第40話「信頼」
「今日こそは私がここを奢るわ! 友達料として!」
放課後、脚本変更の作戦会議の為、近くのファミレスに入ると、黒川がそのようなことを言いだした。
「いや……だから、その『友達料』は断ると何度も言ってるだろ?」
飯を奢る=友達って、どんだけ俺達歪んだ関係の『友達』なんだよ……
「フフ、貴方ならそう言うと思っていたわ。だけど、今の貴方は私の『プー太郎さん2
「うっ、それはそうだが……」
そう言えば、俺と黒川の関係って、既にかなり歪んでるんだった……。
確かに、転校するまでは友達の代わりとして黒川に付き合う約束だが、別に会計を奢らされる理由は――
「甘いわね! 私は友達ができたら、支払いは全て奢る主義よ!」
「な、なんだってーーっ!」
「フフ♪ つまり、今日の貴方は私にここの支払いを奢らされるしかないのよ?」
「ぐぬぬぬ……」
てか、お前の友達の倫理観はそれでいいのか……?
「まぁ、いいか……」
「あら、意外と引き下がるのが速いわね。もっと、奢らされるのを嫌がると思ったのだけど?」
「抵抗しても無駄だと思ったからな……」
「フフ……つまり、ようやく貴方も私の友達になる覚悟ができたということかしら?」
「……言ってろ」
一応、対策も考えたから好きに言わせておけばいいだろう。
それよりも、本題は――
「てか、脚本をどうするか話さないか? 今日はそのためにファミレスに来たんだろ?」
演劇の本番も近いし、脚本を変えるとしたらあまり時間は残されてないから今日か明日の内にどう変えるか話だけでも決めとかないとヤバいしな。
「それもそうね……でも、先生は『子供達に分かりやすいようなハッピーエンドにしろ』って言ってたけど、具体的に改善案はあるの?」
「まぁ、無難に行くなら『王女様にも友達ができました。めでたしめでたし』って感じか?」
最後が王女様一人ぼっちでなければ良いんだろう?
だけど……
「でも、それって一つ大きな問題があるわよね?」
「なんだよなぁ……」
そう、演劇の内容をこのようにできない理由が俺達にはある。むしろ、この理由があったからこそ王女様が『独り』の脚本を作ったのだ。
その理由は――
「「役者がいない……」」
この演劇部は俺と黒川しかいないから普通に考えて演劇で役者ができるのは黒川一人だけなのだ。俺はそもそも演技に自信が無いというのもあるが……
「練習して気づいたけど、当日の裏方が必要だから黒川が王女様役をしたら俺が裏方をやらないといけないんだよな……」
だから、俺達が演劇をしようにも演じれる登場人物は『一人』だけなのだ。まぁ、他には黒川が一人二役をするとか――
「一応、貴方が最後のシーンだけ『友達役』として出演する案もあるわよね……?」
そう、一応裏方をやらないとは言っても最後のシーンだけ演劇に参加することだけなら可能だろう。だけど、それは――
「……却下で」
理由はもちろん、俺が演技に自信が無いからだ。というか、黒川の演技力が高いので絶対に俺の実力の無さが原因で浮いてしまう気すらする。
「それなら、黒川の演技力に頼る方が良いと思うんだよな……」
そもそも、俺達の演劇が役者一人で成立するのは黒川の長年による『プー太郎さんとの友達ごっこ』で無駄に鍛えられた黒川の演技力の高さがあるからだ。
そのおかげで、役者が一人でもあたかも目の前に他のキャラがいるように見える演劇が披露できるのだ。
だからこそ、そこに演技力の無い俺が入ったら劇の魅力というか……黒川が作り出す劇の世界観が壊れるような気がして嫌なのだ。
それに……
「俺は演劇部からいなくなる人間だからな。そんな俺に、この劇に出る資格は無いだろ?」
「私はそんなことは無いと思うわ」
「黒川が思わなくても、俺が思うんだよ」
「……そう」
だって、この劇に俺が参加したら、それは黒川の『二人での思い出』になってしまう。それでいなくなるなんて残酷だし無責任だ。
なら、最初っからそんな思いでなんて作らないで『一人の思い出』にしておいた方がマシだ。
「ちょっと、トイレ行ってくる……。とりあえず、脚本は最後まで何か考えておくよ」
「分かったわ……でも、安藤くん!」
「何だ?」
そして、トイレに行こうとする俺に、黒川は言った。
「貴方が書く
それは、俺なら脚本をハッピーエンドにしてくるという信頼だろうか? それとも、どんな脚本だろうと私がハッピーエンドに演じて見せるという自信だろうか?
まぁ、どちらだとしても……
「……多分、後者だろうな」
トイレに行く振りをして、この隙に会計を済ましておくとするか。
友達料を払われる前にな?
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