第3話「見学」
「じゃあ、そういうわけであとは若いお二人に任せるとしよう」
川口先生はそう言うと部室を出て行ってしまった。
いや、何処の仲人だよ……。
「…………」
「…………」
てか、めっちゃ気まずいんだけど!?
そもそも、俺は見学って体で来たわけだが一体何を見学すればいいんだ?
見学も何も活動自体してないだよなぁ……
なので、唯一の部員である黒川の太ももを『見学』することにした。
「じぃー……」
「……何か?」
すると、何故か黒川が俺に怪訝な視線を向けて話しかけて来た。
「いや、部活見学って何をすればいいか分からないんだけど……」
「あぁ、だから私を見ていたのね……」
ハイ。だから、太ももを眺めていました。
「ならば、そう聞けば良いじゃない? 私はてっきり、新手の視姦プレイの被害でも受けているのかと思ったわ……」
なんて、誤解だ!?
まったく、一体この女はなんてことを言うのだろう? 俺はただ純粋な気持ちで太ももを眺めていただけだというのに……
とりあえず、何もやましい気持ちは無いのだが、ここは一度話題を変えるとしよう。
「それで、演劇部ってどんな活動してんの?」
見た感じ何もしてな――
「何もしてないわ。見て分かるでしょ?」
「え……」
あ、やっぱり……?
「私が入った時には既に廃部寸前だったもの。まぁ、去年までは活動してたみたいだけど……」
「じゃあ、今は……」
「ただ、放課後私が読書するためだけの部室になっているわね」
なるほど……だから、川口先生は『幽霊部員でもいい』なんて言っていたのか。
「貴方だってそうでしょう? だって、ここが演劇部だってことすら知らずに来たものね?」
「うっ……」
「大方、貴方も幽霊部員でもいいとか言われたんでしょう?」
「な、何で分かるんだよ……」
完全にバレバレじゃん。
――って、ん? 貴方も……?
「私もそうだったのよ。この学校って、部活に入るのが絶対でしょう?」
「そうだな……」
「それで、入る部活を見付けられなかった私に、川口先生が自分の顧問する部活が廃部になりそうだからと『名前だけでもいいから』って、入部を頼まれたの」
ふーん、そんなことがあったなんて、何かこの部活を廃部にしたくない理由があの先生にはあるのだろうか……?
「しかし、よく引き受けたな……」
なんか、そう言うのって逆に怪しくて入部しなくならないか?
「最初はあまりにもしつこいから『セクハラで訴えますよ』って、言ったのだけどね」
そう言えば先生がそんなことを言ってたなぁ……
あれ、お前のことだったのかよ。
「そういえば、貴方……」
「ん?」
「さっき、先生とのやり取りで『友達とかいらない』って言ってたわよね?」
「……言ったな」
「あれは一体どういう意味かしら?」
ん? 何で黒川はそんなこと聞いて来るんだろう?
そう言えば、あの時こいつに睨まれたっけ。
「いや、別にそのままの意味だけど……」
別に、あの言葉に深い意味なんて無い。
俺にとって『友達』なんてものは……
――いらない。
だから、そう答えたに過ぎない。
「そう……」
黒川はそう言うと、何かを諦めてしまったかのように俺から視線をそらした。
なんだよその反応……。
でも、こいつが何を思っても俺にはそんなこと関係ない。
だから、俺が彼女に返す言葉はこれで
「邪魔したな」
「別に……」
だって、俺は入部するつもりなんて無いのだから……
「安藤くんといったかしら?」
しかし、俺が部室から去る寸前、彼女は言った。
「入部するかは自由よ」
「そうか……」
それでも、俺が再びこの場所に来ることは無いだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
YouTubeにて執筆風景を配信中!
【今回の作業アーカイブ】
https://www.youtube.com/watch?v=YmPVsvIZskk&list=PLKAk6rC5z4mR39sRFDtVHqVqlPwt0WcHB&index=2
詳しくは出井愛のYouTubeチャンネルで!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます