第21話「隣にいるのは」


「脚本、書いて来たぞ……」


 翌日の放課後、俺は演劇部の部室に行き、黒川に昨日徹夜で修正してきた脚本を渡した。

 因みに、同じクラスなのに何で教室でなく部室で渡しているかというと、俺が黒川と教室でまったくと言っていいほどに接点が無いからだ。

 だって、そうだろ?

 俺と黒川は同じ部活ではあるが『友達』ではない。

 なら、教室で慣れ合う必要は無いし、脚本は部活関係なのだから部活動の中で済ませる方がいいだろう。

そう、俺は仕事とプライベートはキッチリと分ける性格なのだ。


「むぅ~っ!」


 ……だから、黒川が『別に、朝の教室で渡してくれても良かったんじゃないのかしら?』と目で訴えているような気もするが、気にしないでいいだろう。

 因みに、黒川が朝から俺に謎の目配せを送っていたのも関係の無いことだと思うので、部活が始まるまで無視していた次第である。


「フン! とりあえず、受け取ってあげるわ。まぁ、修正したと言っても? 私の脚本の方がずっと素晴らしい出来だとは思うけど……プー太郎さんもそう思うわよねー?」


 黒川はそう言いながらひざ元に抱えたクマのぬいぐるみに語りかけた。一体その過剰な自信は何処から来るのだろう?

 あと、最近コイツぬいぐるみに話しかけるの隠さなくなってきたな。


「まぁ、修正と言っても大まかなストーリーは変えてないから読んでみてくれ……採用するかどうかは、その後に判断してくれればいいから」

「ふーん、安藤くんがそれだけいうのなら一応読んであげるけど……さてと?」


 そういうと黒川は俺の書いてきた脚本を読み始めた。




『完璧な王女様』


「私はこの国の王女! とっても偉いのよ!」


 この国の王女様は美人で頭が良くて、完璧で何でもできる人でした。


「だから、私は完璧でなければいけないのよ!」


 そして、王女様は『完璧な王女』として努力を惜しまない人でした。


「さぁ、愚民どもよ! この私を称えなさい!」


 だけど、王女様は少しだけ性格がとっても残念でした。


 しかし、王女様はとっても優秀だったので、その手腕により国は栄えました。


 でも、そんな完璧な王女様には悩みがありました。


「はぁ、何で私には『友達』がいないのかしら……」


 そう、王女様には『友達』がいなかったのです。


「何処かに、私と対等に付き合える人はいないのかしら?」


 王女様は『完璧な王女』であろうと、何でも一人で努力してきたので、自分と対等に語り合える存在がいなかったのです。


「こうなったら、もっと努力して『完璧な王女』になるしかないわね!」


 だから、王女様は『友達』を作るためにもっと完璧な人間になろうと努力しました。


「私と対等に付き合える人を探し出せるくらい、私が今よりもっと完璧になればいいのよ!」


 王女様は頭の良いバカでした。


「私はこの国の王女! 超完璧な王女様なんだから!」


 しかし、王女様が完璧になればなるほど、王女様の周りから人は離れていきました。


「私はこんなにも完璧なのに、何で誰も私の友達になってくれないのよ!」


 それは、王女様が完璧すぎたせいで、周りにいた人の仕事も奪ってしまったからです。

 

「貴方達は無能なんだから、この私の言う通りにしていれば全て万事解決よ!」


 そんな感じで、国の政治は王女様のワンマン体制だったので、周りにいた人達は王女様に嫌気がさして殆どいなくなってしまいました。


「完璧な王女であるために、こんなにも努力してきたのに……何で誰も私のことを見てくれないのよ!」


 やがて、王女様は孤独になってしまいました。


「それでも、私が友達が欲しい……」


 だけど、そんな王女様のことをちゃんと見ている人が一人だけいました。


「貴方は……確かこのお城のトイレ掃除大臣?」


 何でもできるためお城の仕事の殆どを一人でやってしまう王女様でしたが、そんな彼女が唯一他人に任せていたお仕事、それがお城のトイレ掃除でした。


 そして、彼だけは一人ぼっちになっても完璧であるために努力し続ける王女様の姿を唯一見続けていた人物だったのです。



 そして、数日後……。



「私はこの国の王女! 超完璧な王女様なんだから!」


そこには元気な王女様がいました。

王女様はもう迷いません。

何故なら――


「おっほほ! やっぱり、私は完璧だわ!」


 もう、彼女は一人ではないからです。



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「うぐ、ひぅぐ……ぴぇん……」


 即落ちだった。

 俺の脚本を詠み終えた黒川は何故か号泣していた。

 ……え、そんなに? この脚本の何処に泣く要素とかあった?


「なによ! こんな神脚本を読まされたら採用しないわけにいかないじゃない!」

「そ、そうかな……?」

「そうよ! まったく、放課後まで脚本を見せないから一体どんな大作を見せてくれるのかと思ったら……貴方にこんな才能があったなんて驚いたわ」


 別に俺はそんな大した修正をした覚えは無いんだが……多分これ、黒川が王女様に感情移入しちゃっているだけだよな?


「いやぁ……げ、原作が良かったんじゃないかな?」

「そう……? まぁ、貴方がそういうのならそういうことなのかしら?」


 よし、黒川が単純で助かった!


「でも、安藤くんの修正も素晴らしいと思ったのも事実よ」

「そ、それは……ドウモアリガトウ」


 黒川に脚本を褒められてもあんまり嬉しくないんだよな……何故だろう?

 一応、後で川口先生にも確認してもらおう。


「だけど、何で王女様を最後まで見てくれた人がトイレ大臣なのかしら?」


 そういう黒川の表情は『もうちょっとマシな人物はいなかったの?』とでも言いたげだ。


「じゃあ、もしお前が王女様で何でもできるとして、自分で城のトイレ掃除を全部するか?」

「したくないわね……」

「だろ?」


 最後までお城に残る人物を考えたら、必然的にトイレ大臣しか残らなかったんだよ。

 だって、モデルのお前がしないなら王女様も絶対にしないだろうからな?


「でも、私の最初の友達がトイレ大臣って……いや、これは王女様で私の話では……な、無いものね!」




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