第19話「演技力」
前回のあらすじ、黒川の書いてきた脚本がゴミだった。
「ご、ゴミですって……この私が書いてきた脚本が……っ!?」
ヤバイ、黒川の脚本があまりにもゴミすぎたのでつい本音がこぼれてしまった!
「黒川、違う! これは……違うんだ!」
「違うって何が違うのよ! 私が丹精込めて書いた脚本を貴方がゴミって嘲笑ったのをこの私が聞き逃すと思っているのかしら!?」
いや、別に嘲笑った覚えはないんだが……
でも、ここはこの脚本の『欠点』を指摘しないと黒川も納得しないだろう。
「黒川、いいか。この脚本には重大な欠点がある」
「欠点……ですって? そこまで言うのなら、私の書いた脚本の何がダメなのか教えてくれるかしら?」
え、普通に内容から全部だけど?
――なんて言ったら、黒川がブチ切れるのは簡単に想像できるので、他に言うとしたら……
「例えば役者とか?」
「役者って、そんなの私が演じればいいじゃない?」
「それは主役の『王女様』の話だろ? この脚本には王女様の家臣とか民とか他にも演じなきゃいけない『登場人物』が必要だろ?」
市民だけならそこに市民がいる前提で誤魔化せなくもないが、この王女様の話を聞く『登場人物』は演劇を成立させる以上必要になると思うんだが?
「貴方がやればいいじゃない? そのくらいなら大した役でもないし大丈夫でしょう?」
「いや、何で俺の意見を聞かないでお前が決めるんだよ……」
そもそも、俺はこの演劇部に名前だけ入部しているつもりなので、演劇とか参加する気もないんだが?
それに俺、幼稚園の子供達に『あ、愚民だ!』って指をさして笑われるの嫌だよ?
「つまり、貴方はこの脚本の内容は素晴らしいけど、この脚本を演じるには役者が一人では足りないと言いたいのね?」
いや、内容もゴミだよ?
「まぁ、そうだな。黒川が一人で全部演じられると言うなら問題無いけど……」
「それなら、私一人でいいわ。それなら問題無いでしょう?」
「いや、それは……」
確かに、黒川が一人で演じるなら脚本の内容はともかく役に関しては文句は無いが……
「でも、本当に一人で大丈夫なのか?」
「この程度のお芝居、役者が私一人でも十分よ」
黒川はそう言うけど、たかがクリスマス会の演劇とはいえ演劇ということは『今』『誰が』『何をしているか?』を幼稚園児相手に分かりやすく芝居で伝えなきゃいけないわけだ。
それを登場人物が一人だけならまだしも複数登場人物のいる脚本で一人芝居となると黒川の演技力が心配になるわけだが……
「それなら、実際にやってみた方が速いわね」
「実際にやるって?」
「こうよ」
黒川はそう言うと、あのゴミみたいな脚本の内容を読み上げてその場で物語に出てくる王女役になりきって一人で芝居をし始めた。
「私はこの国の王女! とっても完璧な王女よ!」
最初はあの脚本の通りゴミみたいな芝居が始まったと思った。
「はぁ、退屈だわ……」
だけど、その割には意外と黒川の演技に違和感は無く……
「あら、貴方は愚民だけど……少しはマシな愚民みたいね?」
黒川は本当にそこに誰かがいるかのように自然と語り始めた。
「フフ……やっぱり、私は完璧だわ♪」
そう、俺が予想していたより黒川の演技は完璧だったのだ。
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【今回の作業アーカイブ】
https://studio.youtube.com/video/TnTdCUsWQNI/edit
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