竦ませ、そして……



「はあ、はあ、んっ!」


「「へっ? わわ!?」」



 寝ていたはずのクエイクが突如、正気を失った目をカッと開き、同時にクロースとチヴィーチ二人の手首を掴んで、引き寄せ、ベッドに引きずり込み、そして……



「え、えええ!?」


「な、なぬ?! ちょぉ!?」



 ガッチリと二人まとめてギュウっと抱きしめる。

 その突然の出来事に、クロースとチヴィーチは目をパチクリさせて戸惑う。





 だが、これで終わり……なんてことが、あるはずもなかった。

 









 そのとき、遥か遠くの地にて……



「副作用ですか? 所長」


「そうデース。バイブマンの彼は、リミッターが外れて超振動の力を使ってしまったら、副作用がありマース。それが理由で戦争兵器としても敬遠されマーシタ」



 真っ白い部屋。真っ白い白衣を着た二人。

 一人は若い男。

 もう一人は、妖艶な笑みを浮かべる女。



「超振動戦闘時、彼自身の体内の血液も超高速で循環シマース。それにより、振動技以外にも超高速スピードで動くことも可能となりマースが……そのありえぬほどの血の流れが極度の興奮状態となって、更には彼の体内の人工物質によって変換され……あ~……う~ん」


「所長?」


 

 最初は機嫌よさそうに説明していた所長と呼ばれる女。

 だが、長い説明で段々とめんどくさくなったのか、途中で説明をやめて、ニッコリした笑みを浮かべて……

 


「ようするに、スーパービンビンな状態になってしまいマース! 女の子が3時間ぐらい『相手』してあげないと死んじゃうくらいデース!」


「……なっ……え?」


「そして、彼もまた無意識の暴走状態で求めちゃいマース……行為の最中も振動しちゃいマース……ノンストップでーす……全てが終わったら、彼は元に戻りマースが……もう、女の子……普通に戻れなくなりマース」


「…………………」


「流石に軍事利用は危険だから処分しようと思いマーシタが、かわいそうなのでリミッター付けてマッサージ改造人間にしマーシタ」



 そんな世界の果てでの会話を、魔族の姫たちは全く知らなかった。

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