第35話 帝国姫の目覚め2

 私は生まれて初めて生まれたままの姿を異性に見せた。

 気心の知れた女の子たちとお風呂に入る時ですら手ぬぐいなどで体を隠していたのに。

 自惚れかもしれないけど、自分でも容姿には多少の自信はあった。それでも、最初は男の子に自分の裸を見せるという行為は確かに恥ずかしかったわ。

 でも、あなたが私の体にちゃんと反応してくれたのが嬉しくて、私はどんどん見て欲しいと思ったし、触れて欲しいと思ったわ。

 そしてあなたは私の自慢のシルクの下着を優しく取って、その下にある私の体の隅々まで快楽を与えるような手つきでブルブルした。


――あ、ん、ソコも? んんん♡


 乳房を触られたのは生まれて初めて。


――お、おほぉ♡ んく♡


 ブルブル震える指で大事な部分ばかりをブルブルされた。


――え? そ、ソッチの穴は……んほぉ♡


 絶対に見られてはいけない狭間の先にある不浄の穴すら、あなたはブルブルさせた。時には指で。時には舌先で。


――ん、ちゅぷ♡ ん、ちゅっ、じゅぶ♡


 ファーストキスすらも勢いに任せて済ませてしまった。

 姫である私が本来は絶対に守り通さねばならない城門もアッサリと明け渡してしまった。

 

――お、おおおおぉおおおん♡♡♡


 バカになった。狂った。溺れた。中毒になってしまった。

 何も考えられず、昼間の執務や大切な軍議中も頭の中では彼のことばかり、彼にブルブルマッサージを受けて、激しく絡み合うこと以外考えられなくなってしまった。

 


――ね、もっとキスしましょう♪ 今日はキスだけで一時間ぐらいしたいわ♡


――うん、ジェラシのしたいこと、俺は何でもするよ!


 

 そして、あなたは私の望みの全てを期待以上に全て応えてくれた。

 気付けば、もう私はあなた以外への興味を失ってしまった。

 あなたさえいればいい。

 一生これをするだけの人生でいい。

 愛? 恋? 分からない。

 でも、私はこの世の全ての男に興味がなく、彼以外の男なんて死滅してもいいぐらいに思ってしまったわ。

 勇者セルフとの婚姻なんて、死んでもゴメンだったわ。


――すき、ん、私だけの……あなたは私のモノ、一生私のモノなんだから……ちゅっ、ちゅぷ♡


 肉欲の日々であったとしても、間違いだと言われようとも、私は幸せだったわ。

 何も考えなかった。

 正義のため、人類のため、帝国のため、魔族との戦争のための会議なんて煩わしいものは一切頭に入らず、早く終わってベッドで彼とまたイチャイチャしたいということ以外何も考えていなかった。

 何も後のことなんて気にしなかった。

 どうなってもいいと思った。

 だからこそ、デキちゃうかもしれないのに、一切気にしなかったわね。

 むしろ、あなたとの間にデキたのなら、全然私は欲しいと思った。

 帝国も魔王軍も何も関係ない。姫という立場も関係ない。

 誰も邪魔の入らない、のどかな田舎の小さな家で、愛し合うだけの慎ましい生活なんてものに憧れすら抱いてしまったわ。

 なのに……なのに……

 アノ人タチハ、ワタシカラアナタヲ奪ッタ



――俺の花嫁の目を覚まして差し上げましょう! この勇者の力で! 陛下の許しは得ています!


「いやああああああああああああああああああああああッッ!!!!」



 そして、幸せから一転した悪夢に私の目はようやく覚める。


「はあ、はあ、はあ……またあの夢……」


 幸せから不幸のどん底に突き落とされたあの日のことを何度も夢に見る。

 私の愛する大切な彼を失った日。


「クエイク……っ、私のクエイク……」


 あの日、帝国の兵が、友が、臣下が、父上までもが私を叱責し、挙句の果てに私のモノであったクエイクをあの勘違い勇者の手によって廃棄処分されてしまった。

 それ以来、私はショックで部屋から出ることが出来ずにいた。


「セルフ……父上……そして……」


 最初は悲しみだけに暮れていた。

 だけれど、日がたつにつれて徐々に悲しみよりもこみあげてくるものがあったわ。

 それは、復讐心。殺意。憎悪。

 あなたを認めなかった全ての人間に対して私は抱いた。

 私からあなたを奪った世界。

 勇者も、父も、臣下たちも……



「許せない……私からクエイクを奪った者たちを……許せるわけがないわ……」



 皆は言っていた。

 私はクエイクに誑かされて、堕とされて、洗脳のようなことをされていたと。

 鼻で笑って呆れてしまうわ。

 彼は自分の欲望のために私に対して「~~したい」、「~~して欲しい」などの望みを一度も言ったことがない。

 彼は人に期待され、人に必要とされ、それに応え、喜ばれ、そして褒められることが彼の生きがいだと言っていた。

 それなのに、嫉妬に狂い、薄汚い偽善を押し付けて私から皆がクエイクを奪っていた。


「全員……殺してやりたいわ」


 正義も平和も光も人類の未来も、もう私には一切興味がなかった。

 愛する唯一無二の存在を失った世界など、どうなろうと構わないとすら思った。


「でも、どうすればいいのかしら? 私一人の力では……復讐よりも自殺してあなたに会いに行った方が早いのかしら? そうすれば、ブルブルマッサージですぐに愛し合えるだろうしね……」


 だから自分の命も惜しいとは思わなかった。

 復讐してから死のうか、今すぐ死のうか、そんなことを考えるようになってしまった。


 でも、そんな時だったわ。


 私は神様の存在を今日ほど信じたことは無いわ。


 運命の神様は私たちに救いを与えてくださった。



「姫様、お身体が優れないところ申し訳ありませんが、よろしいでしょうか?」


「?」



 突如、部屋をノックされ、メイドの声が聞こえた。

 正直、これまで部屋の外には多くの人が来ては色々と偽善な励ましを口にしていたけれど、何一つ興味が湧かずに部屋から出なかった。

 でも、今日は……



「本日、『女神様』がいらっしゃいました」


「え?」



 女神様。それは私たち人類に巨神兵を始めとする神兵器を与えてくださった方。そして、私に愛するクエイクを与えてくださった方でもあった。

 でも、女神さまは私たちに一度神兵器を与え、そして扱い方を教えてからはもうこの世界には現れず、「後は見守りマース」と言って去って行った。

 それなのになぜ……



「その……例のマッサージ師について……その……『何で今、魔界に居るのか教えて欲しい』……とのことを……」


「ッッ!!??」



 次の瞬間、私はベッドから跳び起きて、勢いよく部屋の扉を開けた。

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