第3話 クロースと姉と妹は生えてない
「人間なのに、あなたは人間に殺されるところだったのですか? どういうことです?」
人間ですか? そう問われて「当たり前だ」と言いかけるも、クエイクは何とも言えなかった。
どうしても、しっくりこなかったからだ。
「わ、分からない……」
「はい?」
「俺、分からないんだ……」
自分が何者なのか分からないが、自分の見た目は人間なはず。しかし、人間なのかの問いに、クエイクはハッキリと答えられなかった。
すると、クロースはクエイクの右頬や目の周りに触れる。
「つめたいです……」
「あったかい……」
「あら?」
「え?」
それはほぼ同時に口にしていた。クエイクの体にクロースが触れた瞬間、クロースは冷たいと感じ、逆にクエイクはクロースを温かいと感じた。
「コホン、えっと……体温も少し違うようですし……右目の周りも違いますし……うん、あなたは人間ではなくて、ちょっと変わった人なのですね!」
「え……」
「そういうことにします! そうしないと、お姉さまたちに怒られちゃいますから。人間なんかを助けて~、なんて♪ だから、あなたは人間ではなく変わった人ということでお願いしますね?」
「あっ、いや、その……」
クエイクに対してクロースは少し不思議そうに覗き見るも、すぐに柔らかく微笑んで、軽く、そして優しくクエイクにそう言い聞かせてウインクした。
その微笑みに、クエイクは思わず目を奪われて、一瞬状況を忘れてしまっていた。
そう、そもそも今は……
「氷系魔法一斉射出!! 奴らを凍らせるのだ!!」
「「「「「了解ッ!!」」」」」
「やつらを凍らせたら、巨暴部隊で一斉攻撃!! 我に続けッ!! 必ずや中に居る人間どもを引きずり出し、臓物を抉りだして引き裂いてやれ!!」
「「「「「ウゴオオオオオ!!」」」」」
そんなノンビリしている場合ではないのだから。
「って、うおおおおい、クロース! ウヌはナ~~ニを乳繰り合っておるのだぁあ!?」
「あら、チヴィーチお姉様」
「エクスプロージョン使って疲れてるだろうが、まだ何も終わっておらぬのだ!」
そんなとき、軍を率いていた内の一人である幼女が、クロースとクエイクへ怒鳴りながら駆け寄ってきた。
――つるーん、ぺたーん、ぷりっ!? むねのポッチが?! 下もパンツみたいな布で隠してるけど筋が見えてはみ出てない!? 生えてない! ツルツルだ!
ただでさえ最初見たときは驚いた大胆な衣装も、こうして目の前まで近づいてくれば二度驚く。
さらに、クロースが「お姉様」と口にしたとき、クエイクは聞き間違えかとも思った。
「うふふふ、半分獣人さんの血を引いてますが、本当に私のお姉様ですよ? お腹違いですけど♪」
「!?」
そんなクエイクの考えを見透かしたかのように、またウインクして告げるクロース。
さらに……
「背はちっちゃいですけど、とってもエッチな御方なので、気をつけた方がいいですよ~♪ 油断すると、パクッて食べられちゃいますから。この間も天幕に色々な女の子を連れ込んでモグモグって……」
「……えっ!?」
「うおぉい、聞こえておるのだ! 男に何を言っておるのだ! 儂はカワイイオナゴにしか興味……って~、そやつ、人間ではないのかなのだ!?」
「違いますよ、お姉様。ちょっと変わった人です!」
冗談なのか本当なのかは別にして、色々と驚くリアクションしか取れないクエイク。
むしろ、こんな格好をしているこの女の方が悪い狼や獣に美味しく食べられそうな容姿をしている。
そんなクエイクを見て、チヴィーチは「人間ではないか?」と驚愕する。
一方で……
『邪魔だああああああ、魔界の虫けらどもオオオオ!!』
『はははは、死ね死ね死ねええ!!』
『少しは頑張ったようだが、これまでだ! オークもオーガも獣人も……小さいなぁぁ! ああ、小さいなぁぁ! 弱いなあああ!!』
『光の正義の力を思い知りなさい!!』
『これが人類の、そして俺たちの力だぁああああああ!!』
「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
巨人から聞こえてくる残酷な声と共に、空中に多種多様な魔族や獣人たちが舞い上がった。
「あっ……皆さんが!」
「ちっ、やはり一筋縄ではいかんか……って、いかん! システィアが?!」
巨人たちに襲い掛かっていた味方が一斉にやられてしまう光景に、クロースもチヴィーチも表情を変える。
そして……
「わらわは無事だ……ヴィーチ姉上……クー姉上……」
宙でクルクルと回転しながら華麗にクールに着地……
――褐色おっぱい、お尻、ぶるんぶるん!? あっ、隙間、乳首見え、真っピンク!? 下は生えてないんじゃなくて、剃っている!?
チヴィーチと対極的過ぎるボディ。
しかし大胆さでは同じである。
と、クエイクは揺れる褐色の乳房と尻が目の前に現れて目を奪われ……そして……
「はい、この子は私の妹です♪ お姉様同様お腹違いで、半分がダークエルフですけど」
「えっ!? こっちが妹!?」
「ちょっと怖い顔をしてますが、将来の夢はお嫁さんって思ってる、とってもカワイイ子なんですよ?」
またもや心を読まれたかのようにクロースは耳打ちしてきた。
「ぬ? 誰だ貴様は……ん? に、人間!?」
「彼はちょっと変わった人です」
「は?」
明らかに妖艶な雰囲気を醸し出す大人の女という容姿と煽情的過ぎる衣装ゆえ、誰よりも年上に見えるも、三姉妹の中で一番下だということに、クエイクは驚くしかなかった。
だが、何度も驚かされるも、今は驚いている場合ではない。
「ちっ、とにかくヴィーチ姉上、クー姉上、一度立て直しだ!」
「確かに、今はそういう状況ですね」
「うむなのだ」
そして、それは三姉妹も分かっているようで、すぐに顔つきを変えて巨人に向けて構える。
だが、そのとき……
「ん? そうなのだ」
「お姉様?」
「こやつ、誰か知らんが人間ならば……相手は正義の味方! に~♪」
「あ、お姉様、何を!?」
そのとき、悪魔のような笑みを浮かべたチヴィーチが、そのフサフサの尾でクエイクの首を締めあげて、そのまま巨人たちに見せつけるように掲げた。
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