第44話「告白」
「寒いな……」
幼稚園を出ると外はかなり冷えていた。
まぁ、クリスマスだしこれくらい冷えていて当然か。
親は既に向こう側に居住地を移しているらしいので、俺も明日には引っ越さないといけない。
「思えば変な奴だったな」
最初、黒川とあった時は印象最悪だった。
『……何?』
不愛想だし、怖いし、俺と同じで友達なんていりませんみたいなオーラを全力で出していた気がする。
『……プー太郎よ』
『あ、あれは……友達ができた時の演技よ……』
だけど、それは俺の勘違いだった。本当は人付き合いが絶望的に下手なだけで……誰よりも友達を欲しがっていた。
『だから、貴方が良かったら……』
『私と……と、友達に……っ!』
でも、俺が友達になったら、また転校する時に黒川を傷つけることになる。それは明白だ。
だからこそ、俺は黒川を拒絶した。
『そう言われても、私は一人だったから……勘違いしそうになるのよ』
『だけど、私は勘違いでもいいと思ってる!』
なのに、気づいたらいつの間にか親しくなってしまって……
『だから、責任を取って……貴方は今日から私のプー太郎さんよ!』
だから、これ以上未練が残らないうちに、いなくなろうと思ったのだが――
「――待って!」
なのに、何でお前は追ってくるんだろうな……。
声がしたので後ろを振り返ると王女様の衣装に上着だけを羽織った黒川がそこにいた。
「お前……子供達の相手はどうしたんだよ?」
「川口先生に押し付けて来たわ」
「そんな殺生な……」
あの人、まだ自分の子供もいないのに、あんな数の子供達の相手なんかできないだろ……。
「そんなことより、何勝手にいなくなってるのよ!」
「……明日には引っ越すんだから仕方ないだろ」
「そんなの……私が許さないわ」
「何でだよ……」
別に、俺の引っ越しは俺の家の問題だ。黒川が首を突っ込むようなことではない。
でも、黒川はそんな俺を見つめて言った。
「だって、貴方にはまだ友達がいないじゃない!」
確かに、俺には友達はいない。だけど、それは必要ないからだ。
「何度も言ってだろ。俺には『友達』なんて必要ない」
友達なんか作ってもこうして離れ離れになる。
それで、悲しい思いをするなら『友達』なんていない方が良い。
「なら、何で私にだけ友達を作ろうとしたのよ! あの脚本を考えたのは貴方でしょう……? なのに、何で私だけ友達を作って貴方はいなくなろうとするのよ!」
黒川の言う通り、あの演劇を通して黒川に友達を作ろうとしたのは俺だ。
確かに『友達なんかいらない』とか言っておいて、他の奴に友達を作ろうとしてたら可笑しいよな……。
「でも、あれは黒川の舞台だ。お前はこれからここに残ってあの演劇部で来年も、その次もあの子供達に演劇を披露するんだろ?」
だけど、俺は違う。
「来年の演劇部に俺はいないからな……」
だから、今更『友達』なんか作っても意味が無い。
「いいえ、違うわ。あれは『貴方と私』の舞台よ! だから、貴方も『友達』を作ってハッピーエンドになるべきよ」
「それは無理だ。相手がいない」
「私がいるわ! 私は貴方と『友達』になりたい」
「どうせ転校して離れるんだぞ……?」
そんなの意味が無い。
「離れるからせめて、繋がりが欲しいのよ……」
黒川はそう言うと、劇の最後と同じように俺に向け手を出した。その手は白く細くて、少し震えていた。
「…………」
俺はこの手を取るべきなのだろうか?
俺は今まで全てを捨てて来た。
誰かと親しくなって……そして、別れるのが怖くて『関係』というものを持たないようにしてきた。
「……本当に、いなくなるんだぞ?」
「毎日、電話するわ……」
だけど、こんな選択肢もあったのだろうか?
「せめて、メッセージにしてくれ……」
「……なら、一時間ごとに送るわ」
「重すぎるんだよなぁ……」
そして、俺は震える黒川の手を取った。
すると、今まで我慢していたのか黒川の目から涙があふれ、彼女はこぼすようにつぶやいた。
「やっぱり、転校したら嫌よ……」
そのお願いは厳しいなぁ……。
「……ごめん」
「うん……」
その日、俺に友達ができた。
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