第24話「お見舞い」
十二月に降る雨は寒い。
そんなことを傘を握る手の寒さで感じながら、俺は放課後の帰り道を一人で歩いていた。
雨が降っているのは知っていたけど、こんなに寒いなら手袋をしてくれば良かったな……。
「こんなに寒かったら、黒川が風邪をひくのも納得だな」
そう、黒川は風邪をひいて学校を休んでいた。
そして、何故か俺はその黒川の家の前で立ち尽くしている……。
何で、こうなったのかというと――
それは、今日の放課後のことだった。
「風邪……ですか?」
「ああ、そうだ。黒川は今日風邪で休みだから放課後の部活は無くてもいいぞ。君一人では活動のしようも無いだろ?」
学校に登校して来なかった黒川が気になり、担任の川口先生に事情を聞いたところ、返ってきたのはそんな返事だった。
「まぁ、そうですね……。それで黒川が登校してなかったんですね」
「でも、君がな……フフ」
「いや、川口先生……一体、何が可笑しいんですか?」
「あぁ、すまない。ただ……『友達はいらない』と言っていた君が黒川のことを心配するとは思わなくてな?」
「べ、別に、心配したわけじゃないですよ……」
「そうか……では、そういうことにしておこう」
ただ、俺は黒川がいないのなら部活はどうするのか気になっただけで、別に心配したとかそういうわけでは決してない。
しかし、川口先生は何かを見透かすように問いかけて来た。
「黒川の見舞いには行かないのか?」
「……何で俺がお見舞いに行くと思うんですか?」
別に黒川が風邪をひいたのは俺のせいというわけでもない。なのに、俺が黒川のお見舞いに行く理由など何処にあるのだろうか?
しかし、川口先生はそんな俺の思考を読み取ったかのように続きを返してきた。
「フッ、そうだな……。別に、君のせいで黒川が風邪をひいたわけではない。むしろ、原因があるなら全部私のせいだな? ハッハッハ!」
「そうですよ……」
この人、よくそれで笑っていられるな……。
本当に教師か?
「だから、君が黒川のお見舞いに行く理由なんてない」
「…………」
そうだ。俺が黒川のお見舞いに行く『理由』はない。
もし、これが『友達』だとしたら、それがお見舞いに行く『理由』となるのだろう。
でも、俺と黒川は……。
「ただ、君がお見舞いに行かないと、今日の授業で配ったテスト対策のプリントを黒川に届ける相手がいなくなってしまう……かな?」
「…………」
そして、気づいたら何故か俺は先生に渡されたプリントをもって黒川の家の前まで来ていたのだった……。
「まさか、またここに来ることになるなんてな……」
いやいやいや! ただ、プリントを届けに来ただけだから!
個人的には授業のテスト対策用のプリントなんかどうでも良くね? とか思うんだが……
『確かに、テストの成績を気にしていない君にとってはどうでもいいものかもしれないな。しかし、常に成績トップを取り続けている彼女にとってはどうだろうね?』
まぁ、あんなこと言われたらな。
確かに、黒川にとって学校の成績は誰かに認めてもらうための手段の一つなのかもしれない。
それに、俺がプリントを届けなかった所為でテストの成績が落ちたなんていちゃもん付けられても嫌だしな。
……うん、そうだ! そういうことにしよう!
「てか、プリントを届けるだけなら、わざわざ顔を会わす必要はないのでは?」
そもそも、目的は黒川にこのプリントを届けることなのだから、ポストとかにプリントだけ入れておけばいいのだ。
なんだ! 簡単なことじゃないか!
「よし、そうと決まったらさっそく――」
しかし、どうやらその決断は少し遅かったようで……ポストにプリントをぶち込んでとんずらしようとした瞬間、黒川の家から誰かが出てきて背を向ける俺に声をかけて来たのだ。
「あれ……安藤さん?」
この声の主が黒川本人ならまだ何か適当なことを言って誤魔化し、この場から去ることができたのかもしれない。だけど、それが黒川の身内となれば……流石にそこまでの失礼は俺でもできないというものだろう。
恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいたのは……
「あ! もしかして……お姉ちゃんのお見舞いに来てくれたんですか!」
そう、黒川の妹だった。
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