第22話「事件」
「ここが演劇部の倉庫か……」
放課後、俺は黒川と共に体育館裏にある倉庫の中にいた。
幼稚園での演劇をするにあたり、演劇部が過去で使用した衣装や小道具などが使えないか顧問の川口先生に相談した所、この倉庫の場所を教えられて……
『すまないが君達で探してくれないか? 私は今婚活アプリのアカウント登録で忙しいんだ』
――と、言われたためだ。
川口先生、婚活アプリに手を出すほど追い詰められていたのかぁ……
「しかし、もっと小さい倉庫だと思っていたんだけど、意外と広いんだな」
「元々、この倉庫は演劇部だけじゃなくて、他の文化部も使っていたみたいだから、広さだけはあるのよね」
確かに、言われて倉庫の中を見てみると、過去に演劇部が使ったであろう小道具以外にも、将棋盤や文芸誌に楽器など他の部活の備品と思われるものが置いてあった。
そういえば、黒川が大事にしていたクマのぬいぐるみも倉庫に置いてあったものだって聞いたような気がするな。
「しかし、このガラクタの山から演劇に使えそうな小道具を探すってのも大変そうだな……」
「そうね……。見た感じ中の物もホコリをかぶってるし、あまり使われていなかったようね」
確かに、黒川の言う通り倉庫の中はあまり奇麗とは言えない状況だ。元々は何か演劇で使えそうなものがあればという気持ちだったが……これは、あまり期待はできそうにないな。
「まぁ、衣装はレンタルでも探せばいいし、舞台のセットや小道具も幼稚園の演劇だから、適当な物で代用すればいいだろう」
「適当なんてダメよ。それだと幼稚園の子供が可愛そうでしょう?」
「そ、そうか……」
……驚いた。
まさか、黒川がこんなに今回の演劇のことを真剣に考えていたとは……
「もしかして、黒川って意外と子供好きだったの……?」
「はぁ? 貴方は何を言っているのかしら? 別に、そんなのではないわ」
いやいや、そんな別に取り繕っても――
「……ただ、素晴らしい劇にすれば子供達が私の友達になってくれるかもしれないじゃない」
「黒川、お前って奴は……」
いくら、友達が欲しいからって子供をターゲットにするなよ……。
「だけど……確かに、セットや小道具とかは良いのを見つけたいよな」
「あら? なんだかんだ言って、貴方も実は子供好きなのかしら?」
何か黒川が変な目で俺を見ているが、こいつは一体何を勘違いしているんだ?
別に、俺が良いセットや小道具を見つけたいと思っている理由は――
「倉庫にあるもので楽ができるなら、それに越したことはないだろ?」
「貴方ね……」
だって、自分でセットを作るのって大変そうじゃない?
いくら時代がDIYだろうが、俺はそういう細かい作業は嫌いなんだ。
「はぁ、少しでも見直した私がバカだったわ……」
あれ? 何か黒川が俺をゴミを見るような目で見ているのは……俺の勘違いかな?
「とりあえず、さっさと使えそうな小道具だけまとめて部室に戻ろうぜ? ここ倉庫だから、暖房がなくて寒いんだよ」
「なら、今日は部室に戻りましょうか? 確かに、私も少し身体が冷えて来たわね……」
どうやら、この倉庫が寒いと感じていたのは黒川も同じだったらしい。
まぁ、そりゃあそうか。もう十一月も終わるし、夜になると冷え込むからな。
「でも、まだ使えそうな衣装とかは見つかってないけどいいのか?」
「幸い衣装以外はある程度使いまわせそうな小道具は見つかったわけだし、続きは明日にしてもいいじゃないかしら?」
「まぁ、そうか……」
もしかして、黒川の奴。俺が寒いって言ったから気を使ってくれたのか……?
いや、それは無いか。
ただ単に、黒川も寒くって早く帰りたくなっただけだろう。
「じゃあ、さっさと出ようぜ。寒すぎて早く部室のストーブで温まりたくて仕方ないんだが」
「フフ、そうね。私も部室で少し温まってから帰ろうかしら……って、え?」
しかし、黒川が倉庫のドアを開けようとしても『ガチャン!』という嫌な音が響くだけで、倉庫のドアは開かなかった。
く、黒川……さん? 何か……僕チン、すごぉ~く嫌な予感がするんですけどぉ……?
「ねぇ、安藤くん……」
「黒川、嘘だよな……」
そして、黒川は絶望的な一言を俺に伝えてきた。
「開かないわ……」
「なんでだよ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます