第39話 世界を揺るがす報告

 運び込まれた巨大魔水晶に帝国の重鎮たちと一緒に女神も注目する。

 そしてそこに……



『皇帝陛下、ご無沙汰しております。そして、セルフを始め我が友たちよ……久しいな』


「「「「……………え?」」」」


「わぉ♪」



 映し出されたハーラムの姿。凛々しい表情で相変わらず生真面目で硬い口調の彼女。

 しかし、その姿に誰もが目を疑った。

 唯一女神だけは機嫌よさそうに身を乗り出した。


「は、ハーラム……な、なんだ? なんだその格好は! 皇帝陛下の御前で何たるふしだらな……」

「ん~♪ 私は好きデース。とってもキュートでエッチな改造メイド服……綺麗なオッパイ丸出しデース♪」


 そう、魔水晶に映し出されたハーラムの服装。それは改造されたメイド服。更にはその首には絶対服従の首輪。

 彼女の美貌には帝国でも多くの男が惹かれていた。その彼女がこうして乳房を晒しているのである。本来であれば、男たちはその乳房を目に焼き付けて興奮して情欲を抱くというもの。

 だが、この時ばかりはあまりにも衝撃的過ぎて、そんな感覚すら吹き飛んでいた。



『陛下もセルフも驚かれたでしょう……しかし、これが今の我です。帝国と人類に剣と命を捧げた女騎士将軍ハーラムは……死にました』


「「「「「ッッッ!!??」」」」」

  

『今の我は、敬愛するご主人様にお仕えしてブルブルされることにのみ悦びを覚えるただの肉奴隷です』



 淡々とクールな口調で耳を疑うようなことばかりを口にするハーラム。誰もが言葉を失い、ただ口を開けるだけしかできなかった。

 そんな一同の反応を無視して、ハーラムは続ける。



『まず、我らが駐留するレイブレイーブ砦は……魔王軍の襲撃に合い、敗北し、砦は奪われました』


「え!? は? な、なに!?」


『その際、我が率いる銀百合乙女騎士団始の十体の巨神兵、および先日増援で派遣された巨神兵五体……合わせて十五体の巨神兵は……全て粉砕され、全滅しました』


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 ここに来て、ハーラムが乳房を晒していること以上の衝撃が大会議室を駆け抜けた。


「な、なに!? レイブレイーブ砦を奪還されただと!?」

「ハーラムたちが敗れたというのか!?」

「いや、ちょっと待て! あそこには、女神様より賜った無敵の巨神兵を十五体も配備させていたのだぞ!」

「そうだ、しかも操者はハーラムを筆頭に選ばれしエリートたちばかり……」

「そ、それが、全滅!? 粉砕だと!? む、無敵の巨神兵が!?」

「ばかな、そんなことありえるはずが……バカを申すな、ハーラム! 一体……一体、何があったというのだ!」


 大会議室の重鎮たちは激しく動揺して次々と震えあがる。それは、皇帝も勇者セルフも同様である。


「巨神兵を粉砕……ホ~、あの重機を粉砕できるパワーを魔族が持っていたのは驚きデース」


 そして、女神もまたハーラムの話を興味深そうに聞いていた。

 


『証拠を見せます……ご覧ください』


「「「「「ッッ!!!???」」」」」


 

 そして、ハーラムが一歩横にずれて、その後ろにあるものが映し出される。

 そこには、両足、両腕、胴体などが粉々に粉砕されて、もはや戦うことすらできない瓦礫のゴミとなっている巨神兵の残骸が積みあがっている光景だった。


「ば、かな……本当に……」

「いかなる魔法も剣も、オーガたちの剛腕すらも弾き返す、無敵の巨神兵が……」

「何故だ!? 魔族に……魔王軍にこれほどの力が!? 誰の仕業だ!? まさか、魔王直々に!?」


 巨神兵が敗れたのが冗談ではなく紛れもない事実だと見せつけられ、更に衝撃を受ける重鎮たち。

 それほどまでに巨神兵という存在は人類にとって心のよりどころである絶対的な力であったからだ。

 その象徴が瓦礫の山と化してしまっている光景にショックを、そして……


「う、うそだ、きょ、巨神兵が負けるなんて……ば、かな、ばかな……」


 恐怖。自分が無敵になったと思っていた勇者セルフも同じ巨神兵を使う者として、恐怖で体を震わせていた。


『ぬわははは、まっ、そういうことなのだ♡』


 そして、震える重鎮たちの目に、次に映し出されたのは一人の魔族。



「ま、魔界三姉妹姫の一人、チヴィーチッ!?」


「おぉ、このケモ耳さんもとーってもキュートデース。それにとってもエッチな格好と……目をしてマース。うん……お友達になりたーいデース」


 

 人類にとっての天敵でもある魔王の娘であるチヴィーチ。その姿が映し出された瞬間、セルフたちは唇を噛み締めて怒りをあらわにする。


「チヴィーチ! 貴様が……貴様がハーラムを壊したのか!」


 思わず立ち上がって声を荒げるセルフに対して、チヴィーチは変わらずニタニタといやらしい笑みを浮かべる。



『おぉ、勇者セルフよ、顔を見るのは久しいのだ~。巨神兵だよりでイキって勇者などと名乗っている小物~』


「な、なにぃ?!」


『いやいや、すまんのだ。儂もつい最近、本物にして生涯最高の漢と出会ってな~、あの御方と比べれば、貴様がとても小物に思えてついつい言ってしまったのだ」


「ッッ!? おのれぇ、俺を愚弄するか、この妖怪ババアめが! そこまで言うのなら、今すぐ俺が魔界に乗り込んで、その肉片一つ残さず勇者の剣で叩き潰してやろうか!」


『ぬわははは、イキるな。どーせ、股のプラプラも小さいくせに♡』


「ッ、き、貴様ぁ!」



 人類が慕う最強の勇者としてその名を轟かせるセルフを小物と断じて見下して小ばかにするチヴィーチ。

 セルフの怒りは頂点に達した。



『ぬわははは、まぁいい。魔界に乗り込んでくるならくればよいのだ。返り討ちにしてくれるのだ。そして……ハーラムのように覚醒させてやってもよいのだ』


「黙れ……だいたい、ハーラムに何をした! 敗北しただけでこのように壊れるなど……」


『な~に。ハーラムは堕ちてしまっただけなのだ。儂らの旦那様のブルブルにな♪』


「ぶ、ぶるぶる?」



 乱暴に言葉をぶつけるセルフだが、チヴィーチは相手を煽って挑発のような言葉を繰り返す。

 そして、その会話の中でチヴィーチが口にした「ブルブル」という言葉。


「ぶるぶる……デースか? ぶるぶる……ッ!? まさか……」


 その言葉を聞いて、女神の表情が変わった。

 そして……


『旦那様~、紹介したいのだ。来るのだ~♪』

『え? あの、これ、向こうに映ってるの?』

『ほれほれ、恥ずかしがってないで来るのだ~』

『はうぅ♥ ご主人様ぁ♥』


 チヴィーチが一人の男を呼んだ。

 そして、その男の姿を見て……


「……な……に?」


 勇者たちは再び驚愕し、そして……


「おぉ~……あなたデーシたか。クエイク坊や。元気そうデース♪」


 女神はその男の様子にニッコリとほほ笑んだ。

 そう、現れたのはクエイク。

 そしてクエイクもまた大会議室に集まっている重鎮たちの中に居る女神を見つけ……



『あっ……『セクハウラ所長』……あっ、じゃなくて女神様……』


「うふ♡ ごきげんようデース」



 


 


 

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