第9話 魔界の姫が食べられる♡

 クエイクはかろうじて意識を取り戻し、自分の状態、そして自分がナニをしようとしたかを瞬時に理解した。


「ご、ごめん……」


 息荒くしながら、ベッドの上でキョトン顔のクロースとチヴィーチにそう呟いた。


「え、あ、あの……その……大丈夫なのですか?」

「うむ……その、意識を取り戻したのは良かったのだ……しかし、ウヌはまだ相当……というか、さっきよりヤバそうなのだ!」


 既に心と体がクエイクの熱を「受け入れる」覚悟は完了状態になっていた二人も、急にクエイクが離れたことで一瞬戸惑うも、すぐにクエイクの容態を伺う。

 意識取り戻しても、明らかに症状が悪化しているからだ。

 しかし……


「俺、もう、いいんだ……」

「え?」

「もう、俺は……このまま放っておいてくれ……」


 そう言って、フラフラの状態で天幕から出ていこうとするクエイクを、クロースとチヴィーチは慌てて追いかけて止める。


「待つのです! そんな体でどこに……っ、あ、熱い!?」

「ぬわ、なんなのだ、この熱さは! 常人なら死んでいるのだ! そんな体でどこへ行こうというのだ!」


 このまま放置すれば明らかに死んでしまう。

 しかし……


「だから、俺はもういいんだ。このままどっかで……オーバーヒートして、それで終わりだ」

「……おーばー?」

「もう、終わりでいい。誰の役にも立てない人生なら」

「!?」


 クエイクは己の命をまるで惜しまない。

 むしろ、もう終わらせたいと呟いた。

 ようやくその意味を理解したクロースは衝撃を受け、同時にムッとしてクエイクの頬に手を添えた。


「……ダメです」

「?」

「あなたはまだ、私に何もさせてくれないではないですか」

「……え?」

「私たちに恩を返させてくれるどころか、あなたを助けたいと思った私の気持ちを何も満たしてくれません。それなのに、このまま何もできず、絶対に死なせません!」


 クロースも自分自身でも驚くぐらい真っすぐに強く力のこもった瞳と言葉をクエイクにぶつけた。

 出会ったばかりで、まだ名前も知らない目の前の男。

 しかし、もう自分はそうしないといけないと、クロース自身の意志だった。


「……でも、俺の熱はもう収まらない……」

「分かりません! 色々試させてください!」

「だから、だ、だめなんだっ……っ、はあ、はあ、うぐっ……」

「あっ!」


 それでも自分は助からない。そう告げて頑なだったクエイクが、ついに膝をついてしまった。


「ど、どうすればよいのだ? 本当に方法はないのか?」


 チヴィーチもクロース同様にクエイクをどうにかできないかと覗き込む。

 すると、クエイクは……


「はあ、はあ、熱い……」

「うぬ?」

「は、なれて……じゃないと、俺……二人をメチャクチャにしちゃう……」

「なに?」

「この熱を全て発散して、放出しないと……でも、そんなの生身の女が……人格も精神も……ぶっ壊れちゃうんだ……」


 その言葉を受けて、クロースとチヴィーチは先ほどのベッドの上でのことを思い出す。

 血走ったクエイクの左目と、スーパービンビンマウンテンがその意味を物語っている。


「「あ……あ~……」」


 クエイクの熱を冷ます方法。その意味を理解した二人は何とも言えない表情で苦笑する。

 正直、「本当にそんな方法で?」と思いかけもしたが、あまりにも真剣で命がけなクエイクの言葉は真実だと……



「だから、離れて! 離れろ! 耐えられないから、絶対に、俺を耐えることできないから! 俺なんかを受け入れたりしたら、女の子は全員壊れる! だから、は、はやく、お、俺を一人に―――――」


「う~ん……でも、それでもしあなたが助かるのなら……」


「ッ!?」


「あなたは優しい人なのですね。私たちを助けただけでなく、こんな状態になってまで私たちを気遣うのですから」


 

 そして、もう限界ギリギリだと叫ぶクエイクだが、クロースは微笑みながら、蹲るクエイクを優しく抱きしめた。



「でも、大丈夫です。魔族の姫は、ジョーブなんです♪ だから、私にあなたを助け――――――」


「うおああああああ! ん、んぐっ!」


「んぶッ!?」



 そして、もう限界だとクエイクの理性はそこで完全に飛び、自分を抱きしめていたクロースの体を強く抱きしめ返して、その柔らかく小さく、未だかつて誰も触れたことがない唇を……


「お、おおお……な、なんとなんと……」


 チヴィーチの目の前で、食べた。

 

「が、あ、あがあああ!」

「ぷはっ、はあ……あっ、あはは、すごいですね、こ、これがキスなのですね……お父様のほっぺにチュウ以外では初めて―――」

「うわああ!」

「あうっ!?」


 そして、一度唇を離し、ファーストキスの余韻に照れるクロース。しかしクエイクは構うことなく乱暴にクロースを持ち上げて、そのままベッドに放り投げる。


「クロース!?」

「あ、う、……んもう、ちょっとランボーでは……あっ」

「うわがあああ!」


 そして、クエイクはそのまま自分の着ていた全てのモノを脱ぎ捨てて、まるで崖から海に飛び込むかのようにクロースに襲い掛かる。



「あ、お待ちを、大丈夫、逃げません! ぬ、ぬぎま、自分で脱ぎますから――――」


「う、ああ、がああ!」


「あう?! あらら……破ってしまって……んもう、私のお気に入りなんですよ? めっ――――♡」



 衣服を脱ぐ脱がすではない。破った。

 邪魔だと、煩わしいと、クエイクは押し倒したクロースが纏った王族の衣を破り捨て、全て剝ぎ取り……



――ブルブルブルブルブルブル♡♡♡♡♡♡


 

 天幕が激しく揺れた。



「お、おい! 流石に、うお、な、なんと、はげし……待つのだ! やはりそれ以上はクロースがぶっ壊れ―――」


「うがっ!? うがああああ!」


「へ? お、おい、待つのだ、なぜ儂の手を……ちょっ―――」


 

 ついでにチヴィーチも……



――ブルブルブルブルブルブル♡♡♡♡♡♡



 骨の髄まで喰い荒らされた。

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