第21話 砦の攻防
「魔導士部隊! 一斉射出!!」
「投石部隊! 放てッ!!」
「弓兵、前へ!」
闇の空へと吸い込まれる爆炎。
無数の岩石と弓まで同時に放たれ、砦の門は防戦を強いられていた。
とはいえ……
「臆するな! 魔法障壁を維持せよ!」
「盾兵よ、魔導士部隊を死守せよ!」
「無理に反撃しようとするな! まずは防壁の維持に努めよ!」
周囲が岩山に囲まれており、砦の入り口は一つしかない。
その一つの門を死守することこそが帝国兵の使命であり、シンプルであり、そのための防御の準備は万全だった。
敵が攻めてくれば、まずは徹底的に防御に力を注いで、敵の軍の侵入を防ぐこと。
そして一定の時間を稼ぎさえすれば……
『お前たち、ご苦労だった! 下がっていろ! 後は……』
「おおお、ハーラム将軍ッ!!」
あとは、巨神兵が全てを片付けるのだ。
『『『『『銀百合乙女騎士団、出陣ッッ!!!!』』』』』
砦の門をジャンプで飛び越えて、一気に現れる十体の巨神兵。
砦の外の地面に着地した瞬間に地響きする。
集っている魔王軍の兵たちも一気に緊張が高まる。
しかし……
「来たぞ、巨神兵だ!」
「おう、作戦通りだ!」
「たのんます、クエイク様ッ!!」
そのとき、砦に攻め込んできた魔王軍の布陣に、ハーラムたちは奇妙なものを感じた。
『ぬ? どういうことだ? こやつら……』
普通、固く閉ざされた砦へ攻め込むのならば、とにかく砦上の守備へ攻撃を仕掛けながら、門に突撃して力づくで突破するか、砦の上に梯子を掛けるなどしてよじ登り、中に侵入して内側から門を開放するなどの手がある。
いずれにせよ、そういう攻め方をするのであれば、砦の門の周りに敵兵が密集しているのが普通である。
しかし……
『どういうことでしょう、ハーラム様……あいつら……あんなに離れて……』
『魔法と投石と弓による中距離攻撃……でも、あれでは障壁で弾けます』
『何か狙いが? いや、周辺に罠の様子もない……』
いつもと違う魔王軍の様子に、先ほどまで会議中に抱いていた恐怖や不安が高まっていく。
何を狙っているのか? と。
だが……
『き、きっと、あいつら、怯えてるんだよ! そうだよ! 攻撃してるけど、巨神兵に怯えていつでも逃げられる距離から攻撃してるんだよ!』
そのとき、一人の最年少の乙女がそう叫んだ。
『アヌル! まて、もう少し様子を見を―――』
『先手必勝ですよ、先輩たち! 私がソッコーで蹴散らしちゃいますから!』
皆の妹分のように扱われ、時には厳しく、しかし愛情をもって扱かれて、可愛がられている将来有望の乙女。
憧れの銀百合乙女騎士団に配属されてまだ浅いが、その天真爛漫で愛くるしい笑顔と明るさで早くも騎士団のムードメーカーになった少女は、状況を自分の都合のいいように捉えた。
しかし……
「来た……まずは一体か……」
そのとき、勢いよく魔王軍に向かって走り出したアヌルの前に、一人の男がゆったりと現れた。
その容姿は異形の魔族とは違い、どちらかというと人間に……
『え? なになに? だれ? え?』
突然人間の姿をした者が一人で現れたら流石のアヌルも戸惑い、動きを止める。
味方か? 砦の中の者たちが出てきたのか?
それとも……
『ん? あやつ……どこかで……ッ!?』
そしてそのとき、最後尾に居たハーラムは現れた男の顔を見て、ハッとした。
『あやつは……あれは……姫様を誑かそうとした……『勇者・セルフ』様の手で廃棄処分されたガラクタではないか!』
帝都に居た頃に、ハーラムはその男……クエイクを見たことがあった。
女神より与えられた神兵器の中に紛れ込んでいた、改造人間と呼ばれたマッサージ師。
力がなく、魔法や剣も扱うこともできない者であり、戦に生きるハーラムにとっては男としての魅力を感じることは一切なく、そんな男が敬愛する帝国の姫であるジェラシに重宝され、寵愛を受けていることが面白くなかった。
だからこそ、クエイクが姫を誑かして堕とそうとしていたところを、勇者が見つけて処刑したと聞いたときは「よくやった」と心の中で思っていた。
『あやつ……生きていたのか! しかし、何故ここに? 魔王軍と何か……』
死んだと聞かされていた男が生きていた。それだけで驚きだというのに、魔界の、しかもこの場に一体どうして現れたのか?
その答えが出ぬまま、クエイクは両手を前に翳し……
『えっと、あなた誰? 邪魔! どいてよ! それとも魔王軍の仲間だって言うなら容赦しな――』
「砕けろッ!! 超振動波ッ!!」
『へっ……?』
クエイクの手から大気を震わす輝く光線が放たれる。
それを真正面から受けてしまう巨神兵は咄嗟に両腕を交差させて防御の姿勢。
だが、防御など関係ない。
『……え? え、ええええ!?』
『『『『アヌル!!??』』』』
その場にいた銀百合乙女騎士団全員が目を疑った。
放たれた光線を防御で防ごうとした巨神兵。その両腕にヒビが入り、そのヒビは腕全体に広がり、やがて巨神兵の肩から先の両腕が粉々に砕け散ったのだ。
『うそ、え……え? 動け! 動いて、え? なんで! え!』
両腕を失った。そのことが信じられずに巨神兵内のアヌルは必死に腕を操作しようとするが、何も起こらない。
『ば、バカな! む、無敵の巨神兵の腕が……』
『粉々に砕け散った!?』
『な、なんだ、あの小僧、何をした?!』
まるで状況が分からない。ただ、無敵の巨神兵の両腕が捥がれ、さらに……
「超振動タックルッ!!」
『ひっ!? い、あ……わあああああああ!?』
クエイクが全身を震わせながら巨神兵の膝に向かって飛び掛かる。
激しく動揺しているアヌルにそれを回避する操作はできず、そして巨神兵の膝はいとも容易く粉々に砕けて、足が切断された。
『う、そ……』
両腕をもがれて、更に片足まで失った巨神兵は、もう立つことも戦うこともできない。
それは文字通り手も足も出ないという状況。
「まずは、一体……あと九体……クロースが喜んでくれるから、すぐに全員砕いてやるよ」
「「「「「うおおおおおおおおッッ、英雄クエイク様あああああ!!!」」」」」
その言葉と共に天地を震わす魔族たちの大歓声。
「ぬわははは、流石は儂の旦那様なのだ♡」
「うふふふ、流石はクエイクです! ガンバなのです! 副作用は全部私にお任せくださいね♡」
「くっ、やはり強い……そして……体が疼く……熱いのじゃ……わらわの女としての本能が……あやつを……はあ、はあ、濡れる」
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