第39話「過去の失敗」
「脚本にダメ出しってどういうことですか……?」
俺がそう聞くと川口先生は申し訳なさそうに口を開いた。
「この前、我々が向うの幼稚園に交流会として行っただろ? その時に、あらかじめクリスマス会でやる演劇の脚本を向うの先生達にも確認してもらったんだ。したら、今日になって……『もう少し、子供達が楽しめる内容にできませんか?』と言われてしまってな」
「子供達が楽しめる内容って……」
つまり、俺が書いた『完璧な王女様』だと幼稚園の子供達が楽しめないと?
「そうかしら、私はあの脚本はとても良かったと思うけど?」
どうやら、黒川はこのダメ出しに納得がいっていない様子だった。
でも、よく考えたらあの脚本って黒川が書いた脚本をベースに俺が改良したやつだから、結局悪いのは黒川ってことにならないだろうか?
うん、そうだ。きっと、俺は悪く無い!
「まぁ、向こうに確認をするのが遅かった私の落ち度でもあるんだが……向うの希望としては『子供達にも分かりやすいように、最後はハッピーエンドで終わる内容』にして欲しいそうだ」
「ハッピーエンドですか……」
おかしい……俺はアレをハッピーエンドで書いたつもりなんだが?
「え、彼の書いた脚本ってハッピーエンドじゃないんですか? だって、あの脚本で王女様は最後にたった一人の理解者を得られたのよ? トイレ大臣だったのは不満だけど……」
どうやら、黒川も同じ意見らしい。これでこの場にいる過半数以上があの脚本をハッピーエンドだって言っているから、もう脚本を変更する必要も無いんじゃないんだろうか?
「黒川、君の言いたいことも分かるが……しかし、君達はあの脚本を子供達がハッピーエンドだと理解できると思うのか?」
「「あ……」」
確かアレの内容は、完璧すぎる所為で一人ぼっちになった王女様の元に、たった一人の理解者だけが残ったという内容だったはずだが……
「これは私が前の先生に聞いた話なんだが……過去にもこの学校の生徒達が向うの幼稚園で演劇を披露する機会があったらしくてな」
「へぇ、この学校であっちの幼稚園と近いから昔から交流があるんですね」
「それで、その生徒達はどんな演劇を披露したんですか?」
「それがな……身分違いのヒロインと主人公が死んで結ばれるというロミオとジュリエットみたいな話だったんだ」
「やけにヘビィーな内容の脚本ですね……」
「それを幼稚園の演劇で見せるって鬼かしら……?」
「当時の脚本を考えた生徒曰く『ハッピーエンドのつもりで書いた』とか言ってたらしいが、それを見た園児達は号泣して劇が終わった後は阿鼻叫喚の地獄絵図だったらしい」
「そ、それは……」
「流石にちょっと……」
その脚本と比べたら、俺の『完璧な王女様』は可愛いものかもしれないが……
「確かに、そう考えると俺達の脚本も幼稚園でやる演劇にしては少し難しかもですね」
「分かってくれたら何よりだ……」
「私はまだ納得いってないけどね?」
黒川は今の話を聞いてもあの脚本で演劇をするつもりなのだろうか? 鬼かな?
「何も脚本の内容を全て変えろというわけじゃない。そうだな……最後に王女様に友達が沢山できました。みたいな子供達にも分かりやすいハッピーエンドにして欲しいということだ」
「わかりました。考えてみます」
つまり、もっと多くの友達を劇で登場させる必要があるわけか……。
しかし、友達がいらないと思って書いた脚本にまさか友達を出せなんて言われるなんて、とんだ皮肉だな。
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