第20話 凛々しき女騎士将軍ハーラムと銀百合乙女騎士団

「撤退した魔王軍の追撃に出たサレナたちが帰ってこない? しかも、巨神兵の反応も途絶えたとは……」


 レイブレイーブ砦の最奥に位置する作戦本部にて、砦の責任者でもある、若き女騎士将軍ハーラムは安否不明の仲間の話に唇を噛みしめた。


「ハーラム将軍……まさか、彼女たちは魔王軍に……」

「ばかな。魔王軍の被害はそれなりに大きかった……あの五人がそう簡単にやられるなど……」

「で、でも、何の連絡もないなんて……」

「涙目になるな。我ら気高き勇猛な銀百合乙女騎士団の名が泣くぞ!」


 テーブルを囲んでいるのは若い女たちが中心となっている。

 女ではあるものの、彼女たちこそが人類が魔界に派遣した選ばれし乙女たち。

 そのトップは十八の若さで数多くの武勲を上げて将軍まで上り詰めた天才、神童、戦女神とまで呼ばれて恐れられた、女騎士将軍ハーラムと、彼女自身が選んだエリート戦士たち。

 その騎士団の活躍は地上、魔界問わずに広まり、ついにはハーラム含む十人の乙女たちに巨神兵を与えられるほどに。


「でも、巨神兵五体も出て、それで何かあるだなんてとても……」


 騎士団に巨神兵が与えられてからは、戦えば連戦連勝無敗続きゆえ、敗北というものを知らずに勝ち続けた彼女たちにとって、巨神兵五体の消息不明という報告は、騎士団設立以来の重大な出来事。

 サレナたちは自分たち騎士団と所属は違うものの、同じ巨神兵を与えられた仲間であり、何よりも……


「あのサレナに何かあって……たまるものか。あいつは近々我ら銀百合乙女騎士団の所属になる、選ばれし戦士の一人だ! 小さく弱い魔族なんぞに後れを取るはずが……あってたまるものか!」


 怒り任せに拳をテーブルに叩きつけるハーラム。

 その怒りに他の乙女たちもビクッと体を震わせる。


「そ、そうだ、きっと何か事情が……」

「だよね! うん、サレナさんがやられるわけないよ……」

「それに、他の男たちもついて行ってるはずだし……」

「ああ、我らの仲間を信じよう!」


 乙女たちは皆が「大丈夫」と自分自身にも言い聞かせるように次々と口にしていく。

 巨神兵に敗北はありえない。だから大丈夫だと。

 いや、巨神兵に敗北はあり得ないであって欲しいという、むしろ願いにも似たような思いだった。

 なぜなら……


(巨神兵が負けるわけがない……しかしもし……)

(たとえば、もし巨神兵にたとえば……弱点とか攻略法があったとして……)

(それを魔族共が突いてきたとしたら……)

(何の連絡もないなどありえない……そこまで深追いするわけがない……つまり……何かあったのだ)

(いやだ……だって、巨神兵は無敵で……だから私たちはもう死ぬことは無いって……)


 巨神兵を与えられたのだから戦争で自分たちが死ぬことはほとんどないと高を括っていた。

 しかし、もし巨神兵が破れることがあったとしたら?

 言いようのない不安と恐怖が一気に乙女たちに襲い掛かり、その不安に満ちた弱々しい目は戦士でも騎士でもなく、ただのか弱い乙女だった。

 そして……



――――ドオオオオンッッ!!!!


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 突如、砦全体が揺れるほどの衝撃と轟音が響き渡った。


「な、何、何だッ!?」


 よろけそうになる体を堪え、慌てて窓を開けるハーラム。

 その瞳の先、砦の正門付近から喧騒と煙が立ち込めている。



「ハーラム様ぁぁああ!!!」


「何事だ!」


「先日の三姉妹姫の軍がまた攻めてきました!」


「な、なにっ!?」



 まさかの魔王軍の襲撃に乙女たちの表情が強張る。

 ここが最前線である以上、常に戦の危険は伴うし、現に先日も三姉妹姫の軍と交戦して勝利を得た。

 一度勝ち、逃げた連中がもう一度懲りずにやってきた……と、普通なら思うところ。

 しかし……


「ばかな、あれからまだ数日だというのに……もう攻めてきたのか? 奴らとて相当な被害を被ったはず……魔王から援軍でも送られたか?」


 そう、前回の襲撃からこんなに早く再び攻めてくるとは誰も思っていなかった。

 しかし、それでも攻めてきた。

 それはつまり……


「懲りない奴ら……と断ずるほど、チヴィーチもシスティアも阿呆ではないはず……攻めてきたということは……何か勝算が? バカな……」


 勝算があるから攻めて来たのではないかと、ハーラムを始めとする乙女たちは考えた。

 そして何よりも……


「しょ、将軍……いま、巨神兵は……サレナたちが……」

「分かっている」


 本来、十五体居たはずの巨神兵が現在十体しかいないのだ。

 元々自分たち十体だけだったが、ここが最前線で重要拠点ということで帝国からサレナたちが送られてきたのだ。

 巨神兵は一騎当千。十五体居れば単純計算で一万五千規模の力を持つ。

 しかし、五体も居ないということはそれだけで大幅な戦力ダウン。

 さらに……



「ま、まさか、サレナたちは……あいつらに……」


「「「「ッッ!!??」」」」



 一人の怯えた乙女がそう口にした瞬間、その場にいた全員が震えた。

 ひょっとしたら、サレナたちの巨神兵は既にやられているのかもしれない。

 もしそうだとしたら、魔王軍は五体の巨神兵を打ち倒す術を手に入れたということ。

 だとしたら……



「ええい、考えても仕方ない! 出陣するぞ、お前たち!」


 

 だが、今はそんなことを考えても仕方ないと、ハーラムはこの場に漂う不安や恐怖を一蹴して声を上げる。



「たとえ、サレナたちがどうなっていたとしても、ここが我ら人類の重要拠点であることは変わらない! この砦を得るためにどれだけの苦労があったと思っている? 奴らに奪い返されてなるものか! 銀百合乙女騎士団、雄々しく華麗に気高く出陣だッ!!」


「「「「「あ、う……ぎょ……御意ッッ!!」」」」」



 覚悟を決めていくしかない。

 恐れを抱きながらも乙女たちは出陣する。







 そして、生涯最悪の日を迎えることになる。


 





――あとがき――

お世話になります。今日から日曜日までにかけて諸事情により0時、7時、12時、17時、22時の一日5話以上の怒涛の勢いで更新していきますので、よろしくお願いします。


また、下記の☆☆☆バイブを★★★に入れて突っ込んで頂けたら作者ブルブル悦びまくりますので、面白いと思っていただけましたらご評価頂けましたら幸甚です。


更新のモチベーションにもなります。


また、作者のフォローも何卒よろしくお願い申し上げます

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る