第20話「妥協案」
「ど、どう……?」
演技が終わると、黒川は少し不安そうな表情で感想を聞いてきた。
いや、さっきまで自信満々で演技していたお前は何処に行ったんだよ? さっきの演技はそんな不安になる要素なんて何処にも無いほど――
「ちょっと、急に黙ってどうしたのよ?」
「あ、いや……」
「もしかして、私の演技ダメだった……?」
「そんなことは無い!」
――そう、完璧だった。
黒川の演技はまるで本当にその場に彼女以外の登場人物がいるよう感じるほどで、気づけば俺は黒川の演技によってあのゴミのような脚本の世界に引き込まれていたんだ。
「そんなお世辞を言われても……」
「いや、本当だって! 本当に良い演技だったよ」
「そ、そう?」
「ああ! てか、何でそんなに自信が無いんだよ?」
いつも、一人でプーさん(クマのぬいぐるみ)を使って一人芝居しているんだから、ある程度の自信はあったのかと思ったんだが……
「だって、いつもは一人でプー太郎さんとおしゃべり――じゃなくて! え、演技の練習よ! そう、一人で演技の練習をしてたから、誰かに自分の演技を見てもらうのって初めてで自信が無いのよ……」
「なるほど、そういうものか……」
だとしたら、黒川の演技力が凄いのって一人でクマのぬいぐるみと喋ってきたおかげだったりするのだろうか? ということは、それだけ多くの時間をあのクマとおしゃべりしていたというわけで――うん、これ以上考えるのは止めておこう。
「とにかく、俺が黒川の演技を凄いと思ったのは本当だ。本当にあのゴミみたいな脚本の内容とは思えない程に凄い演技力だったと思う!」
「そ、そう? まぁ……確かに、貴方はそういうお世辞を言う人ではないものね? じゃあ、ここは素直に誉め言葉として受け取って――ん? ゴミみたいな……何ですって?」
しかし、これだと黒川の演技力が高いだけに余計脚本の酷さが目立つ演劇になりそうだな。
多分、あの脚本は黒川の願いを書いたものなんだと思う。
黒川の『友達が欲しい』という思いを込めて書いたのがあの脚本なんだ。だから、王女様は友達が欲しいと願うし、それを演じる黒川にも力が入る。
だったら、俺にできることは――
「なぁ、黒川……」
「安藤くん、何かしら? 私もさっきの貴方の言葉に少し疑問に思うことが――」
「脚本を少し修正しても良いか?」
せめて、脚本くらいは少しでも手伝わないとな。
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