第2話「美少女」
「この教室が部室だ。さぁ、入ってくれ」
「はぁ……」
そう言われ川口先生に案内されたのは、あまり人の気配がしない古びた教室だった。
何だこれ空き教室か? まぁ、とりあえず入ってみるか……。
「失礼します」
「……だれ?」
ドアを開けると、そこには美少女がいた。
長い黒髪と整った顔立ちが印象的な美少女だ。どうやら、ここが部室というは本当のことだったらしい。しかし、おかしいことに教室には彼女一人しかおらず、その彼女も本を読んでいるだけで特に部活動らしいことをしている気配がない。
てか、よく考えたらここが何部なのかさえまだ聞いてなかったな……。
「……誰かと聞いているのだけど、早く答えてくれるかしら?」
そんなことを考えていると、目の前の美少女がやや厳しい目つきで問い詰めてきた。どうやら、かなり警戒されているようだ。
というか『誰?』って、こっちが聞きたいんだが……。
「ちょっと、先生……」
なので『説明しろ』という意味を込めて、後ろにいる川口先生にすべて丸投げした。こういうのは信用がある相手に説明してもらうのが一番だろう。
まぁ、さっきまでのやり取りでこの先生に生徒からの信用があるのかは怪しいけどな。
「部活見学で連れてきた転校生の安藤だ。同じクラスなんだし知っているだろ?」
俺の意図をくみ取ってくれたのか、川口先生は簡単に事情を説明してくれた。
しかし、先生のその説明を聞いて、俺と彼女は同時に口を開いた。
「「え、同じクラス……?」」
まさか、クラスメイトだとは思わなった。
「君達……何でクラスメイトなのに覚えていないんだ……」
「いや、俺は転校して来たばっかりですよ? クラスメイトの顔なんて全然覚えてませんよ」
「むしろ、君の場合は覚える気すらないように思えるが?」
「暗記問題は苦手なんですよ……」
てか、転校生の俺はまだしも、この女は何で転校してきたばっかりのクラスメイトに気づかないんですかね……?
「て、転校生がいたのは覚えてますが、顔までは覚えてません。それに顏も地味だし……」
俺の視線を感じとったのか、彼女はそう言うと俺の顔を見ないようにそっぽを向いた。
……てか、顏も地味とか言う必要ないよね?
「先生、この失礼な女は誰なんですか」
「はぁ、クラスメイトだと言ったはずだが……彼女は
へー、こいつの名前は黒川というのか……ん?
てか、演劇部……?
「ここ演劇部だったんですか……」
そのわりには部室に演劇部らしき小道具も何も無いな……。
一人で本を読んでたから、てっきり文芸部か何かだと思ってたぞ。
「それで、他の部員は休みですか?」
すると、黒川が簡潔に――、
「いないわ」
「は?」
と答え、続けて川口先生が――、
「安藤、悪いな。この部活は部員が一人しかいないんだ」
「……は?」
――と答えた。見事な連係プレイだ。主演女優賞と助演女優賞をやるから、嘘だと言ってくれないですかね……?
てか、そのセリフ何処のス●夫だよ。
「もしかして……貴方、知らないで見学に来たの?」
「まぁ、言われなかったからな……」
「そう言えば、言わなかったな……」
ほら、川口先生もこう言っているだろ?
だから、俺は悪くない。
「……はぁ、ふざけているのかしら?」
「文句があるなら、先生に行ってくれ」
俺を連れて来たのはこの人だからな。
「まぁまぁ、クラスメイトなんだ。友達になるいいきっかけだと思わないか?」
「と、友達……」
「いや、俺は友達とかいらないんで……」
「……はぁ?」
うおっ! なんか黒川に睨まれた!? 俺、なんか変なこと言ったか?
何こいつ? 怖っ……。
「てか、先生……。これのどこがハーレムなんですか?」
黒川の突き刺すような視線から逃げながら、俺が小声で問いかけると、川口先生は口元をニマニマさせながら質問を返してきた。
「なんだ? 君もなんだかんだ言って期待していたのか?」
「ち、違います……。ただ、俺の中の小さな名探偵が真実をしりたがっているだけです」
思春期の男子高校生は皆、見た目は子供でも、中身は大人なんだよ。
「そうか。なら、もう一度この部室をよく見るんだな」
「この部室を……?」
すると、川口先生は黒川と自分を指さしながらこう言った。
「可愛らしい『美少女』が二人もいるじゃないか?」
「…………」
ツッコんだら負けなのだろうか……?
開いた口が塞がらないとは、まさにこの状況を言うのだろう。
「どうだ、これでハーレムだろ?」
ひでぇ、まるで詐欺にあった気分だぜ……。
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