第17話 未来への希望
帝国の女騎士サレナ。
戦場でも多くの功績をあげて着実に昇格し、19歳の若さで人類の大いなる力ともいうべき巨神兵を与えられた。
最近になり最前線拠点の一つでもある魔界のレイブレイーブ砦に配属され、ここで功績を上げることで、帝国の女騎士たちのあこがれの的でもあった、銀百合乙女騎士団に入ろうという野望を抱いていた。
しかし功を焦るばかり、魔界の三姉妹姫という超大物の首を前にして深追いしすぎたため、仲間五人と共に返り討ちに合って捕虜となった。
「うぅ、情けないよぉ……女神様より与えられた巨神兵を壊すどころか、魔族の捕虜になるなんて……」
その瞳に涙を浮かべて己を恥じるサレナ。
元々は誇り高い勇猛な軍人だった。軍士官学校でもトップクラスの成績。
胸などは決して大きいわけではないが、小柄で人懐っこい笑顔と赤毛の三つ編みが特徴的で、その可愛らしい容姿と戦場での勇猛さのギャップもあって、兵たちからは高い人気もあった。
「くそ……俺たち……どうなっちまうんだよ」
「おのれぇ……あのガラクタがあんな強さを……」
「うぅ、お、折られた指が痛ぇよ……うう……」
「あの裏切り者が……」
そんなサレナと対面する別の牢に入れられている四人の男たち。
一緒に捕虜になった四人の仲間たちだ。
皆が同期であり、いつも将来の夢や正義について語り合った大切な仲間たちだ。
「くそぉ……ぐす……みんな……すまねえ。俺が喋っちまって……」
そして四人の仲間のうちの一人が涙を流しながら牢の中で這いつくばって、痛みに苦しみながら謝罪した。
それは、尋問により自分たちの砦の情報を魔王軍に話してしまったからだ。
指一本を折られた痛みに耐えきれず……
「今はもう仕方ないよ……問題はここからどうするかだよ……」
大切な仲間。しかし、サレナは口に出せない失望を抱いていた。
人類のためなら死ぬことすら厭わぬ覚悟を持って自分たちは兵になったはず。
たとえどのような拷問や辱めを受けようとも、仲間や人類に不利益を被るようなことは決して話さない覚悟を皆が持っていたはず。
だが、蓋を開けてみれば指一本でこのザマである。
しかし、一方で……
――た、助けて! ねぇ、私、ほら、私もあなたに何回かマッサージされて……ね? 覚えてるでしょ? 私よ! サレナよ? ね! あの日も本当は私……止めたかったの! でも、ほら、私の立場じゃどうしようもなくて、でも、助けてくれたら……ね!
自分もみっともなく、情けなく、恐怖を抱いて恥知らずな命乞いをした。
それゆえに、サレナもその他の仲間たちも何も言うことができなかった。
「思えば俺たちは……巨神兵を与えられてから……生身で戦うこともなくなり、体も鍛えなくなったな……戦場に出ても毎回無傷で帰還出来て……チヤホヤされて……」
そんな中で一人の男が神妙な顔で呟いた。
「リーダー……」
自分たちの中心人物で、五人の中でもいつも皆をまとめていた男。
短髪で彫りの深い顔で、逞しい肉体を持ち、志しも高く、帝国でも民衆からの人気も高く、多くの女たちの憧れでもあった。
そして、サレナもずっとほのかな想いを抱いていた相手でもあった。
そんな男が、初めて見せるほど弱々しい言葉を口にした。
「さんざんガラクタだなんてバカにしてた……あいつ……クエイクのことも……あんなに強かったのに、俺たちは何も見てなくて……嫉妬して……」
その言葉がサレナたちを更に締め付けた。
巨神兵などという力をもらったがゆえに、自分が選ばれた存在などと己惚れて、他者を見下し、罵倒し、自らを高めるようなこともサボり……
「情けねえ……情けねえよ……」
「リーダー……」
自分たちが何をしたのか?
自分たちが何をしなかったのか?
今になって後悔ばかりが五人に押し寄せる。
だが……
「あ、謝ろうぜ! そして、もう一度やり直すんだ、俺たちは!」
また別の男が声を上げた。
その言葉に皆もハッとして顔を上げる。
「都合がいいことは分かってる。今更なんだって……許されねえようなことをした……だからこそ、心から謝らねえと! そして、姫様にも! そして、謝って、もう一度皆で一からやり直そうぜ! 今度こそ、あいつとも……クエイクとも本当の仲間になるんだ!」
その言葉は本当に都合のいい今さらな言葉……そんなことは彼らも身に染みて分かっている。
しかし、今だからこそ分かるのだ。
巨神兵という力に魅せられて、どこまでも弱く、そして醜くなった自分たちのことを、こうして無力になって初めて自覚したのだ。
「うん、私もクエイク……くん。クエイクくんに謝りたい!」
「ああ、そうだ! もう一度皆でやり直すんだ! 何度でも謝るんだ!」
「姫様もあれ以来ふさぎ込まれているが……しかし、もう一度クエイクが戻れば……」
「ああ。それにクエイクがあんなに強いって分かったら、きっと陛下だって……」
「勇者様とは、まあ、その、色々あるかもだけど……そうだな、もう一度!」
許されないことをした。しかし、だから謝らないということはしない。
許されないことをしてしまったからこそ、心からの謝罪をしようと彼らは誓い合った。
そして……
「なら、皆でここから生きよう。何があってもな。幸い尋問もすぐ終わって、体は動ける。何とかチャンスを待とう」
「「「「おう!!」」」」
必ず生きようと、誓い合った。
そんな中でリーダーは……
「あ、あのよ、サレナ」
「どうしたの? リーダー」
「その、こんなときに、こんな流れの中でよ、アレだけど……」
急に顔を赤らめて恥ずかしそうにするリーダー。サレナが何事かと首を傾げると……
「俺、もう一度やり直す。そして、必ず生き延びるし、何があってもお前を守ると誓う! だから……」
「え?」
「ここから生き延びたらよ……俺の嫁になってくれないか?」
「……ふぇ?」
それはあまりにも唐突で、逆に今だからこそというプロポーズだった。
ロマンチックのかけらもないし、指輪もない。
互いに向かい合う牢屋に入れられて手も繋げない状況だった。
しかし、サレナは……
「うん。じゃあ、絶対に生き延びないとね♪」
「サレナッ!」
笑顔で頷いた。
「ったく、お前らはこんな時によぉ~!」
「へへ、こりゃ何があっても生き延びないとな!」
「ああ。希望を抱くことが、絶望を打ち破る鍵になるんだ!」
そんな能天気な二人に呆れながらも冷やかし交じりで祝福する仲間たち。
より一層生きようという意思が彼らに芽生えた。
だが、もう遅い。
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