最終話 新月の夜に浮かぶ月

「紗智さん、ありがとうございました」

 ベンチに座りながら、寝ている恵美に膝枕している菫さんは、俺にそう言った。

「い、いえいえ。俺は別に何も……」

 本当に俺は何もしていない。

 ただ、日付が変わる前に恵美を人間に戻せたことが、本当に嬉しかった。

「紗智さーん! たった今魔界から正式に、デーモンを確保するという旨のメッセージが届きました! これにて一件落着です!」

 ルナが俺に敬礼をする。

 そんな彼女に近づいて、頭を撫でた。

「本当に、ありがとう」

 彼女がいなかったら、恵美の救出はなしえなかったし、彼女がいなければ俺は、変わろうともしなかった。

 ルナは俺の人生を変えてくれた、恩人だ。

「こういうときだけ、本当にずるいですよ。もう。……あの時の続きです。もう少し撫でておいてください。あと、ちゃんと足をいたわってあげてくださいね」

 そう。俺の足は今、重症を負っている。魔族化していた恵美の爪にえぐられたからだ。

 傷ついた左足を庇っているので、重心がちょっと右に寄った状態で恵美のことを撫でていた。

 傍から見れば、少し情けない。

 辺りは暗くて、恵美と初めて会ったのも、真夜中だった。

 月は、出ていない。今日は、新月の夜だからだ。

 目の前の、綺麗に輝く金髪を持つ、紅瞳の、いつもテンションが高くて、貧乳で、そして誰よりも頼りになるサキュバスに、俺は言う。

「月みたいに、綺麗だ」

 いつかの彼女は、月が綺麗ですね、という日本人の感性は自分に合わないと言っていた。だから、それに合わせてみたつもりで言ったのだが……。

 言われた彼女自身は、しばらく悩んだのち。

「五〇点、ですかねぇ……」

 と、厳しい採点をした。

「え、そ、そんなもんなの?」

 間髪入れず、彼女は自身の頭を俺の胸に預けてくる。

「ま、好きな人から言われたら、なんでも嬉しいんですけどね」

 俺は多分、ルナには一生勝てないのだと思う。

 胸の中にいる小さい頑張り屋を、俺はそっと抱きしめた。

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貧乳サキュバスは魅了したい! 鵙の頭 @NoZooMe

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