第23話 抵抗
巨神兵の天敵となるクエイクが倒れた。ならば自分たちがやるしかないと、魔王軍が迎え撃つ。
「だ、めだ……俺がやる! みんな下がって!」
「ダメです、クエイク! これ以上は体が……」
「だって、俺がやらないと……やらないと!」
クエイクは自分が何とかしないとと動こうとするが、クロースがギュッとその熱い体を抱きしめて離さない。
「攻めろ、敵は一体! 女騎士将軍ハーラムだ!」
「蹂躙されたオークたち……そして魔族の仇をここで取るのだッ!!」
「「「「「うおおおおおおおっっ!!!!」」」」」
その間に、魔王軍の兵士たちが果敢に巨神兵に向かっていく。相手は一体。一体ぐらいなら自分たちだって……そう思っていたのだが……
『引き裂いてくれる、醜く下賤な魔族ども! そして裏切りのガラクタめ! 我ら人類の正義の力を思い知るがよい!!』
鈍重な巨神兵の振るう剣は、本来なら振り下ろすか薙ぎ払うかぐらいしか選択肢がない。
その一振りだけで数十、数百の兵を一気に吹き飛ばせるのである。
だが、ハーラムの剣だけは違う。
「スラストレインッッ!!」
振り下ろす突きの雨。
上空から降ろされる剣先が幾度も魔王軍へ振り下ろされ、陣形事ズタズタにしていく。
「な、は、速いッ!!」
「あやつ、今までの巨神兵とは動きが全然違うのだ!」
一体だけ……と侮った。ハーラムが操る巨神兵の動きは、今まで魔王軍が戦ってきた巨神兵とは雲泥の差だった。
「あのパイロット……すごい腕前だ……」
「ぱいろっと? クエイク?」
「……ちゃんと研鑽している……操縦者の腕前に左右されるのがあの重機の特徴……このままじゃまずい!」
その動きは、『全てを知る』クエイクすら思わず目を見張るほどのものであった。
「な、んと、強烈な! 姉上、このままでは……」
「くっ、まずいのだ! 魔導士部隊よ、足止めするのだ! 歩兵は一旦下がれ! クロースも手を貸すのだ!」
「は、はいっ! クエイクはここで休んでいてください」
次々と血と肉片が飛び散る惨状。魔王軍は徐々に後退を始め、最初は恐れていたハーラムは徐々に本来の調子を取り戻したのか、その動きが更にキレていく。
『すごい……ハーラム将軍、すごい!』
『ハーラム将軍、バンザイ! バンザイ!』
『砦の上からも援護だ! 魔導士、弓兵、とにかく少しでも援護だ!』
他の巨神兵は既に動くことは出来ないが、兵たちが死んだわけではない。
人間たちの士気も次第に高まり、砦の上からなども援護射撃が魔王軍に降り注いだ。
「リフレクションッ!!」
クロースが中心となって、魔王軍の魔導師たちが一斉に障壁を張って防ごうとする。
だが、暴れるハーラムの巨神兵の存在もあって、手が回らない。
「くそ、おれ、何やってんだ……俺……」
膨張するほど熱くなって身動きとれぬ程の苦しみの中、クエイクは唇を噛み締めた。
「俺は、期待されていたんだ……俺がやらなきゃいけないのに……動けよぉ……今、役に立たないと! 俺は、俺は、また捨てられる! クロースたちが……死んでしまう……嫌だ! 嫌だ!」
頭を地面に叩きつけ、熱くなっている胸を掻きむしりながら、何とかもう一度戦えないかと己の体に鞭を打つ。
情けない。
これでいいのか?
いいわけがない。
しかし、副作用は収まりそうもない。
そして……
『うおおおお、まずは貴様だ、ガラクタ!』
「ッ!?」
ハーラムは目の前の軍や三姉妹姫よりも、まずはターゲットをクエイクに定めた。
群がる兵たちを蹴散らし、道を開け、避難しているクエイクに向けて走る。
「やべえ、英雄様が!」
「クエイク様を守れ!」
「旦那様ぁ!」
「クエイク! っ、だめ、間に合わな――――」
走り出す巨神兵に誰も追いつけず、誰も止められず、魔法すらも間に合わない……そんな中で!
「ちぃ、わらわたちの英雄をくれてやるものか!」
「あっ……」
振り下ろされた剣を、間一髪のところでシスティアがクエイクを抱きしめてその場から脱した。
『ぬぅ、しぶとい……だが、逃がさぬ! ガラクタ、貴様はどういうわけか分からんが、危険だ! 我ら人類に害悪をもたらす存在! 生かしてはおけぬッ!!』
「させぬと言っておろうが、地上の猿女め!」
ギリギリでシスティアがクエイクを救い、一瞬安堵の息が魔王軍から漏れるが、そんな暇はない。危機は何も変わっていない。
「させぬのだ!」
「エクスプロージョンッ!!」
「「「「うおおお、英雄様を守れええええ!!」」」」
チヴィーチもクロースもすぐに走り出し、その後に他の兵たちも続く。
希望の英雄を失ってたまるかと。
「おい、小僧! くっ、なんという熱さ……これでは……」
「旦那様、大丈夫かなのだ!」
「クエイクッ!」
命は助かったものの、やはりクエイクの状態は良くない。
それどころか、まだ意識はあるものの、このまま放置すれば……
「……あっ」
「おっ♡」
「あら♡」
そして、ついにクエイクのスーパービンビンマウンテンがモッコリした。
「な、なん、何をォ!? このハレンチめ、この状況で何をッ!?」
「いや、し、仕方ないのだ、システィア」
「これはまいりましたね……」
顔を真っ赤にして激怒するシスティア。しかし、これはクエイクの意志とは関係ない現象でありどうしようもないこと。
「ご、ごめん……でも、大丈夫だから。ただの生理現象みたいなもので、まだ意識は大丈夫だから……」
「それでもギリギリではないか、旦那様……やはり副作用……ん? ……あ!」
申し訳なさそうに謝罪するクエイク。するとそこで、チヴィーチが何かを閃いたかのように目を光らせた。
「旦那様は現在、副作用で意識失う寸前……だが、まだ寸前でとどまっておるのだ。なら……」
「?」
「この状態でとりあえず、一発二発出してスッキリさせたら……少しは回復するのではないのか?」
「……ッッ!!??」
それは、クエイクにとっては衝撃的な提案。同時に目から鱗であった。
――あとがき――
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