第25話 幼少期のダークエルフ姫はソーセージが喉に詰まったことがある
それは、システィアがまだ幼少期の頃だった。
魔王の娘であるシスティアの食事はいつも豪華絢爛で栄養も豊富。
そんなある日のこと……
「おい、このデカい塊はなんだ?」
見慣れない料理が食卓に並べられた。極太で細長く香ばしい香りのする肉のようなもの。
「姫様。それはソーセージと呼ばれるものです」
「そーせーじ?」
聞いたことのない料理名に首を傾げる。
「ソーセージとは、ひき肉と塩や香辛料を腸に詰めた料理です。温かいうちにどうぞ」
「ほぉ……では一つ……」
「あっ、姫様、フォークが―――」
興味を持ったシスティアはソーセージに手を伸ばす。目の前にフォークなどの食器が並んでいたのだが、特に考えず手を伸ばした。
「あつ、あち」
手に持ったソーセージは熱く、そしてパンパンに詰め込まれた極太であった。
いつも槍を振っていたシスティアにとってその太さはどこか馴染んだ。
「ふー、ふー、あむっ……んぐっ!?」
「姫様、そんな一気に!? 少しずつ噛んで食べるもので……」
「んご!? ほご、んぶっ!?」
「嗚呼、姫様!?」
極太の熱々ソーセージを喉の奥まで一気に入れるシスティア。
小さな口いっぱいに広がるその肉厚、熱、そして噛んだ瞬間にソーセージからプシュッと肉汁が一気に口内に飛び出して溢れた。
「んごぉ、むおお、おごぉぉお!?」
「姫様、一度お口から出してください、姫様!」
「あご、が、あごがぁ!?」
口周りが肉汁でベトベトに溢れて、えずいてしまう。
しかし、一度口の中に入れたものを吐き出すというのは品が無いと思ったのか、意地になってシスティアはソーセージを口の中から出そうとしない。
「んご、ん、じゅる、じゅぶるる、じゅう」
「姫様!? あ、え、吸っているのですか?」
とにかくとめどなく溢れる肉汁を口をすぼめてチュウチュウ吸う。
喉の奥に焼けるような汁が通過していくが、吐き出すわけにはいかず、ムセそうになるも何とか飲み続ける。
「お、おっひい……ん、おっきい……あご、はじゅれる……ん、んぐ!?」
しかし、それでもソーセージの大きさが小さくなるわけではない。
口を大きく開け続けてソーセージを咥え続けていたことで、システィアは顎が外れてしまうのではないかと思うほど涙を流している。
「ああ、姫様……無理をなさらず……」
心配そうにのぞき込む女給。
しかし、すぐにでも吐き出しそうだったシスティアだが、徐々に様子が変わってきた。
「あむ、……あむあむ、ちゅぷる」
「あら? 姫様……」
システィアの様子が落ち着いてきたのだ。
それは、だんだんと熱さにも慣れてきたこともあり、ようやくソーセージを味わいながら頬張れるようになったのだ。
「ん、おいひぃ、うん、あむ、あむ、ちゅぷる……ごっくん♪」
「あらあら……ふふふ、どうでしたでしょうか、姫様。ソーセージは」
「……うむ、悪くない。美味である」
咥えて味わって頬張った極太ソーセージは肉汁たっぷりのジューシー。最初はその熱々に面食らってしまったが、慣れればその味にシスティアは満足し、気に入り、気付けば二本目もパクパクと手を伸ばして頬張ってしまった。
「肉汁も、美味である……ゴックンしたとき喉が熱いが、それもクセになる……ただ、口の中や口の周りが汁でベトベトになってしまった……」
「ふふふ、ではこれからソーセージを食べられたくなったときは、いつでも仰ってください。いつでも御用意いたします」
「うむ。もう一本食べ……あちい!」
「ああ、姫様ッ!」
「わ、わああ!? ソーセージが、わ、わらわの胸の間に入ってしまった!?」
「わ、ひ、姫様、ああ、胸の谷間にソーセージが挟まって……」
「あ、あつ!? 熱い!? 乳房が、お、おっぱいが火傷してしまう! あち!? ソーセージがおっパイの谷間に挟まってズリ落ちて……?!」
そんな、初めてソーセージを食べてハマってしまった日。
喉の奥が焼けそうになったり、顎が外れそうになったり、更には幼少期の頃から既に胸だけは人より膨らんでいたこともあって、その谷間にソーセージが挟まって火傷してしまいそうになったりと、色々と思い出があった。
それは、今は遠い昔のことであった。
なぜ、今さらこんなことを? 今は何も関係ないはず。そもそも今は戦争の戦局を大きく左右する重要な局面である。
―――アムアム……ずぼずぼ……ゴックン♡
しかし、クエイクを再び立ち上がらせるためにと体を張っていたシスティアは、己の意志とは関係なく、無意識にこの日の出来事を思い出していた。
――あとがき――
子供がただソーセージ食べていた時の思い出です。物語に何の関係もない過去回想で申し訳ないです。いや、ほんと。
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