第36話 絶望の幕開け

 完全服従を証明する奴隷の首輪。

 上半身は胸の部分だけが大きく切り取られたメイド服。

 下半身はフリルのエプロンだけで、エプロンの下は下着を穿いていない。

 後ろから見れば尻が丸見えの状態。

 そんな女が広場に立ち……


「皆の者、聞くがよい」


 凛々しい表情で敗北して捕虜となった人間たちに告げる。


「あぁ、あ……ハーラム将軍が……」

「もう、終わりだ……何もかも……」

「我ら人類の英雄……女騎士将軍様が……なんと痛ましい姿に……」


 かつて女騎士将軍ハーラムを慕い、信奉し、共に命を懸けて戦場を駆け抜けた者たちは、変わり果てたハーラムの姿に絶望の表情を浮かべた。

 

「今日より我らは魔王軍の捕虜であり奴隷となる。銀百合乙女騎士団を始めとする女は奉仕の肉人形となり、魔王軍の兵たちの相手をし……男たちは強制肉体労働を課せられることになる。反抗する者はその場で処刑されることを肝に銘じておくのだ」


 フザケタ下品な恰好で、それでいてどこまでもクールな表情で淡々とバカげたことを口にするハーラムに、捕虜の人間たちは次々と膝をついてしまう。


「もう……やだ……」

「将軍……ハーラム将軍……」

「夢だよ……こんなの……夢だよ……」


 中でも銀百合乙女騎士団の乙女たち。プラグスーツではなく、今は布切れ一枚だけを纏った格好で、その肉体は既に嬲りつくされて穢されている。

 その上で敬愛する上官が完全に壊れて陥落してしまっている現実に、もはや希望など一切なく、彼女たちの心も崩壊した。


「畜生……畜生、ふざけやがって! あのクソビッチが!」

「あんなエロい格好しやがって、くそぉ! こんなことなら、こんなことになる前に犯せばよかったんだ!」

「責任取って死にやがれ、ハーラムのクソ女がッ!!」

「ちくしょう、俺にもあの女を犯させろ!」

「あの極上の体、ヤラせろ! あの乳を揉ませろ、舐めさせろよぉ!」


 そして生き残った男たちからは罵詈雑言の嵐。

 これまでは誇り高く誠実な騎士たちであったのだが、もう今では全員が醜く口汚く荒れ果てた。

 しかし、そんな声に対して、ハーラムは以前までのように冷たい目で男たちを見下ろす。



「ふん。我を犯したい? この乳房を好きにしたい? 笑わせるな……我は既にご主人様専用のブルブル奴隷だというのに! 魂含め、髪の毛一本から血の一滴に至るまで、全てがご主人様の所有物」


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


「今の我の望みは、早くご主人様の子を孕み……この乳房から母乳が出るようになり……ふふふ、生まれてきた赤子と一緒にご主人様に……ふふふふ♥」



 当たり前のようにそう口にした言葉に、捕虜たちは更にショックを受けて言葉を失う。


「ぬわははは、上出来なのだ、ハーラムよ♪」

「まさに絶対的絶望とはこのことと言えるな」


 笑みを浮かべながら広場に現れるチヴィーチとシスティア。

 そして……


「もうそこまででいいよ、ハーラム。部屋に戻ろ」

「ッッ!!??」


 クエイクがその後ろからヒョコっと顔を出した瞬間、ハーラムの全身はブルっと大きく震え、そしてすぐに犬のように四つん這いになった。



「ご主人様! 我は、我は言われた通りにやったぞ! さぁ、頭を撫でてくれ! 撫でて、ブルブルご褒美を我に!」


「あっ、うん……その……」


「焦らさないでくれ! 我がかつてご主人様に非道な言葉をぶつけ、その所業を見て見ぬふりしてきたかは分かっている……しかし、今の我に裏はない! ご主人様の足の指でも不浄の穴もあらゆる箇所をペロペロ舐めるから信じてほしい!」



 裸エプロンゆえに、四つん這いになって尻を見せれば、恥ずかしい箇所が全て丸見えになってしまう。



「ご主人様、だいたいこの格好は何だ! ご主人様以外の男に乳房も尻も、更には大事な箇所すら見えてしまう……」


「いや、その恰好をさせたのはチヴィーチで……」


「ご主人様だけのこの肉を、他の男のクズな視線に穢されるのは耐えられぬ! 早く部屋に戻ってブルブルご褒美をくれ!」



 徐々に興奮し、頬を紅潮させて息を荒くしながら、クエイクの足にしがみついては服従の意志を示すかのようにクエイクの靴にキスをする。

 


「はっ♥ はっ♥ ご主人様♥ たのむ、ブルブルご褒美を与えて欲しい♥ 我は言われた通りにした♥ 頼む! わん! わんわん! ぶひいー♥」



 そんな発情して壊れた雌犬……いや、雌豚が英雄・女騎士将軍ハーラムの慣れ果てだと言われて誰が信じる?

 しかし、捕虜たちの目の前に広がる光景は全て現実。 

 


「ぬわははは、では旦那様よ~、カワイイ奴隷ペットと部屋に戻ってあとは休んでていいのだ~」


「ふん……まったく……いい気なものだな、小僧は。……昨晩はあれだけ、わらわと……ふんだ」


「では、ご主人様。さっそく、我の背に乗ってくれわん♥ 我が四つん這いの雌犬豚となって、ご主人様を運ぶひ♥」



 ついには、女騎士将軍が馬のようになって一人の男をその背に乗せようとしている。


「いや、そんなのいいよ。俺は運ばれるより運ぶ方をやりたくて……」

「ご主人様よ、我の尻には跨れぬと言うのか!」

「そうじゃなくて……俺は使われたいんだ」

「ええい、屁理屈を! なれば、ご主人様の尻が欲しい! 我はご主人様の尻を乗せなければ狂って死んでしまう! ご主人様の重りが必要だ! どうだ、これでよいか!」

「あ……あぅ、もう……分かったよ」

「ふん、当然だ。いっぱい使ってやるから覚悟するのだな、ご主人様♥」


 あるものは絶望のあまりにそのまま気を失い、悍ましさにその場で吐き出してしまう者も居て、怒りを叫んでいた男たちももう何も言えずに言葉を失っている。

 もはや人間たちに何もする気力も湧きあがらなかった。


「上々だな、姉上」

「だの。これでもう、この砦も大丈夫なのだ」

「では……」

「うむ。兵を残し、更に周辺の部族にも声を掛けて、この砦の復興と防壁の強化に努めさせる。そして儂らは……本国へ一度帰るのだ」

「ああ。ふぅ……なかなか骨が折れる遠征だったが、父上も大いに喜ばれるだろうな」

 

 こうして、本来の目的である砦の奪還だけでなく、十五体の巨神兵の殲滅と、女騎士将軍ハーラムを完堕ちさせたという大きな功績を残した今回の魔王軍の遠征。


 全てに満足したチヴィーチたちは、一度本国の魔王城へ戻ることを決めた。


 クエイクという魔界に現れた新たな英雄を引き連れて。

 

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