第17話「作戦会議」



 独身先生の策略にハマり見事、幼稚園のクリスマス会で演劇をすることになった俺と黒川は――


「何で俺達はファミレスで作戦会議してるの?」

「仕方ないでしょう。お互いの帰り道で話せそうな場所がここくらいなんだから……」


 そう、ファミレスにいた。

 川口先生の話を聞き終わった後、既に下校時刻になっていたので帰ろうとしたのだが、黒川の『作戦会議をするべきだと思うの』という言葉により、帰り道の途中にあったファミレスに入ったのだった。


「これが……と、友達と初めてのファミレス……」


 ――という事情なのだが……多分、誰かと学校帰りにファミレスへ立ち寄りたかっただけに思えるのは気のせいかな?

 あと何度も言うけど、俺と黒川は友達じゃないからね?


「貴方はドリンクバーしか頼んでないけど、他には何か頼まないの?」

「あいにく、今は金があまり無くてな……」

「心配しなくても、ここは私が無理矢理に誘ったようなものだから奢るわよ。だから、フライドポテトくらい頼んだからどうかしら?」

「お、マジで? でも、なんか悪いな……」


 でも、地味に助かるな。

 実は来月の小遣いまで持ち金が少なくて――


「別に、謝らなくていいわよ。だって、こういうのを『友達料』っていうのでしょう? 奢ってしまえば実質、皆『友達』って妹が言ってたもの」

「黒川! ここは割り勘にしよう! 絶対にッ!!」


 奢られたら、強制的に『友達認定』とか、なんて罠だよ!

 しかも、それ『友達料』の意味違うから!


 てか、妹の方も一体何を教えているの?


「それで劇の内容だけど、まず決めなきゃいけないのが――」

「脚本だな」

「ええ、先生は童話でもオリジナルでも好きな物を選んでいいとは言ってたけど……」

「まぁ、園児相手に見せる劇だからな。それっぽいのを選んどけばいいだろ?」


 だとしたら、適当にシンデレラとか白雪姫とかか?


「でも、私達にはその脚本を決めるにあたって解決しなければいけない問題があるのを忘れてないかしら?」

「問題って……何だよ?」

「役者の人数よ」

「人数って……」


 あ、そうか! 演劇部は俺と黒川の二人しか部員がいないから、役者が多い脚本は使えないのか!?


「必然的に演じらる役者は黒川だけになるのか……」

「ちょっと、待ちなさい!」

「ん、何?」

「何? じゃないわよ! 何で役者が私一人なのが前提なのかしら?」

「え、だって……黒川以外に誰が役者やるんだよ?」

「貴方も演劇部の部員でしょ! 貴方を含めれば役者が二人までの脚本が使えるわ」

「え、嫌だよ! 断る! 絶対にだ!」


 そもそも、俺は幽霊部員で良いという条件で入部をしたんだ。

 こんなの契約違反だろ!


「それに、演技なんて俺したこと無いし……」

「自信が無いのなんて私も同じなのだけど?」

「いや、お前の場合は見た目が良いから、演技がお粗末でも幼稚園児程度なら問題無いって」


 それで自信が無かったら、演技と見た目の両方に自信が無い俺なんかミジンコだからね?


「そ、そうかしら? なら、役者やってみてもいいかしら……」


 お? 何故か分からないが、黒川がいい感じに乗り気になってるぞ。

 よし、良子の調子で適当に褒めて黒川に役者を押し付けよう。


「うんうん、黒川が役者をやれば演劇も大成功だって!」

「そ、そう?」

「マジマジ! もう人気者間違いなしだね!」

「に、人気者!? それって、友達もできたりして!」

「いや、流石にそれで友達は……」

「そう……。やっぱり、役者は止めておこうかしら……」

「ウソウソ! もしかしたら、友達もできるって!」

「ふ、ふーん……ち、因みに……」

「……因みに?」


 よし! どうやら、もう少しで黒川に役者を押し付けれそうだな。

 ここは後もう一息かな?


「貴方も……友達になりたいと思っちゃう……?」

「いや、俺は……」


 流石に、黒川の演技を見た程度で友達になりたいとは――


「やっぱり、役者は止めておこうかしら……」

「どうだろうなぁ~!?」


 仕方ない! ここは役者を押し付けるためだ……っ!


「も、もしかしたら……友達になりたいと思っちゃうかなぁ~?」

「し、仕方ないわね……分かったわ。貴方がそこまで言うのなら、役者は私が引き受けるわよ!」

「よっしゃ! オラァ!」


 ちょっろ! 黒川さんマジで、ちょろいっす! 


 それに、俺は『友達になりたいと思うかも』と言っただけで、最終的に友達にならない可能性もあるからな?

 ……うん、嘘は言ってない!


「でも、そうなると役者が一人でもできる脚本を探す方が大変ね」

「もうなんか、自分達で脚本を書いた方が速そうだな……」

「そうね。じゃあ、そうしましょう」

「え」


 マジで? 俺、適当に言っただけなんだけど……


「黒川って、脚本書けるの?」

「当たり前でしょう? 私が今まで何のために、演劇部でいろんな作品の本を読んでいたと思うのかしら?」

「まさか……」


 いつか演劇部が活動再開した時に、いつでも脚本を書けるように――


「友達のいない寂しさを紛らわすためよ……」

「脚本、関係無いのかよ!?」


 ――って、違うんかい!

 間際らしい言い方するなよな……


「でも、自信がないわけでもないわよ? だって、幼稚園で披露するレベルの脚本だもの。それくらいなら、自分達でも書けるでしょう?」

「まぁ、そうか……。じゃあ、それで決まりだな」

「ええ、明日までに脚本をお互いに書いて来て見せ合いましょうか」

「え、俺も脚本書いて来るの……?」


 てっきり、黒川が脚本を書いて来るのかと思ったんだけど……


「はぁ、当然でしょう……むしろ、貴方は何をするつもりだったのかしら?」

「えっと、それは……」


 確かにそうか、このままだと俺が部員でいる意味がマジで無くなるな。

 仕方ない。どうせ、黒川が良い感じの脚本を書いて来てくれるだろうし、俺は適当にそれっぽいのを書いて誤魔化すとするか。


「じゃあ、作戦会議も終わったし、俺はもう帰る――」

「待ちなさい!」


 ――と、思ったら、黒川に呼び止められた。


「……何? 俺は帰りたいんだけど?」

「まだ私が注文したパフェが来てないのだけど、貴方は私を置いて先に帰るつもり?」

「いや、だって俺は別に料理は頼んで無いし……別に、俺が帰った後にここでパフェ食って帰ればいいじゃん」

「ちょっと、想像してみてくれるかしら? 友達と来たのに、一人取り残されてパフェを食べる可哀そうなJKがここに爆誕する姿を……」

「…………」


 うわっ! なんか、めちゃくちゃ悲しくなる……


「でも、ほら……人は出会いと別れを繰り返すから強くなるものでな……」

「そんなの川口先生だけで十分よ。それに、あの人は『出会い』も無いわ」


 黒川の奴、バッサリ川口先生を切り捨てたな。

 ひでぇ……


「もし、貴方が本当に帰るというのなら、私にも考えがあるわよ?」

「へぇ、例えばどんな考えが?」

「そうね。例えば、ここの代金を……」

「何を言われようが、俺は自分のドリンクバー代しか払う気は無いからな?」


 男が全て奢るべきなんて考えには絶対に屈しない!

 そう、俺はNOと言える男なのだ。


「私が全額払うわ。友達料として」

「マジで止めてくれる!?」


 コイツ、的確に俺の嫌がること分かってきたなぁ……


「はぁ、分かったよ……。お前が食べ終わるまで一緒にいればいいのな?」

「分かればいいのよ♪ 因みに、貴方も何か注文してもいいのよ? 私が奢ってあげるから」

「それが嫌だから、帰らないでいるんだけど……?」


 すると、ちょうどいいタイミングで黒川が注文していたパフェがテーブルに運ばれてきた。

 まったく、何で俺は黒川の食事なんかに付き合わされているんだろう……


「ウフフ、ファミレスのパフェってこんなにも美味しいのね♪」


 ……まぁ、この笑顔が見れただけ良しとするか。





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