第5話 夏の朝のラジオ体操
早朝でも、蝉は昼と変わらずうるさいが、日差しは幾分かマシだ。
俺は睡眠不足で動かない体を無理やりこき使って、夏休みの日課となっている町内会のラジオ体操に来ていた。
単調で繰り返しの作業だが、朝に体を動かすことで頭はスッキリと冴える。
ラジオ体操を終えて、スタンプを貰う列に並ぶ。
「小倉君、皆勤賞で偉いねぇ」
スタンプ係の人にそんなことを言われた。
軽く会釈し、公園から出ていこうとすると、草むらからこちらを見ている何者かを見つけた。
隠れているつもりではいるのだろうが、綺麗な金髪が光を反射して輝いているので、バレバレだ。
昨晩見たばかりの顔であるルナ=クリムゾンは、俺と視線が合うやいなや草むらから飛び出して、こちらに向かってきた。
「おはようございます! 紗智さん!」
相変わらず元気な挨拶だった。
太陽の下で見ると、長い金髪が映えていて、昨日とはまた違った印象を受けた。彼女と一緒にいるだけで目立ちそうだ。
「ご近所さんの皆さんに見られちゃうよ」
俺が住んでいる街はそんなに都会ではないため、彼女のような金髪は珍しい。こんなに綺麗な女性と一緒に歩いていたら噂になってしまうかもしれない。
友達や知り合いに、サキュバスに言い寄られていることをなんて説明すればいいのか、今の俺には全く思いつかないので、できるだけ彼女の存在は周りには隠したかった。
風が吹いて、近くの木が揺れた。葉っぱの影が動く。
ルナは俺の質問に、自信満々に答えた。
「魔法で皆さんには見えないようになっています!」
そう言ってルナは、スタンプの列まで走って行った。何をするのかと思えば、待っている人と人の間に手を入れている。
「ほら、この通り!」
確かに、誰もルナの方向を見てはいなかった。
「ま、魔法なんて使えるんだね……」
改めて、彼女が人間の理解を超越した魔族だということを思い知った。
「サキュバスですから!」
こちらに戻ってきて胸を張る彼女に、胸は無い。どことなく虚しい。
「じゃあ、なんで俺は見えてるの?」
その人に見えなくなる魔法は、特定の人だけには見えるようにかける、なんていう細かい調整もできるのだろうか。
しかし、どうしてかルナは俺の質問を聞くと、体をモジモジさせ始めた。
何か、勘違いをされている気がした。
「好きな人には、見て欲しいじゃないですか……」
「じゃあなんで隠れてたの!?」
案の定だった。
彼女と他愛もない話をしながら考える。
どうすれば、彼女を傷つけることなく振ることができるのかということを。
「えへへ、それは気まぐれってやつです。魔界で四年間勉強をして、男性は行動が読めない女性が好きだということを学びました!」
「そりゃまた……。偏った情報だよ」
もしかしたら、魔界のことを知れば何か思いつくかもしれない。魔界に、ルナのタイプの人がいるかもしれない。
「これは偏った情報なんですか?」
俺はそう思って、彼女に魔界の話を聞こうと思った。
「そうだよ。魔界って、本当にちゃんと人間界の情報行ってるの?」
「来てますよ! 魔界のこと、知りたいですか?」
これは好都合だ。魔界のことを知りたいと思っていたら、どうやらルナから話してもらえるらしかった。
俺は二つ返事で頷いた。
ルナの口がニヤリと笑った。
「じゃあ、教えるので、付いてきてください」
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