第18話「完璧な王女様」


「書いて来たわ」


 放課後、俺が部室に入ると開口一番に黒川はそう言って一冊のノートを手渡してきた。


「え、何を……?」


 何これ? 授業のノート……?


「脚本よ! 昨日ファミレスでお互いに脚本を書いて来るって言ったでしょう。覚えていないのかしら?」

「あ!」


 ヤベ! すっかり、忘れてたんだけど……

 一応、昨日の寝る前に書こうとは思っていたんだよ? でも、結局何も書く内容が思いつかなくて寝ちゃったんだよなぁ~


「まさか……昨日のことなのに『忘れた』とは言わないでしょうね?」

「いや、一応は書いたんだけど……実は家に脚本を忘れちゃって……」


 本当はタイトルすら書けてないけど……ここは、これで誤魔化そう!


「ふーん……まぁ、いいわ」

「お、おう。ゴメンな……」


 お、何だ? 意外とあっさり許してくれるんだな。もっと、怒られるかと思ったんだが……


「どうせ、私の脚本を採用することになると思うし? そもそも、貴方の脚本に期待なんてしていないもの」

「なら、何で俺にも書かせたんだよ……」


 だけど、それは俺も同じ意見だな。黒川の言う通り、採用されるのは黒川の脚本だろう。

 昨日、書いてみようとして分かったけど、脚本って意外と難しいのな。

 あんなの、まともに小説とか読んでない俺が書いてもできの悪い絵本みたいな脚本になりそうだったからな。


「第三者の感想も聞きたいのよね。だから、私が書いて来た脚本を確認してくれるかしら?」

「あぁ、分かった。じゃあ、読ませてもらうよ……」


 さて、どれどれ?

 これが黒川の書いて来た脚本か――





タイトル『完璧な王女様』


 昔々……あるところに、一人の王女様がいました。


「私はこの国の王女! とっても完璧な王女なのよ!」


 王女様は美人で頭が良くて努力家で……とにかく、完璧で何でもできる人でした。


「さぁ、愚民達よ! この私にひれ伏しなさい!」


 完璧な王女様の手腕により、国は栄え、愚民どもは全て王女様にひれ伏しました。


 王女様すごいです! 完璧です! 流石は王女様です!


「はぁ、退屈ね……」


 でも、そんな完璧な王女様にも悩みはありました。


 王女様は毎日が退屈だったのです。


「何で愚民達はあんなに楽しそうなのに、私は一人なのかしら?」


 それは周りが愚民しかいないからです。


「何処かに、私と対等に付き合える愚民はいないかしら?」


 王女様にとって周りはどれも愚民です。

 だから、自分のレベルに付き合える存在はいなかったのです。


「あら、貴方は愚民でもマシな愚民ね」


 だけど、ある日。

 王女様の前に少しマシな愚民が現れました。


「貴方が良ければ、この私の話し相手にしてあげてもいいわよ!」


 王女様はその愚民が寂しがっていると思い。自分の隣にいることを許可しました。

 すると、少しマシな愚民は王女様の施しに歓喜し涙しました。


「おっほほ! やっぱり、私は完璧だわ!」


 そして、王女様の日常は楽しくなりました。


 みんな、幸せです。


 みんな、楽しいです。


 みんな、ハッピーです。


 めでたし、めでたし……。



 終わり





「ど、どう……かしら?」

「え、何これ……ゴミ?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 YouTubeにて執筆風景を配信中!



【今回の作業アーカイブ】

https://www.youtube.com/watch?v=2HqpDdO5fxs


 詳しくは出井愛のYouTubeチャンネルで!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る