第36話「思い出」
「結局、凄い時間を無駄にしたな……」
あの後、俺と黒川がお店を出ると、既に日は暮れていた。
どうやら、俺達は三時間近くもスマホアプリに没頭してしまったらしい。
「てか、もう日が暮れているんだな……」
「私から言いだしたことだけど、物凄い時間を無駄にしてしまった気分だわ……」
「俺は注意したけどな……」
でも、なんだかんだ言いながらも、結局は楽しんでしまったし……もしかしたら、ワンチャン今日の中で一番無駄だけど有意義な時間だったかもしれない。
……まぁ、黒川には言わないけどな?
「それで、黒川は他に何かしたいことは無いのか? 一応、今日は一日お前の『したいこと』に付き合う約束だから、あと少しくらいなら付き合えるぞ?」
「そうね……。なら、あと一つだけ付き合って欲しい場所があるのだけどいいかしら?」
「おう、任せろ」
もう、日は暮れているがあと一件何処かに行くくらいなら大丈夫だろう。
そして、俺達が最後に向かった場所は――
「ここよ。最後にこれをやってみたかったのよね」
「お、おい……黒川、これって……」
「ええ、プリクラよ!」
そう、黒川が最後に連れて来たのはプリクラ専門のゲームセンターだった。
店の中がプリクラオンリーなため比較的女性客かカップルしかおらず、個人的にはとても長く滞在したくない空間だった。
「やっぱり、友達と言ったらプリクラでしょう!」
「たまに思うが、お前のその友達関係の価値観って絶対に偏っているよな……」
「今日は私に付き合ってくれるんでしょう? なら、文句言わないで最後まで付き合いなさい」
「それは分かっているが……でも、黒川ってこういうの操作できるか?」
悪いが俺はプリクラなんて撮ったことがないから、どのプリクラがいいのか以前に操作報告すら分からないんだぞ?
「大丈夫よ。プリクラなら妹と良く撮っているもの」
「そういうものか……」
「それに、操作なんて機会の説明に従っているだけで問題ないわ。とにかく、撮ってみればわかるわよ」
「ちょ、おい! 分かったから押すなって!」
そして、言われるがまま俺は黒川にプリクラ機の中に押し込められて訳も分からないまま写真を取らされたわけだが……
「これ……もはや、ただのイタズラ写真だろ……」
出来上がったプリクラを受け取ったが俺の姿は見事に黒川のおもちゃにされていた。隣に映る黒川は実に可愛らしく撮れているのだが、俺だけ変にデコ……というのか? 落書きや目がキラキラになる加工をされて、黒川の隣にバケモノみたいな俺が爆誕していた。
もはや、現代の美少女と野獣である。
「フフ、安藤くん。とても男前に撮れていると思うわよ?」
「何お前……最後にこんなイタズラ写真撮るためだけにここに俺を連れて来たの……?」
「ち、違うわよ。私はただ……」
「ただ……何だよ?」
すると、黒川は最後にここへ来た目的を恥ずかしそうに顔を赤らめながらつぶやいた。
「最後に思い出が欲しかったのよ……」
「……え」
「貴方は転校してしまうのでしょう? でも、そういう……プリクラだけでもあれば貴方がいたという思い出は残せるじゃない……」
「黒川……」
もしかしたら、コイツは最初から『俺との思い出』を残す目的で色々連れまわしていたのか?
友達がいないこいつなりに漫画とかのシーンを参考にして……
「こっちのプリクラは、安藤くん……貴方の分よ。貴方が転校しても私は貴方のことを忘れないわ。だって、このプリクラ《思い出》があるもの。だから、貴方も忘れないでこのプリクラ《思い出》を持っていてくれるかしら?」
確かに、転校してしまう俺は黒川の友達にはなれない。
いや、友達になる権利なんて無いだ。だって、いなくなってしまうから……
でも――
「あぁ……」
この思い出だけは大切にしようと思う。
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