第25話 憧憬
「ねぇ、紗智」
熱い太陽の光と、うるさい蝉の声。
「どうしたんだよ、恵美」
あの時、俺たちはお互いがいればそれでよかった。
「好きだよ」
世界は二人で完結していた。
「俺も」
一緒にいれれば、他のことなんでどうでもよかった。
「幸せにしてね」
学校のことも、家族のことも、将来のことも、自分が大人になることだって、全てを忘れられた。
「うん」
あの頃は、本当にそれだけでよかった。
――でも、生きていくためにはそれだけでは。
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